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仙台の動画配信者たち

続きです。

「ところで、動画はやっぱり効果ありますか?」


 伊勢田さんがちょっと自慢気に笑って七瀬さんに合図した。

 七瀬さんがパソコンを操作して手招きする。コーラの瓶をもったまま席を立ってパソコンの方に回った。


「これは知っているかい?」


 そう言って伊勢田さんが見せてくれたのは動画サイト・your theaterのチャンネルだった。

 Forest Leaf Wizard`s guild というオシャレな飾り文字のロゴが大きく表示されている。

 木の葉と羽根をモチーフにしたエンブレムがアイコンになっていた。えらく立派だな


「いえ」

「仙台の方の魔討士の動画チャンネルだ。俺と違って戦闘も配信している」


 七瀬さんがマウスを操作して、動画の一つをクリックする。宮城野攻略4-⑤というタイトルだ

 動画が再生された。


「ちっ、ホブゴブリン!8体だ!」

「もう少しで出口っだってのによぉ」

「文句言ってる場合じゃないでしょ。国分!石川!前に出て!梁川は魔法の準備」

「おうよ!いくぜ!」


 スピーカーから指示の声が唐突に流れて、続いて足音、剣と硬い物がぶつかり合う音が大音量で響いた。

 

 画面の中で大型のゴブリンらしきモンスターの腕が飛んで血飛沫が舞う。多分マイクと顔に付けるタイプの小型カメラで撮影しているっぽいな。

 画面がかなり揺れて見難いけど……まさに最前列で戦う人目線だ。

 真横には仲間の乙類がいて、間近にホブゴブリンの赤黒い体が見える。振り回す棍棒の風切り音まで聞こえた。

 臨場感がスゴイ。

 

 武器と武器がぶつかり合う音と隊列の指示。

 剣を振るときの気合の声と何かを罵る悪態、その直後に魔法らしき爆発がおきてゴブリンの群れが吹き飛んだ。

 なんとも迫力あるんだけど。エグイっていうか、いいのかな、これを配信して。

 でも再生数はすでに20万近い。コメントも結構ついていた。


 そして、僕が言うのもなんだけど、かなり腕の立つ人たちっぽい。

 魔法で動揺したところを二人が切り込む。大柄なホブゴブリンがあっという間に制圧されていって、数分後には赤い岩のような床にライフコアが転がった。

 それぞれが勝鬨を上げて、ファンファーレのような効果音がかぶさる。


「よし、急ごう」

「もう戦闘は勘弁だぜ」


 動画の中の人が赤い岩をくりぬいてできたようなダンジョンの通路を歩いていく


「……なんか、八王子に似てますね」

「そうだな……似ている。君もそう思うかい?」


 伊勢田さんが聞いてきたから頷いた。なんとなく面影がある感じだ。


「君も気づいているかもしれないが。

日本のダンジョンは、八王子のこういう言い方がいいかは分からないけど、ファンタジーのようなダンジョンと、新宿の人工的なダンジョン。それと奥多摩の昆虫の巣のようなダンジョンの三つの系統のようだね」


 どういう理屈かはわからないけどね。と伊勢田さんが付け加える。

 確かに、ルーファさんと会ったダンジョンは八王子に似ていた。

 銀座のダンジョンは新宿に似ていた。何か共通点があったりするんだろうか

 ダンジョンの中に現れるモンスターやそれとの戦い方はかなり体系化されてきているけど、ダンジョンの存在自体は謎だらけだ。


 そんなことをしているうちに、ダンジョンのそとに出たらしく、動画の画面が切り替わった。

 夕方の街並みを背景に男の人が一人と女の人が二人画面に映った。

 揃いのフード付きのモスグリーンのハーフコートのような服を着ている。胸にはチャンネルにも出ているロゴが縫い付けられていた。隊服みたいなもんかな。


「仙台、宮城野ダンジョンの探索はただいま4階層まで進んでいます。6階層が最深部のようです。

我々はまずはこのダンジョンの攻略を目指します。皆さん、応援お願いします!」


「チャンネル登録よろしくね」

「スポンサーも募集中よ」


 男の人が力強く言って、可愛いボブカットの女の子と、綺麗な長い髪の女の人がにっこり笑って動画が終わった。

 

「これは?」

「3か月ほど前に活動を開始した仙台の魔討士のパーティ……というか、ギルドだ。総勢は20人近いらしいね。動画の作り方とスポンサーを紹介した」


「20人?」


 普通のパーティはせいぜい4人くらいだ。それ以上になると討伐評価点の分け前が減る、というのもあるけど。

 それ以上の問題として、増えすぎると連携が難しくなる。

 ダンジョン内には狭い場所もあるし、魔法の射線も通さなければいけない。多ければいい、というもんでもないらしい。


「20人の中からその場に応じて編成をしてダンジョンの討伐をしているんだそうだ」

「ああ、そういうことですか」


 そりゃ20人全員でダンジョンに入ったりはしないか


「リーダーは伊達睦海むつみ。丁の確か4位だったかな。一度話したが、かなりのキレ者だ。

稼げる仕組みを作りたいと言っていたね。最終的には、ダンジョン討伐を請け負う魔討士の会社をつくるつもりだそうだ」


 今の魔討士は、聞くところによると兼業が多いらしい。

 宗片さんのような国に雇われた公務員のような専業は例外的で、サラリーマンをしながらとか、檜村さんのように大学生をしながら、とかが殆どなのだそうだ。


「稼げる仕組みができれば、魔討士の数も増える。

金のためでもなんでもいいんだ。一人でも魔討士が増えれば、野良ダンジョンで人が死ぬ可能性が下がる。

たとえ犠牲者が一人であっても、その一人は誰かにとってのかけがえのない一人だからね」


 しみじみとした口調で伊勢田さんが言った。




行けるとこまで頑張っていくぞ

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