お休みとわたし
宿に帰ってきました。
やはり背丈より大きな戦斧を担いだ女の子は目立ちます。
街の視線を独り占めでした。くふふ。
翌朝、宿のベットで目を覚ましました。
お金が出来たので部屋は一週間とってあります。
今日はギルドに行くつもりは有りません。
お休みです。自由業万歳!
わたしは二度寝で至福の時間を過ごす事にしたのです。
しかし、一日中寝ている訳にも行きません。
「う~、そろそろ起きなければいけませんね」
早くしないと朝食の時間が終わってしまいます。
わたしは、まぶたを擦りながら階段を降り、食堂に入ります。
どうやら間に合った様ですね。
「おはようございます」
「おう、おはようさん」
「おはようございます。
ユウさん、今日はゆっくりですね」
「ここ数日は依頼を受けて忙しくしていましたからね。今日はお休みです」
宿の主人で料理人のトムさんと看板娘のミーナさんに挨拶して朝食を頂きます。
女将さんのミオさんは買い出しにでも出ているのでしょうか?
今日の朝食はハムエッグと野菜のスープそれとパンです。
トムさんの料理は美味しいのですが………お米が食べたいです。
お腹が膨れたので行動する事にしましょう!
前の採取依頼で取って置いた薬草を使って自分用のポーションを作ります。
わたしが朝食を食べている時に帰ってきたミオさんに、裏庭を使う許可を貰いました。
部屋で調合すると臭いが付くといけません。
タライに魔法で水を出して素材を洗っていきます。
作るのは各種ポーションと傷薬や頭痛薬などの常備薬です。
ポーションとはいわゆる魔法薬のことです。使用すると直ぐに効果が現れる魔法のお薬です。
作成するには素材に魔力を付与する作業をしなければなりません。
傷薬は薬草などの自然の薬効を使った薬です。これは地球の薬と同じですね。
手持ちの素材で作れる薬をさくさく作っていきます。
「ん?もうこんな時間ですか」
かなり集中していたのか、気がつくともうお昼を過ぎていました。
意識するとお腹が空きます。休憩にしましょう。
ロック鳥のさえずり亭は家族経営の宿で、従業員は多く有りません。
その為、食堂は宿泊客のみの朝と、酒場として営業している夜しか開いていません。
つまり、わたしは昼食を食べに外に出なければいけないと言う事です。
中庭から食堂に入るとミオさんとミーナさんが居ました。
ミーナさんは水を貯めたタライに手を突っ込んでいます。
なにをしているのでしょうか?
「ミーナさんどうしたんですか?
水に手を突っ込んだりして?」
「ユ、ユウさん、えっと、あの、これはですね……」
言い淀むミーナさんに苦笑しながらミオさんが口を挟んで来ました。
「すみませんユウさん。今日、うちの宿でコロチが出まして」
「あぁ、ミーナさん刺されてしまったんですか」
コロチとは害虫の一種です。
ゴキと蜂を足して2で割った様な存在です。
弱い毒を持っていて、刺されてしまうと2、3日痛みます。
「退治しようとして刺されてしまったらしくて」
「それは大変ですね。
ミーナさん良かったらこの薬を使って下さい。水で流しただけでは毒が残りますから」
「え、良いんですか?」
「どうぞ。このままだと2、3日痛みますよ」
わたしは出来たばかりのポーションを渡しました。
昆虫系の毒に良く効き、弱い治癒効果がある奴です。
べ、別に実験台とかじゃないんだからね!
「ありがとうございます」
ミーナさんは薬を受け取ると刺された場所に塗り込みました。
すると赤く腫れ上がっていたのがみるみる引いていきます。
おぉ!我ながらすごいです。地球の薬では有りえない効果に驚きです。
ジークさんの時はまじまじと観察する余裕は有りませんでしたからね。
しかし、わたし以上に驚いていたのはミーナさんとミオさんでした。
「え?ユ、ユウさん!この薬、魔法薬じゃないですか!?」
「そうですよ」
「そんな!こんな高価な薬を頂く訳にはいきませんよ」
「気にしないで下さい。
森で材料を取ってきてわたしが調合した物ですから。原価はタダです」
わたしの言葉に2人とも驚いています。
「いつもお世話になってますからね。これくらい問題ないですよ」
「ありがとうございます、ユウさん」
「娘がお世話になりました。
ユウさんの分の夕飯、一品おまけしますね」
「おぉ、ありがとうございます。
あ、そうだ、良かったら殺虫香を調合しますよ。強力な奴を」
「お香ですか?」
「はい。10分程焚いておけば部屋中の虫は死にます。
大抵の虫には効果があるはずです」
「なるほど。………では、お願いしても良いですか?勿論、代金はお支払いしますので」
「はい。お任せ下さい。お安くしておきますよ」
さて殺虫香を作るには足りない材料が有りますね。
お昼を食べるついでに市場に行って買い揃えましょう。