鱗とわたし
「うっ!」
わたしが目を覚ますと、そこは湖の畔のひらけた場所でした。
「キュッ」
「オリオン…………そうでした、撤退したんでしたね。
ありがとうございます、助かりました」
わたしはオリオンの頭を撫でてあげながらお礼を言います。
オリオンが従魔で助かりました。
もし、幻獣や精霊獣などで有ればわたしが意識を失った時点で魔力の供給が断たれ消えてしまう所でした。
【幻獣召喚】や【精霊獣召喚】とは本来、霊的な存在である幻獣や精霊獣と従魔契約を交わし、魔力を与える事で幻界や精霊界からこの世界に召喚する事が出来るものです。
しかし、【従魔召喚】はこの世界の別の場所から自分のいる場所に呼んだり、送り返したりする魔法です。
【幻獣召喚】や【精霊獣召喚】と違い、召喚するときと送還するときに魔力が必要とするだけで、存在を維持する為の魔力は必要ないのです。
「いっつつ!」
取り敢えず傷の手当てをしましょう。
外傷は高品質の治癒ポーションを湯水の様に使い治癒して行きます。
あとは魔力ですね。
魔力は魔力回復ポーションか睡眠や休息によって回復します。
現在は最大値の半分くらいでしょうか。
魔力回復ポーションは温存して、自然回復に任せましょう。
「さて、現在地は……」
地図を取り出して遠くに見える山や近くを流れる川から現在地を確認します。
どうやら、岩石地帯からそれなりに離れた場所の様ですね。
わたしはアイテムボックスから作り置いたシチューやパン、串焼きなどを取り出しお腹を満たします。
オリオンにもワイバーンのお肉の塊を出してあげました。
食事を取りながらグランアイズの攻略法を考えます。
まず、あのとんでも無く高い防御力です。
あの防御力を貫くにはわたしの最大の攻撃である8層の魔力凝縮で可能かどうかと言った所です。
しかし、8層もの魔力を凝縮するには数分の『タメ』が必要です。
ナーガに使った時はザシさん達が時間を稼いでくれたので可能でしたが、今回はわたし1人なので、数分の間集中して魔力を凝縮する暇は有りません。
凝縮に掛かる時間を短縮するには、時間を掛けて魔力操作の修行をするしかないのです。
毎日、魔力を循環させて魔力操作を高めていたので、ナーガの時よりは素早く魔力を凝縮できる筈ですが、それでもやはり数分は掛かるでしょう。
オリオンやデネブに時間を稼いで貰うと言う手も有りますが、わたしの従魔はどちらかと言えば魔法系です。
1番強いオリオンでも、グランアイズにパワーでは勝てませんし、グランアイズにサンダーブレスは殆ど効果が有りません。
相性が悪いのです。
思えば、わたしの攻撃方法は基本的に力任せの攻撃ばかりです。
グランアイズの高い防御力を貫けない以上、何か別の攻撃方法を考えるしか有りません。
グランアイズの攻撃は爪や尻尾に魔力を凝縮させる事で高い威力を実現せています。
基礎魔力が高いので短時間での凝縮が可能なのでしょう。
わたしだって水龍の戦斧の様な大きなものでは無く、小さな物になら短時間で殆ど集中する事もなく魔力を凝縮できます。
近くに落ちていた木の葉を拾い、魔力を凝縮します。
大した集中力も必要とせず、木の葉は淡く輝き始めました。
「ん?う~~ん?」
あれ?
コレはもしかして使えるかも知れません。
「オリオン、魔物が来たら護って下さい」
「キュッ!」
オリオンに見張りを任せて、わたしは座禅を組み、集中して自分の中でイメージを創り上げて行きます。
座禅に意味は有りません。
何と無くです。
グランアイズの討伐期限まであと8日、今から魔力操作を高めるのは現実的では有りません。
ならば、戦技の要領でイメージを固め、新たな技を完成するしか有りません。
6日後、まだ不完全ながら一応、技は使用可能な程度には完成しました。
グランアイズの討伐期限は明日までです。
討伐期限が切れると依頼は失敗となり、別の冒険者に依頼が移ります。
戦闘時間を考えると今日が最後のチャンスです。
わたしはグランアイズの前に姿を見せ、水龍の戦斧を構えました。
「グルルゥ!」
咆哮を上げるグランアイズを前にわたしは新たに会得した技を使います。
「【光鱗】」
数日の瞑想によって固められたイメージにより、技名を口にすると殆ど集中する事なく魔力が凝縮されます。
特に触媒を使う事なく親指の爪くらいの大きさの薄くて小さな形に凝縮した鱗状の魔力が、わたしの周りに無数に現れます。
「【魔装:鱗鎧】」
魔力でできた光の鱗がわたしの胸や手首などの要所へと集り鎧が形成されます。
胸当てや手甲、脛当てなどの部分鎧をイメージした物です。
わたしの周りには余った光の鱗が無数に浮遊しています。
コレで準備完了です。
「さて、今度こそ決着を「グルルゥ!」しょう!」
またセリフが被りました!




