影とわたし
「これが討伐証明と、賞金首の懸賞金だ」
「ありがとうございます」
ミルガンの街の衛兵の詰所で、捕まっていた人達を保護して貰い、頭目を引き渡して懸賞金と海賊討伐を証明する書類を貰いました。
この書類をギルドに提出すれば依頼は成功と成ります。
「しかし、凄いな。
まさか1日の内に水上の虎団とダスト海賊団を討伐するとは驚いたよ」
「優秀な従魔がいるのですよ」
「サンダーバードだったか?
Aランクの魔物をティムするなんて一体どんな魔法を使ったんだ?」
「タマゴから育てたのですよ。
この国でも、竜騎士はワイバーンを同じ様にタマゴから育てると聞きましたよ?」
「確かにその話は聞いた事があるな」
「それと同じですよ」
「なるほどな、ところで、またこれから討伐に出るのか?」
「はい、まだエミット一家が残っていますし、小さな海賊団も、もう2つ、3つ程沈めておきたいですからね」
「高ランク冒険者は言う事が違うな。
気をつけて行けよ」
「はい、では、わたしはこれで」
衛兵の詰所を出ると海に出る為に港を目指します。
「おう、嬢ちゃん! 嬢ちゃんがあの海賊共を退治してくれたんだってな!
ありがとな!ほら、コレ持ってきな」
「わぁ、ありがとうございます」
屋台で貝の串焼きを売っていたおじさんが串焼きをくれました。
簀巻きにした頭目を引きずりながら歩いていたので覚えられたのでしょう。
塩で味付けされた貝の串焼きは、濃厚な旨味があり、海の香りが鼻を抜ける、とても美味しい串焼きでした。
あとで、買いに来ましょう。
この海域に来たのもコレで3度目です。
せっかくですので、エミット一家を壊滅させたいです。
わたしが海賊団を討伐した事を街の人達は、とても喜んでくれています。
串焼きをくれた屋台のおじさん以外にも、何人もの人に、道すがらお礼を言われました。
そう考えると、わたしと海賊共はとても良い関係が築けていますね。
海を行く商人さんや漁師さんは安全になり、街の人達は喜び、わたしは儲かる。
誰も損をしない、win-winな関係です。
しばらく海の上で海賊を探していると、ようやくエミット一家の海賊旗を掲げる海賊船を発見しました。
しかし、なんだか様子がおかしいです。
海賊船の横に小型の漁船の様な船がつけられています。
初めは漁船が襲われているのかと思いましたが、海賊船の方から時おり悲鳴や流れ魔法などか上がっているのです。
上空を旋回しながら観察すると、海賊船の上で3人の冒険者が海賊共を倒しています。
今朝、ギルドで出会ったオネェさん達です。
確かAランクパーティ《無垢なる愛》。
どうやら獲物が被ったらしいですね。
彼ら……いえ、彼女らの戦いはドワーフのドミニクさんが大剣で海賊共を薙ぎ払い、リーダーのアイゼンさんがショートソードを左右の手に持つ、二刀流で華麗に戦い、後衛からエルフのトロンさんが強力な魔法を放っています。
その慣れた連係は危なげなく海賊共を蹂躙して行きます。
危なそうなら手を出そうかと思いましたが問題は無さそうですね。
わたしは別の獲物を探すとしましょうか。
その場を離れようとした、その時です。
海から妙な気配が近づいて来たのです。
エミット一家の海賊船とほぼ同じくらいの大きさの巨大な影がかなりのスピードで海賊船に向かって来ます。
わたしの視線が影を追うと、水中から海面にサメの背ビレの様なモノが浮かび上がって来ました。
その背ビレは、鋭い刃の様に見えます。
《無垢なる愛》の3人は戦闘に集中していて、海から迫る魔物に気づいていません。
「不味い!」
わたしが声をかける間も無く魔物の背ビレはエミット一家の海賊船を真っ二つにしてしまったのです。
海賊船の上で戦っていた海賊共と《無垢なる愛》の3人は皆、海に投げ出されてしまいました。
そして、何が起きたのか解らず、溺れかけていた海賊数人を、下から飛び出して来た巨大なサメが一口で食らって行きました。
その時見えた魔物の姿は、身体中に鋭い刃を持った巨大なサメです。
わたしが今まで読んだ本の情報には無い魔物です。
恐らく、新種か珍しく一般にはあまり知られていない魔物だと思います。
魔物はまた、海面にいる人達の方に向かいました。
サメが向かっている場所には海賊達と一緒にアイゼンさんがいます。
「オリオン!」
「キュー」
オリオンに急いでアイゼンさんの下に向かって貰います。
「とうっ!」
オリオンから飛び降りたわたしは、水天の靴に魔力を流すと、アイゼンさんのすぐ前の海面に着地しました。
アイゼンさんが驚いていますが、今は説明している余裕は有りません。
わたしは水龍の戦斧に魔力を4層に重ね、迫り来る魔物に向かって振り下ろしたのです。




