香辛料とわたし
帝都から出発して数日、わたしはいくつかの村を中継して、ガスタの街に帰って来ました。
「ん? ユウちゃんか、お帰り……その眼はどうしたんだ⁉︎」
「ふふふ、帝国で手に入れたマジックアイテムですよ。
完治したわけではありませんけど」
「それにしたってちゃんと見えているんだろ?十分じゃねぇか」
「そうですね。
魔力を消費する以外には何も問題はありません」
「そうか、良かったな!」
この衛兵さんと同じやり取りはこれから何度も繰り返す事になるのでした。
「ユウお姉さん、これなんですか?」
「見た所かなり辛そうだな」
バントさんとヨナちゃんがわたしの手元の鍋を覗き込みます。
タバサさんの経過を診に来たわたしは、閉店後の風切羽の厨房で帝国で大量に購入して来た香辛料を使いアレを作っています。
そう、勿論カレーです。
ライスは有りませんがパンにつけても十分美味しいです。
タバサさんは順調に回復して、もうすぐ薬も必要なくなるでしょう。
わたしはカレーが満たされた鍋を気分良く、ぐるぐるとかき混ぜます。
多くの作品で異世界に転移した日本人は、香辛料が豊富な国(何故かだいたい砂漠 byわたし調べ)に行くとカレーを作ろうと試みて、その難易度に挫折します。
中には既にカレー的な料理が存在したり、ズブの素人である主人公がいとも容易くカレーを完成させるご都合主義の作品も存在しますが、わたしは嫌いではありません。
そして、わたしは一時期カレー作りにハマっていた為、カレーの作成が可能なのです。
「これはスープか?」
「スープにする事も出来ますよ。
これはカレーと言って、わたしの故郷でとても人気がある料理です。
なかの具を変える事で様々な姿に変化する素晴らしい料理です」
「つまり、工夫次第で色々な事が出来るという事か」
「そうです。
この料理を習得すれば風切羽の目玉料理になるに違いありません」
「しかし、香辛料は高いからなぁ」
「帝国ならそれなりの値段で香辛料を手に入れる事が出来ますよ」
「だが、この街まで香辛料を運べばかなりの値段になるぞ?」
辺境であるガスタの街は魔境や危険地帯の産物で豊かですが、他の街からの輸入品は割高になります。
交通機関の発達した現代日本に比べるまでも無く輸送費が掛かるのです。
香辛料の値段、護衛の報酬、輸送隊の食費などです。
「それなら問題有りません。
わたしなら数日で帝国に行く事が出来ます」
「本当に良いのか? 色々と助けて貰っているのに、手間を掛ける事になるぞ」
「たいした手間では有りませんよ。
その代わり、美味しいカレーを作って下さいね」
「ああ、任せてくれ」
「ねぇ、ユウお姉さん、もう食べてもいい?」
「あ、すみません、ヨナちゃん。
早速食べましょう」
わたしのカレーは異世界の人々に大変好評でした。




