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第二十話 三人寄れば文殊の知恵っていうけどさ、確かに。


 銀行終わりの夕方、俺は指定されたイタリアンレストランへ足早に向かう。なんとなく、あの二人――葵と中川を一緒にするのは宜しくない予感がむんむんとして。

「……喧嘩してねーよな? してたら帰るぞ、俺は」

 まあ、中川もあんなだが外面は良いし、葵は素直な良い子だ。そう信じているから、決して悪いようになっていないと思う……のだが……

「……初対面、アレだもんな」

 中川にしても葵にしても、まさかの事態だった。どちらも決して好戦的でも無いのに……なんて思っていると、目当てのイタリアンの前に二人で楽しそうに話している葵と中川の姿を見つけた。

「お待たせ」

「あ、お疲れ様です、春人さん」

「もうー! 先輩、遅いですよ! こんな美女二人待たせて何してるんですか!」

「いや、仕事だよ」

 お前は休みだったろうが、こっちは仕事だっつうの。

「まあ、待たせたのは悪かった。お詫びに奢ってやるよ。有り難く思え」

 そう言って店のドアを潜ろうとする――も、二人とも付いて来る気配がない。訝しんで俺が振り返れば、そこでは頭を突き合わせてこそこそ話をしている二人の姿があった。

「……ねえ、香織ちゃん? やっぱりだね?」

「……本当に。誰も奢れなんて言って無いのに」

「もうね、『女の子に払わせるのは格好悪い』って思ってるんじゃないのか?」

「うわ、逆にそっちの方が格好悪いのにね~。そんなんじゃモテないのに」

「……ねえ、俺、帰って良い?」

 泣くぞ。なんで俺が陰口を叩かれなきゃならないんだ。いや、全然陰でもなんでもなかったけど。おもっくそ、目の前で言われたけど。

「何言ってるんですか、先輩! そんな簡単に帰しませんよ~」

「そうですよ、春人さん。折角来たんですから、そんなこと言わずに。さ、一緒にごはん、食べましょう。此処は美味しいって香織ちゃんお勧めなんです!」

「そうですよー! ま、昼は葵お勧めのカフェでランチでしたけど、そこも美味しかったんですよ~。あ! そうだ、先輩! 明日、一緒に行きましょうよ~。土曜日ですし、暇でしょ~?」

「あ、ずるいよ、香織ちゃん! 春人さん、明日は私とランチ行きましょう!」

「だーめーです! 葵はお留守番! 明日は私の日なの!」

「どっちの日でも無いわ。つうか、喧嘩すんな」

 さっきまで仲良さそうだったくせに、なんでいがみ合うんだよ、お前ら。

「……なんでって」

「……ねえ?」

「……ねえ、本気で帰って良い?」

 なに? 今日、俺ってアウェイの日なの?

「だから、ダメです! それに先輩には相談もあったんですよ」

「相談? お前がか?」

「私……というか、葵ですかね? まあ、私も無関係では無いですが」

 ね? と問いかける中川にコクンと頷いて見せる葵。なんだ? 葵の相談で、中川も無関係じゃないって……


「『七億円の件』、ですかね?」


「――っ! な、中川!」

「葵から聞きました。ま、こんな店先で大声でする話でも無いでしょ? 個室予約してありますんで」

 さあ、行きましょう? とにっこり笑う中川に連れられる様に腕を取られ、俺は少しだけ――ほんの少しだけ、緊張してイタリアンレストランの扉を潜った。


「あ、香織ちゃんズルい! なんで春人さんの腕なんか取ってるのよ!」

「へへーん。早い者勝ちですよー」


 ……あれ? 緊張感は? ないの?


◆◇◆


「美味しかったです! さすが、香織ちゃんお勧めのお店ですね!」

「ふふーん。でしょ? 此処、値段の割には良いもの出すのよね~」

「でも、本当に美味しかったな~。今度はパスタも良いかも」

「そうだね~。パスタも絶品だよ! 葵も食べに来てみてよ!」

「うん!」

「……楽しそうだな、お前ら」

 ズズズと食後のエスプレッソを啜り、俺は胡乱な目を二人に向ける。そんな俺の視線に気付いたか、中川はしらっとした目を向けて来た。

「女子トークを邪魔するなんて……先輩、もうちょっと空気読めないんですか?」

「……男子がいるところで女子トークするお前らこそ空気読め。それなら二人っきりの時にしろよな?」

 本当に。場違い感が半端ないから。

「……ともかく。お前も言ってただろ、中川。『まあ、食べてからにしましょうよ』って。さっさと話そうぜ?」

「話す? なんの話です?」

「……ふざけてんのか、お前は」

「冗談ですよ。葵が当てた……『当てちゃった』の方が良いですかね? 当てちゃった、七億円の宝くじの話ですよね?」

「そうだ」

 頷き、俺は視線を葵に向ける。

「良かったのか?」

「ご、ごめんなさい、春人さん」

「いや、俺は別に構わんが……」

 葵が良いなら、別に構わないかな~という感じではある。ただ、葵と中川の接点があまりに少なく――加えてその数少ない接点が『アレ』であれば、あまり想像が付かないというのが本音の所である。

「その……正直、ちょっと酔って気が弱くなっていた勢いだった所はあります。誰かに聞いて貰いたいな~と思っていた所だったので……でも、今は結構、良い選択だったかもって」

「中川が? どうした? 頭でも打ったか、葵」

「どーいう意味ですか、先輩!!」

 うがーっとこちらに向かって怒鳴る中川を無視して葵に驚きの視線を向ける。いや、だって中川だぞ?

「ふふふ。春人さん、香織ちゃんは良い子で……凄い子ですよ?」

「……何処が?」

「ふふふっ! 教えてあげませーん。負けたくないですしー?」

「ちょ、葵! そこは私の株を上げて置くところじゃない?」

「敵に塩を送らない主義ですので。特に、この件については」

 ぬぐぐ! と擬音が付きそうな視線で葵を睨む中川とは対照的に、葵はにっこり微笑んだまま。そんな葵の仕草に呆れた様に肩を竦め、中川は視線をこちらに向けた。

「ま、ポイントアップは次回にして……そうですね、相談っていうのは、ですね?」

 一息、言葉を切り、中川はコーヒーのカップを傾ける。


「私にも協力させて貰えませんか? 葵の『資産運用』について」



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