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第二十五話 別に女性だけが準備に時間が掛かる訳じゃないんだよね。


 明けて、翌日の土曜日。惰眠を貪っていた俺は『ぴんぽーん』というなんだか間の抜けた玄関のチャイムの音に眠たい目を擦りながら体を起こす。目の前の時計に表示されている時刻は朝八時、まだまだ早い時間帯にも拘わらず、玄関では『ぴんぽんぴんぽんぴんぽんぴんぽぴんぽぴんぽ』と連打する音が。

「――って、うるせぇよ! 誰だ、朝っぱらから!」

 掛け布団を『おらっ』と引き離し、俺はどすどすと音を立てて玄関へ。一言文句を言ってやろうと思い思いっきり玄関のドアを開けて。


「はーるーとーくーん~。あそびましょー」


「……なんで居るの?」

 半袖のTシャツにジーンズというラフな格好をした東雲がそこに立っていた。

「なんで居るのとは失礼ね? 今日、遊びに行こうって言ってたでしょ?」

「あそびに……ああ、カフェ行こうとか眠たい事言ってたヤツか?」

「眠たいってアンタ……まあ、そうね。行こうよ、カフェ」

「いや、早すぎないか? まだ八時なんだけど?」

「早起きは三文の徳って言うでしょ? 良いの良いの! さ、いこ?」

「いこって……ちょっと待て! 俺まだ着替えても無い!」

「良いじゃんべつに。私は気にしないよ?」

「俺が気にするわ! とりあえず着替えて来るから、お前は外で待ってろ!」

「えー。家に入れてよ~」

「ダメだ! そうだな……来る途中コンビニあっただろ? そこで待ってろ!」

「えー」

「えーじゃない!」

「ぶぅ~。わかったわよ。それじゃそこで待ってるから、早めに来てね」

 バイバイーと手を振ってドアを閉める東雲。その姿を見送り、俺は小さくため息を吐く。

「……野球行こうぜーじゃないんだから」

 中〇君か、お前は。


◇◆◇


「おそーい」

「……一応言っておくけど、お前が早すぎるだけだからな?」

「男でしょ? 四十秒で支度しな!」

「いや、アレ無理だから」

「まあ、今日の所は勘弁してあげようか」

「なんで上から目線よ。ま、今更だが」

「そそ。今更、今更。それで? 何処に連れてってくれるの?」

 そう言ってコクンと首を傾げて見せる東雲。まあ、見てくれは良いんでその姿は結構絵にはなるんだが……なんだろう、そこはかとなく腹の立つこの感情は。

「……何処行きたいんだよ?」

「オシャレなカフェとか良いかな~って」

「オシャレなカフェ、ね~。んじゃあそこにするか?」

「あそこ?」

「こないだ中川に教えて貰ったんだけど、なんていうのかな? 大正浪漫っていうか、こう、レトロ趣味のオシャレなカフェがあるんだよ」

「へー。お気に入りなの?」

「まあな。通う事も視野に入れる程度には」

「ふーん」

 そう言って東雲は良い笑顔を浮かべてぐっと拳を握りしめる。そして、その親指をぐっと上にあげて。



「却下だ、ばーか!」



 その親指を下に向けた。いや、なんでだよ!

「バッカじゃないの? デートに行くのにアンタ、他所の女に教えて貰ったところに連れて行くって、ちょっと信じられないんだけど! ちょっとそこの自動ドアに突っ込んでみてくれない? 緩んだネジ、治るんじゃない?」

「死ぬわ!」

 いや、死にはせんだろうが……間違いなく大けがを負うだろう。後、アレだ。きっと『銀行員、乱心か。ブラック企業の闇』みたいなニュースになりそうでイヤだ。

「その時は言ってやる! 『いつかやると思ってました』ってね!」

「そこは『まさかあの人があんな事を』じゃないの?」

「言う訳ないじゃん! バッカじゃないの?」

「おい、同期の桜」

「ふんだ! ともかく、香織ちゃんに教えて貰ったところなんて却下! ったく……春人は相変わらず女心の分かんないヤツね!」

「まあ、得意分野では無いが……そこまで言う? つうかさらっと流したけどコレ、デートなのか?」

「年頃の男と女が出歩きゃそりゃ、デートに決まってんじゃん! ったく……使えないヤツね!」

「……悪かったよ」

 あれ? 俺、なんでこんなに怒られてるんだろ? なにか悪い事、したかな?

「……はあ。まあ、春人に期待した私が馬鹿だったかな? ともかく! そこ以外に行きましょう! 春人、どこか知らないの?」

「どこかと言われても……そもそも俺、そんなに出歩かないし……」

 流石にオシャレなカフェで牛丼屋とかは……まあ、アウトだよな?

「……はあ。もう。気合入れて来て馬鹿みたい」

「……こういう事言うのはアレだが、気合入れて来た格好には見えんのだが」

 Tシャツにジーパンって、ぶっちゃけ部屋着かと思うぐらいのラフさなんだが。

「気持ちの問題! もう……しょうがないから私の行きつけのカフェ、連れてって上げる! きっと春人も気に入るわよ!」

 先ほどまでの不機嫌さは一転、にこやかな笑みを浮かべる東雲に俺は肩を竦めて了承の意を示す。その俺の姿に気を良くしたのか、『じゃ、いこー!』とか手を挙げて歩き出す東雲の後ろを歩きながら。


 ――最初からお前の行きたい場所に行けばよかったんじゃね? と思ったけど言わなかった俺は、きっと正しい。


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