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ちょっとじゃない面倒事

あの吾妻なる人たちが来てからしばらくは静かになった。

 乙類4位といってもしばらくしたら皆慣れてしまうもんで飽きたんだろう……

と思っていたけど。


 今日も放課後退魔倶楽部の後輩たちとちょっと稽古をしてから帰ろうとしたところで、また待ち伏せが居た。

 ようやく静かになったと思ったのに、またか。


 魔討士の中には活動を一切表に出さない人もいるらしいけど、なんかその人の気持ちが分かってきた。

 勿論ランクが上がって褒められたり認められたら嬉しいけど、その分面倒も増えて行ってる気がするな。


「あなたが片岡水貴。高校生乙類4位ね」


 今回は先頭に立っているのは女の人だ。

 檜村さんよりちょっと年上っぽい。ウェーブがかったように整えられた茶色の肩くらいまでの髪に、白っぽいワンピース。胸元にはネックレスをかけている。

 なんとなく服もアクセサリーも高そうな感じだ。


 ピンクの口紅を付けた口元の浮かんだ薄笑いと、こっちを値踏みするような視線がなんとなく感じ悪い。

 その人が僕をじろじろと見て満足げにうなづいた。


 その人の後ろにはまたスマホを構えた人が二人いる。

 どうやらいわゆる配信者らしいけど……とりあえず今回は前みたいに喧嘩を売られるとか、そういうのではなさそうだ。


「そうですけど、何か用ですか」

「今日から私と組んでもらうわ。いいわね」



 あまりに唐突な言い草に何を言っているのかよくわからなかった。

 

「どういう意味ですか?」

「言っているとおりよ。あなたは今後は私とパーティを組むの。いいわね。

まずはあなたの紹介動画を撮るから」


 その誰かさんが堂々と言うけど……正直言って何を言っているのかさっぱり分からない。


「そもそも一体貴方はだれですか」

「丙類3位、濤早(なみはや)かおるよ。知らないの?」


 その女の人が言う。

 名前くらいは辛うじて聞いたことがあった……というより、伊勢田さんの動画を見たときに次の再生候補で見た覚えがある。

 

 SNSでは結構有名な魔討士で動画配信者、だっただろうか。動画を見たことはないけど。

 でも、会うのは初めてだし、そんなことを言われても困るというか。


「僕はもうすでに檜村さんとパーティを組んでますんで」

「じゃあパーティを解除しなさい」

「いや、そのつもりは無いですよ」


「口答えするの?私は4位、あなたは3位。どう考えてもあなたは私の言うことを聞くべきなのよ。それに檜村とかいう魔法使いも4位よね。大丈夫、私から言っておいてあげるから」

「……ランクが上の人の言うことをきくのは戦闘の時だけですよね」


「勘違いしてるわね、3位は特別なのよ。3位は昇格に審査がいる。つまり、功績点をためればいいだけの4位とは格が違うのよ」


 自信満々って感じで濤早が言ってカメラのほうのポーズをとる。

 昇格審査……そういえばそんなことを聞いたことがある気もするな。

 なんかまたもや周りに人が集まってきていて、興味津々って感じがいたたまれない。


「はっきり言いますけど、そんなつもりは全くないですよ。僕は僕で好きにします」

「4位ごときが口答えする気?もうすでに公開済みだからね」

「は?どういう意味です?」


「動画で宣伝済みよ。高校生初4位と3位の魔法使いの組み合わせが誕生するってね。

実物を見るまで少し心配だったけど、私と並んでも見劣りしないから安心したわ」


 濤早が言うけど……勝手に何をしてくれているんだ。


「それは、一緒に戦えとかいうことですか?」


 そう聞くと、濤早が薄笑いを浮かべて首を振った。


「なんでそんなことしなければいけないの?私はもう3位なのよ。人のために戦うなんてばからしいじゃない。それにダンジョンで戦うより動画配信の方がよっぽどいいしね。この私を魔討士協会が思い通りにしようなんて、そうはいかないわ」

「……あなた、本当に魔討士ですか?」


 あまりに堂々と言われると、なんか正しいことを言っているように聞こえてしまうけど……この言い草はどう考えても魔討士としてはダメだと思う。

 あの感じ悪い如月でもこんなことは言わないだろう。


「私は本音を言ってるだけよ。遠慮なんてする必要ないもの。ちょっと優秀なうえに本当のことをズバズバ言いすぎるから嫌われやすいけど、まあ仕方ないわね。

でも、私の身内には魔討士協会のスポンサーもいるし、私と組むならそうね、3位昇格したいなら口をきいてあげるわ」

「全く必要ないですよ、余計なお世話です」


 そんなことをしたら、真っ向勝負にこだわってくれた清里さんたちに顔向けができない。

 

