昇格とわたし
ガナの街の街に帰ってました。
東門でギルドカードを見せて街に入ります。
ギルドに向かう前に宿屋を取りましょう。部屋が埋まってしまうかも知れません。
「また、一泊お願いします」
わたしは小銀貨を2枚差し出しました。
「ありがとうございます。前と同じ部屋が空いていますよ」
宿屋の娘さんが鍵を渡そうとしてくれましたが、わたしはそれを断わります。
「少しギルドに用事が有りますので鍵は後でいただきます」
「分かりました」
宿屋を後にするとギルドへと脚を向けます。
ギルドの軋むスイングドアを抜けるといくつもの視線を感じます。
「ガキが何の用だ」
ニヤニヤしながら下品を絵に描いたような巨漢が声をかけて来ました。
お約束は昨日やりましたの今日はもういいです。
昨日同様、男を無視してラティさんの居るカウンターに向かいます。
「おい、聞いてんのか!」
するとわたしに無視された男が顔を真っ赤にして、肩を掴んで来ました。どうしてこんなに沸点が低いのでしょうか?きっと前世は瞬間湯沸かし器とかに違い有りません。
「邪魔ですよ」
ドガ
わたしの拳がニヤニヤ男の隙だらけのボディに吸い込まれ、男は意識を手放し、崩れ落ちてしまいました。
小さなわたしの一撃で巨漢が声も出せず気絶した事に、こちらを窺っていた野次馬達も唖然としています。
よし!舐められない様に、ここでクールな一言を決めておきましょう。
「わたしに声をかけたいなら、もう少しマナーを身に付けて来て下しゃい」
………噛んだぁぁあぁ!!
なんと言う事でましょう!
この大事な場面で!
わたし、痛恨のミスです。
野次馬達の生暖かい感じの視線に耐えながら少し頬を赤くしたわたしは平静を装い、生暖かい目をしたラティさんに報告を行います。
「お疲れ様です。問題は有りませんでしたか?」
「それが、ゴブリンは30匹以上居たんですよ」
「ほっ本当ですか!?
30匹以上の群れなら上位種が居る可能性が高いです。
直ぐに討伐に向かう冒険者を集めないと!」
「いえ。既に全部討伐して有ります。群れを率いていたのはホブゴブリンでした」
「ぜ、全部討伐したんですか?」
「はい。これが討伐証明と魔石です。
依頼の完了と魔石の買取、それと序でに採取した薬草やキノコも買取をお願いします」
わたしはカバンから取り出した様に見えるようゴブリンの右耳と魔石、薬草やキノコを取り出しました。
高価では有りますが見た目以上に物を入れることの出来るマジックバッグと言うマジックアイテムは一般に流通しています。
上位の冒険者や商人なら大抵は持っています。
物語ではアイテムボックスが知られたら騒ぎになると言うのが定番です。
こうしておけば、皆ただのマジックバックだと思ってくれるでしょう。
「たしかにホブゴブリンの耳です。
本当にユウさんが1人で討伐したのですか?」
「はい。わたしの従魔は戦闘系ではないので闘ったのはわたし1人ですよ」
「ギルドマスターが認めるわけですね。
では、ギルドカードをお預かりします。
魔石や素材の買取の査定をしますので座っておまちください」
わたしは査定が終るまでカウンターの隅にある椅子に座って待ちました。
10分くらいしてラティさんに呼ばれカウンターに行くと報酬と売却金を受け取ります。
「まず依頼の報酬が小銀貨3枚、依頼以外のゴブリンは常時依頼扱いで1匹につき銅貨5枚、28匹分で銀貨1枚と小銀貨4枚、ホブゴブリンは小銀貨6枚で薬草とキノコは全部で銀貨1枚と銅貨3枚です。合計で銀貨3枚、小銀貨3枚、銅貨3枚になります」
ラティさんから硬貨を受け取ります。
新人冒険者の稼ぎとしては中々の物です。
「それからユウさんはギルドランクがEに上がりました」
わたしのギルドランクが上がったようです。しかもF、Gランクを飛ばしていきなりEランクです。
ラティさんに聞くと、稀に冒険者になる前に兵士や狩人だったりすると、低ランクとは言えない実力を持つ人が居る時が有るそうです。
そんな人達が低ランクにいると実力の低い人達の仕事を奪ってしまう為、ギルドマスターの許可があれば、ある程度ランクを上げてしまうらしいです。
兎に角これでわたしはEランク冒険者です。Dランクまでの依頼が受けられます。
わたしはラティさんから受け取ったギルドカードを懐に仕舞う振りをしてアイテムボックスに仕舞い、お礼を言ってギルドを後にしました。
冒険者達とギルド職員の生暖かい視線を受けながら。
泣きたいです。




