褒美とわたし
「勇者は日本人だったのですか?」
「ああ、本人から聞いたから間違いない。
容姿もお主と同じ、黒髪に黒い瞳、年の割に幼く見えたからな。
まぁ、ガキ扱いされると怒るんだがな」
「その気持ちはよく分かります。
この世界の人たちは大き過ぎます」
「はっはっは、あやつも同じ事を言っておったよ」
わたしが500年前の転移者に共感していると、遠くの建物から騎士さんが1人中庭に現れてこちらに駆けてきます。
「シグナム様、こちらでしたか。
馬車のご用意が出来ました、直ぐにでも出発できます」
「そうか、すぐに行く。
済まぬの、時間じゃ。
また話せる事を楽しみにしておるよ」
「はい、その時は是非、勇者との冒険のお話をお聞かせ頂きたいです」
「ほっほっほ、そう言ってくれるとは嬉しいな。
では、その時まで生きていなければならんな」
笑いながらそう言うとシグナム様は騎士さんに付いて立ち去って行きました。
良い感じに時間も潰せたのでわたしも部屋に戻りましょう。
翌日、皇帝陛下と共に昼食を頂いた後、報酬をくれると言うので応接室までホイホイ付いて行きました。
皇帝陛下と向き合って座ると陛下は居住まいを正し、凛とした空気を作ります。
「では改めて、ユウ殿。
貴殿の此度の働き、誠に見事であった。
約束通り、その働きに見合うだけの褒美を取らせる」
皇帝陛下がそう口にするとヤナンさんとマリサさんが音も無く、スッとトレイに載せた物を皇帝陛下の前に置きました。
見事な連携ですね。
練習したのでしょうか?
「流石に皇位継承権を持つ者の命を救って貰った恩に見合うだけの物は難しい。
そこで、複数の物を用意した。
先ずはコレだな」
わたしは皇帝陛下から革袋を受け取りました。
コレは……お金ですね。
「聖金貨5枚分だ。
ユウ殿は大商人と言う訳ではないからな、聖金貨1枚分は金貨で用意した。
つまり、聖金貨4枚と金貨100枚だ」
おお、またわたしの資産が増えました。
聖金貨は最も価値の大きい硬貨です。
白金貨の10倍、日本円にする5000万くらいです。
「あの、コレは多過ぎませんか?
皇位継承権を持っていると言ってもルクスさんは継承権1位と言う訳ではないのですよね?」
「ああ、継承権1位は私の息子だ。
しかし、あのバカ息子は『剣帝』シグナムの英雄譚に感化されてしまってな。
『皇帝になるならば、強く無くてはならない』と言って武者修行の旅に出てしまったのだ。
偶に手紙は届くのだが、今は何処で何をしているのか……無事に戻るかも分からんのだ。
私とルーイドの歳は1つ違い、私が皇位を退く時にはルーイドも引退間近で有ろう。
だからルクスは実質、皇位継承権2位、いや1.5位くらいなのだ」
複雑な問題が出来ました。
と言うかそれで良いのか、第一皇子!
「陛下にはお子様は第一皇子様しかいらっしゃらないのですか?」
「ああ、私の家系はエルフの血を引いているからか、代々あまり子宝に恵まれないのだ」
「大変ですね」
「うむ、それなのにあのバカ息子ときたら……」
皇帝陛下が少し落ち込んでしまいました。
「まぁ良い、続きだ。
これをユウ殿に与えよう」
皇帝陛下から差し出されたのはスマホくらいの大きさのカードです。
表面に帝国の紋章と優美な装飾が彫り込まれています。
「それが有れば帝国に入国する時の手続きを免除される。
帝都や各都市に入る時のチェックも同様に免除され、また、この城に自由に出入りする事が出来る」
「そ、それは……大丈夫なんですか?」
「ユウ殿への信頼の証だ。
それにユウ殿なら奪われるなどあり得ないだろう」
「それは、そうですが……」
「それに、打算もある。
それが有ればユウ殿に帝国に来てもらいやすい上、ともすれば拠点を置いて貰えると嬉しいと言う下心もある」
「なるほど、今の所拠点を移す気は有りませんがコレは頂いて置きます」
「うむ、さて次の品が最後だ。
受け取ってくれ」
そう言って皇帝陛下は最後に残っていた物の上に掛かっていた布を勢い良く取り去りました。
「こ、コレは⁉︎」