「あなたにももちろん出演料は払うし、SNSのインフルエンサーになれるわよ。魔討士協会に便利に使われて無理に戦う必要なんてないわ」

「そんなことは全くないですけど」


 そもそも無理に戦わされてはいないし、今まであった魔討士の人でそんな人は一人もいなかった。

 濤早が小ばかにするような薄笑いを浮かべた……いちいち腹立つやつだな。


「可愛いお子様ね。でも格好つけなくていいのよ。また連絡するわ。最初はあなたの紹介動画だから、しっかり準備しておきなさい」


 いうだけ言って、濤早が踵を返して歩き去っていった。

 撮影スタッフらしい二人が後ろに付き従っていく。

 

 いったい何なんだ、あれは。

 宗方さんや鹿登川さん、風鞍さん……七奈瀬君はちょっと性格に難ありだけど、上位帯って人格者のイメージがあったけどガラガラと崩壊した。



 その夜、かなり嫌な気分で部屋で音楽をかけっぱなしにしたら、突然電話が鳴った。

 ディスプレイに表示された名前は珍しいことに、伊勢田さんだった。どうかしただろうか。


「片岡君……君はなんていうか、あの女と組むつもりなのか?」


 電話に出たとたんに、挨拶もなしで言われたのがそれだった。

 ……どうやら今日の動画はもう公開されているらしい。見たくもないから検索もしなかったけど。


「そのつもりはないです。ていうか、その場で断わりましたよ」

「そうなのか……動画では君の返事のあたりがカットされていたから分からなくてね。安心したよ」

「何をしてくれてるんだ……ていうか、あいつのこと、知ってるんですか?」


 3位はすごいんだろうけど、あれだけ上から目線で言われると腹が立つというか、何様のつもりだとは思う。

 ランクが上だからと言って部下みたいに扱われる筋合いは無いぞ。


「丙類3位。かなり前から活動しているが、3位に上がったとたんに討伐活動を殆ど止めてる。魔討士3位を売りにして今はSNSのインフルエンサーってやつだ」

「そんなのありですか?」

「魔討士に降格は無いからね。野良ダンジョンで市民を見捨てるとかしない限りは、資格停止もされない。戦わないことは違反じゃないんだよ」


「戦ってないのにパーティを組むって、いったい何がしたいんですかね」

「動画の再生数稼ぎだろうな。君は高校生初の4位の到達者だからね。注目を集めるにはちょうどいい。どう考えても、前衛を得て現役復帰するなんてタマじゃないよ」


 辛辣な口調に電話越しにも嫌悪感が伝わってくる。

 伊勢田さんとはどう考えても正反対だから、そりゃ嫌いだろうな。


「正直言って、あいつに取り込まれてほしくないんだ。

君だってやろうと思えばすぐにSNSで人気者になれる……きっと戦う必要なんてないくらいにね。でも、勝手なことを言うようだが、君にはそうなってほしくない」

「そんなつもりはないですよ」


 SNSをするしないは別としても、新記録作ったからここでもうやめるなんていうつもりはない。

 というかそんなことを言ったら清里さんと斎会くんになんていわれるやら。


「ただ、それならはっきり意思表示した方がいいし、何か対策を考えた方が良い。あいつのSNSでの影響力は侮れないからな」


 伊勢田さんがかなり真剣な口調で言う。

 パソコンを立ち上げて検索したらすぐに今日の動画が引っ掛かった……画面の中で動いている自分はやっぱり違和感があって慣れないな。

 

 そして、確かにそんなつもりはないといった部分は完全にカットされていた。

 それに再生数もコメントも多い。


『けっこうハンサムじゃん』

『これならかおるさんの相棒として認めてもいいな』

『なんか生意気なこと言ってたから、ビシッと締めてやって』

『そうそう、高校生なんて躾てやらないと』

『今日もズバッと言ってくれてスカッとする』

『かおる節最高です』

『戦う必要ないって、魔討士がそれでいいのか?』

『黙れよ、アンチ』

『失せろ』

『ルール違反じゃありませーん』


『ていうか、檜村って誰?』

『4位の魔法使いだってよ』

『3位より格下じゃん、かおるさんの勝ち』


 好き勝手なコメントが並んでいた。

 ……スミスさんに頼んでまじで対策をしてやろうか。


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