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ちょっとしたもめ事・上

「ただいま、噂の高校生乙類4位、片岡水貴君の学校に来ています……おっと、本人登場です。こんにちはー片岡君」


 放課後退魔倶楽部の乙類の何人かと稽古をした帰り。

 駅まで一緒に帰りたいという後輩たちと校門を出たところで、突然声を声を掛けられた。


「さすが4位、後輩を後ろに従えてるね」


 そう言ったのは、先頭にいるのは短めの髪を金色と赤に染め分けた180センチくらいのがっちりした体格の男の人だ。

 多分大学生よりは少し年上って感じだろうか。


 派手なロゴの入った半そでのシャツから見える手や胸元には黒のタトゥが入っている。

 少し日焼けした顔立ちに顎髭を短く生えていて、精悍な感じは何となく伊勢田さんっぽい。


 ただ、わざとらしく音をたててガムとか噛んでいて、何とも感じ悪げだ。なんとなく輩っぽい。

 僕の高校の前ではあんまり見かけないタイプだな……少なくとも僕は見覚えが無い。


 後ろでは2人がスマホでこっちを撮っていた。

 揃いの赤と黒のベストのようなのを着ていて胸元には先頭の男の人と同じロゴが描かかれている。

 どうやら、配信者とかそういう類の人っぽいな。


「でも、あんまり強そうじゃないよな」

「ちょっと小突いたら泣きそうじゃん」

「どう、突然だけどさ、片岡君。俺と腕比べしてくれない?俺は吾妻京治ってさ、ちょっとは界隈で知られた男なんだわ」


 体格がいいその男の人……吾妻というらしい、その人が言う。

 ごつい指輪を付けた拳を見せつけるようにこっちに向けてきた。香水っぽい香りが鼻をつく。


「どう?噂の高校生最強の4位ってのがさ、どれくらい強いかを知りたくてさ」

「で、どうかな?片岡君。まさか……逃げるなんてことはないよねぇ。曲がりなりにも高校生最強の男が」

「先生を呼んできちゃうかな?高校生最強の男が」


 その後ろの二人が合いの手をいれてくる。

 一体何が起きているのかと思ったけど……どうやらこれは絡まれているという状況なのか。


 アイドル扱いされるのは面倒だけど……正直言ってちょっといい気分だったりもする。

 でも、こういうのに待ち伏せされるのは勘弁してほしい。

 

「先輩……」


 後ろからは心配げな後輩の声が聞こえてきた。

 下校時間が大分過ぎたけどまだ学校には結構生徒が残っていたようで、周りに何人かが集まってきた。

 歩道を歩いていた人も集まってきて、人だかりができ始めている。

 

「さあ、どうする。高校生最強の男」

「でも、あんまり強くなさそうですよ」

「それに後輩の前で凹ませるのもちょっと大人げないかな」


 後ろのカメラマンの二人が合の手を入れてきた。

 カメラを意識するように手を広げて、高校生最強の部分を矢鱈と強調して吾妻が言う。

 無視しようかと思ったけど……清里さんや斎会君のことを思い出した。


 僕のことだけなら適当にあしらってもいいのかもしれないけど、高校生乙類が、と言われてしまうと話は別だ。

 ここで僕が情けない姿を見せれば斎会君や清里さんの評価も下がる。

 配信なんてものをされているからこそ……ここで簡単に引くわけにはいかない。

 

「いや、いいですよ。やりますか?」

「へ?」

「腕比べでしょ、いいですよ」


 吾妻とその後ろのカメラマンが驚いた声を上げてこっちを見た。



 微妙な間があって吾妻が顔を引きつらせながら口を開いた。


「おいおい、片岡君。みんなの前だからって格好つけない方がいいぞ」

「気を使ってくれて感謝しますけど、大丈夫です」


 立ち居振る舞いとか雰囲気から強さが分かるもんだ、とは師匠の弁だけど、なんとなく分かる。 

 なにか格闘技とかそう言うのはしてそうだけど……鎮定が無くても少なくともこの人には負けない。


 最初はちょっと躊躇したけど、一度やると決めたら気持ちが落ち着いた。

 地面に鞄を下ろして、ちょっと痺れた手をほぐす。


「おいおい、ちょっとまてよ、温厚とかそんな話じゃなかったのかよ」


 吾妻をまっすぐ見ると、その人が後ろの撮影係ともう一人と小声で言うのが聞こえた。

 ……どうやら完全に予想外の展開らしい……自分で喧嘩を売ってきてそれは流石にどうなんだろうか。


 僕があっさり謝るとか思ってたのかな。  

 周りを囲んでいる人たちの視線が吾妻に集まる。


「おお……やってやるぞ、コラ。覚悟しやがれ」


 威嚇するように吾妻が大声を上げてこっちを向きなおった。

 ここまでやったら今更引き下がれないんだろうな。


「これが最後の警告だぜ。手加減はしてやらねぇぞ、いいのか?」

「いいですよ」


 言い返すと、吾妻が指輪をした拳を上げて構えた。ボクシングっぽい構えだ。

 ……とはいえ、目が泳いでるし構えも雑だし、動揺があからさまに伝わってくる。

 

「いくぞ、オラァ!」


 呼吸を整えてこっちも構えを取ると同時に、吾妻が気合の声を上げて踏み込んできた。

 ただ、ものすごいテレフォンパンチだ。


 一歩踏み込んで、体が開いてがら空きの右胸を押す。

 思ったより強い手ごたえが右手の掌に帰ってきて、吾妻がバランスを崩して尻もちをついた。




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