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宮下公園で起きたこと・下

「イチオウ言っておくけど、本物よ」


 黒く光る銃の銃口が僕の方を向いていた。

  

「カタナを捨てなさい」


 普段のわりとほんわかした話し方とは違う、鋭い口調でカタリーナが言う。


「檜村サン、あなたの魔法が遅いのは分かっているわ、アタシの銃の方が速い。できれば撃ちたくないけど……片方は撃ってもいいのよネ」


 そう言うと、カタリーナが檜村さんに銃口を向けた。


「言っておくケド、ハイスクールのクラブ活動じゃないのよ、コッチは」


 カタリーナが言って銃口をまた僕の方に戻した。


「捨てなさい」


 もう一度、威圧するようにカタリーナが言う。

 捨てた方がいいのか……でも捨てたとして、その先どうなるかわからない。

 どうするのが正解なんだ。


 カタリーナの距離とは3歩ほど。

 あの銃が本物なら、僕が切りかかるより多分弾の方が早い。それに檜村さんを狙われたらどうしようもうない。


 頭の中がこんがらがりそうになるけど……稽古のときに師匠に言われたことを思い出した。


「人質を取られて武器を捨てろって言われたらどうする?片岡」

「それは……捨てるしかないんじゃないですか」


「大不正解だ、バカ」


 その時の僕の答えに師匠が頭をゴンと叩いた。  


「人質を取って人を脅すようなロクデナシな連中に生殺与奪の権を握らせてどうするんだ。

お前が刀を捨てたら人質を殺されて終わりかもしれねぇえだろうが」

「まあ……それはそうですけど。じゃあどうするんです?」


「自棄になるな。落ち着いて隙を伺え。相手が優位だからこそ、優位に立った時に隙はできる。その瞬間を決して見逃すな」

「そんな隙なんてありますかね」


「まああっちが有利なんだから、一度あるか無いかだな。だから逃すな。逃せばおしまいだ」


 あっさりと師匠が言う。


「だが。いいか。どんな状況でも諦めるな、ほんのちょっとした体の動き、目線の動きでも隙は作れる。特に思惑通りに行ってる時、緊張が切れる。俺みたいな余程の達人以外はな」


「師匠みたいな相手ならどうするんです?」

「イチかバチかで切りかかれ。武器を捨てて相手の情けに縋るよりはそっちの方がマシだ。

大丈夫だ、人間は結構頑丈にできてる。撃たれても切られてもそんなに死にはしねぇよ」


 師匠が救いになるんだかならないんだかわからないことを言った。


「それと、やる以上は成功すると信じろ。ダメだと思ってやるとわずかな勝ち筋も消えるぞ」


 そうだ。考えてみたら当たり前だ。

 ここで捨ててはいけない。捨てたら相手の言いなりになるしかないんだから。


 諦めずに隙を作れ。そして、どんな時でも平常心で。

 師匠と宗片さんの言ってたことだな。静かに呼吸すると少し気持ちが落ち着いた。


 カタリーナとの距離は多分3歩ほど。

 銃はこっちを向いている。

 鎮定を振らなくても風は起こせる。でも銃よりは遅い。ならば……頭の中で反撃をイメージした。


「捨てなさい、カタオカ。あと三秒待つわ」

「……分かったよ」


 鎮定を逆手に持ち変えて高く掲げる。檜村さんが息をつめて見守っているのが見なくてもわかった。

 カタリーナの表情がわずかに緩む。

 

「じゃあ捨てるよ」


 鎮定を高く投げ上げた。


 

 カタリーナの視線が上を向いた。僅か一秒もない間だけどそれで十分。

 鎮定を追うように踏み込む。動いた以上迷っちゃダメだ。


「ちっ」 


 カタリーナが舌打ちして銃をこっちに向ける。

 手を伸ばして銃と手首をつかんだ。硬くて冷たい感覚が伝わってきた。


 銃身を取って手首を外に捻る。

 師匠が教えてくれた銃や刀のさばき方だ。

 この状態で銃を強く外にひねると、引き金に掛かっているから人差し指が折れるらしい……しかし、あの人は何でこんなこと知っていたんだろう。


 小さく悲鳴が上がってカタリーナの姿勢が崩れる。

 何が起きたって顔で僕を見て、日本語じゃない聞き取れない言葉を叫んだ。

 一発銃声が響いた。映画で聞いたような耳を打つような音がして、鼻を衝く匂いが漂う。


 銃と手首をロックしたままで足を払うと、カタリーナの体が一回転して宙に舞った。




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