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第二話 神様からのプレゼントはビッグなプレゼント。っていうか、いらないし。

葵ちゃん視点です。


 私、長山葵には大事な先輩がいる。その人の名前は小山春人さん。大学時代のサークルの先輩だ。春人さんは一口に言えば『損をする人』だった。

サークル活動でもそうだった。テニスサークルだった私たちは試合には一生懸命だったが、用具の整備や練習場所の確保、対戦相手との折衝なんかは決して得意……というより、好きでは無かった。だからこそ、春人さんみたいにそういう雑務を一手に引き受けてくれる人は非常に重宝されたし……なにより、春人さんがすることに間違いは無かった。


『あいつは石橋を叩き割って、『な、危ないだろ?』って真面目な顔で言うやつだから』


 春人さんの同級生の先輩が語った春人さん評だ。私たち後輩は飲み会の席で盛り上がっていたにも関わらず、誰も笑わずに『確かに』と頷いた。それぐらい、春人さんの……うーん、なんていうのかな? 危機管理能力とはちょっと違うけど、用意周到さは凄いものだった。

 そして、そんな春人さんは特に下級生に人気があった。用意周到、ということは何かあったときに直ぐに対処できるという事であり、それはつまり周りが見えているという事であり……つまるところ、サークル内で少しでも『浮きそう』な子がいると必ずフォロー出来るという事だから。私だってそうだ。決して前に出るタイプではない私は、サークルの新歓コンパで微妙に乗りの合わないメンバーに疲れていた所を春人さんに救って貰った。救って貰った、と言えば大袈裟かも知れないが、それでも春人さんの気遣いにより、少しだけ周りを見渡す余裕が出来て、仲の良い友達も出来て四年間のサークル活動を無事に終える事が出来たのだ。

 そんな春人さんは大学を卒業後に銀行に入った。『あいつにピッタリだろ?』というこれまた春人さんの同級生の言葉に後輩全員、神妙な顔で頷いたのは記憶に新しい。きっちりと真面目な春人さんが、お堅い銀行員なんて、これ以上ぴったりの職場は無いと思い……そして、私も春人さんと同じ職場で一緒に働きたいと――ううん、気が付けば私は、いつの頃からか春人さんと一緒に居たいと思うほどに、春人さんにベタ惚れだったのだ。別段、運命的な何かがあった訳ではない。無いがしかし、それでもこの人と一緒に生涯を送れるなら、こんな幸せな事はないと、そう、本気で思っていたのだ。


◆◇◆


「……うーん……」

 朝、目が覚めてうーんと背伸び。自分でもメリハリの無い体だな~と思う若干残念なボディーを見渡しながら私はベッドから降りる。猫さんのプリントされたパジャマは少しばかり幼いかも知れないが、お気に入りだ。

「……ふふふ」

 お盆休みの今日、私の頬は少しばかり緩む。だって、今日は平日にも関わらず春人さんが私を飲みに誘ってくれたのだ。残念ながら銀行の試験に落ちた私は、中小企業の経理事務をしている。社員数は十名、アットホームな職場だ。此処を選んだ理由はただ一つ、転勤がなく、ずっと春人さんの側に居れるから。

「春人さんは明日も仕事なのに……で、デート出来るなんて……ふふふ!」

 銀行員さんはカレンダー通り。私は土日も併せての五連休だが、週の中日である今日も明日も春人さんは普通に仕事がある。にも拘らず、私を飲みに誘ってくれるのだ。

「……期待、しても良いのかな?」

 サークルにはもっと可愛い子だっていた。私なんて到底敵わない様な、すごく綺麗な子だっていた。その子たちが、春人さんを『特別』な目で見ているのだって、気付いていた。

「……」

 期待、したい。

 だってだって、金曜日に飲みに連れてって貰うのは私だし、土日に遊びに連れてって貰うのも私だ。私が期待しても、何も間違ってない。間違ってない、ハズだ。

「……と、ともかく! 精一杯オシャレしよう!」

 明日は私の誕生日。ならば、少しぐらいはオシャレを頑張ろう! もしかしたら、春人さんに『可愛いね』『綺麗だね』って言って貰えるかもしれないから!

「よし、そうと決まれ――」

 そう思い、ふと目の前の鏡台の端の方、袋に入れられたままの『ソレ』に目が留まった。

「……そっか。確か発表、今日だったわね」

『葵ちゃんも買ってみなよ。運試し、運試し』と社長に言われて買った宝くじ。『葵ちゃんの誕生日の前日が発表だからさ? もしかしたら葵ちゃんに神様から誕生日プレゼントがあるかもよ?』なんて言葉を思い出す。

「……そうだよね~。もしかしたら誕生日プレゼント、貰えるかも」

 別に高額当選なんて望んじゃない。仮に外れても『もー、社長~。全然外れじゃないですか!』とか言っておけば笑い話になるし……もし、一万円でも当たっていればちょっと奮発して春人さんに何か美味しいものでもご馳走してもいい。

「……いっつも払わせてくれないんだもん、春人さん」

『後輩の、しかも女の子に払わさせられるか』って言って、春人さんは私にお会計をさせてくれない。それはそれでなんだかお姫様扱いみたいで嬉しいのだが……正直、心苦しい。奢って貰いたいから行ってる、なんて春人さんに思われたら立ち直れないし。

「あ! 外れても当たった事にして奢るのもありかも!」

 それは名案に思えた。『あぶく銭ですし、パーっと!』とか言えば、春人さんも支払いをさせてくれるかも! 良いわね、これ! これで行きましょう!

「うーんっと発表は……」

 この後。

 神様から貰った余りにもビッグすぎる誕生日プレゼントに私の悲鳴が室内に木霊したのは言うまでも無いだろう。


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