巨木とわたし
誤字報告ありがとうございます。
m(_ _)m
昨日、海賊共がラグラーナに襲われた海域にポツンと浮かんだ海賊船……いえ、今はわたしの船です。
海賊旗も外したので、ただの大きな帆船ですね。
船の中に居るのはわたしとオリオンだけです。
囮に使うこの船は、恐らく破壊されてしまうでしょう。
せっかく手に入れた船ですが、仕方ありません。
高くはありませんが船の代金をラクガン子爵様が支払ってくれるそうですし、また適当な海賊から奪えば良いですよね。
燦々と降り注ぐ太陽の光を反射して、キラキラと光り輝く穏やかな海を見つめます。
………………………暇です。
もう、3時間くらいここで海を見つめています。
ラグラーナは現れませんね。
すでにこの海域から出て行ったのでしょうか?
冒険者ギルドの副ギルドマスターが調べた情報では、ラグラーナ……ブレードフィッシュは魔境の海、魔海に生息する魔物らしいです。
「暇ですねぇ」
わたしが12回目の「暇ですねぇ」をつぶやいた時です。
わたしの視界に巨大な影が現れました。
すごいスピードでこちらに近づいて来ます。
「来ましたか!」
わたしは空に向けてファイアーボールを撃ち上げます。
あまり使い慣れない魔法なので洗練されているとは言えませんが、今回はただの合図ですから、まぁ良いでしょう。
「オリオン、お願いします!」
「キュッ!」
オリオンは、ロープを括り付けた木材を掴むと、力強く羽ばたいて入江を目指して飛び立ちました。
オリオンの引くロープはフィギュアヘッドにしっかりと結ばれていて、船はぐんぐんと速度を上げ、入江に向かって進んで行きます。
いくらサンダーバードとはいえ、本来なら水の抵抗を受けてこんなスピードで船を引く事などできるはずがありません。
しかし、わたしが水属性魔法で水の抵抗を抑えている為、オリオンは滑車を引くように軽く船を引く事ができます。
わたしは魔法を維持しながら船尾に回ると、目を凝らしてラグラーナの現在地を見つめます。
すると水中から鋭く巨大な背ビレが顔を出しました。
ラグラーナは水を切り裂くように、迫って来ます。
「予想より速いですね」
入江が見えて来ましたが、このペースでは、入江に入る前に追いつかれてしまいます。
「全ての命の 源たる水よ 我が意のままに【コントロールウォーター】」
魔法を維持しながら別の魔法を展開するのはかなりの精神力が必要ですし、魔力の消費効率も良くないのであまり使いたくは無かったのですが、ここで追いつかれてしまっては意味が有りません。
わたしは水(正確には液体)を操る魔法を使い、船の後ろをついて来るラグラーナに逆向きになるように水の流れを作ります。
ラグラーナは逆流の中を少しスピードが落ちたものの問題なくこちらを追って来ます。
ですが、このスピードなら何とかなりそうです。
数分後、ラグラーナはわたしの船のすぐ後ろにまで迫っていました。
しかし、もう入江に入る所です。
ギリギリでした。
入江に入った瞬間、わたしは跳躍しオリオンの持つロープに掴まると、船のフィギュアヘッドに繋がるロープを切断しました。
その瞬間、わたしの船は鋭い背ビレによって真っ二つになってしまいました。
わたしもよく真っ二つにしますが、真っ二つされるのは勘弁して欲しいです。
わたしは、ラグラーナが入江に入った事を確認すると再びファイアーボールを撃ち上げます。
それを合図にドミニクさんとトロンさんは土属性魔法で入江を封鎖に掛かってくれる手筈になっています。
バシャババシャ!
お! ラグラーナが閉じ込められようとしている事を悟ったようです。
魚の癖になかなか頭が良いですね。
「凍てつき 連なれ 【アイスピラー】」
わたしはラグラーナの周りにいくつもの氷の柱を作ります。
時間稼ぎにしかなりませんが、封鎖が完了するまで持てば十分です。
ドミニクさんとトロンさん、そして、集められた土属性魔法を使える魔法使いの皆さんの頑張りにより、とうとう入江は封鎖され、巨大な池が出来上がりました。
しかし、ただ土を盛っただけの壁では、巨大なラグラーナの体当たりで突破されるかも知れません。
そこで、わたしはオリオンに出来たばかりの土壁まで飛んでもらい、アイテムボックスから取り出したトレントの魔石を土壁に投げつけました。
「生い茂る緑の子らよ 大地を掴め【グロウプラント】」
トレントの魔石を触媒にした木属性魔法は即興にしてはなかなかいい感じです。
魔法で作り出した木は現在、20メートルを越える巨木に成長しています。
その巨木の根は土壁に絡み付いて頑強に補強してくれています。
しかし、こんな所に巨大な木を出して良かったのでしょうか?
マングローブの一種に海水でも育つ物が有ったと思います。
それをイメージして魔法を使ったのですが、イメージが曖昧だったせいか、見たことのない木に成りました。
ラグラーナ討伐が終わったら一応調べておきましょう。
頭の片隅でそんな事を考えながら、わたしは入江の中心部で水しぶきを上げているラグラーナの手前に飛び降りるのでした。




