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八王子ダンジョンでの練習・上

 檜村さんが校門前に現れたあの日から、少し待ち伏せは減った。

 あれが原因なのか、それとも飽きたのかは分からないけど、どっちにしても有難い。

 ようやく普通に帰れるようになった。


 そんなある日の帰り道。

 校門で藤村が待ち伏せしていたように声をかけてきた。


「先輩。ちょっといいですか?」

「いいよ、どうかした?」

「ご存知かもしれませんが、先輩の活躍もありまして放課後退魔倶楽部に沢山新入生が入りましてですね……」

「それは聞いたよ。よかったね」


「ついてはぜひ定着ダンジョンで見本を見せてもらえればと思うのですが、如何でしょうか……いや、勿論今や高校生乙類で一番の先輩にこんなことをお願いするのは図々しいのは分かっているんですが……皆が期待していまして、その」


 いつもの良くも悪くも遠慮のない口調とは違って硬い口調だ。

 ふっくらした顔には緊張感が張り付いている。


 師匠が言うような弟子を取るなんてことは全然イメージできないけど、後輩の見本になるくらいはできると思う。

 僕も一人で強くなったわけじゃないし。


「いいよ」


 そう言うと強張っていた藤村の顔がパッとほころんだ。

 

「ありがとうございます、じゃあ、次の日曜に八王子でいいでしょうか?」

「じゃあ、そうしよう」



 日曜日、八王子ダンジョンに来た。

 約束の時間は10時だったけど、来た時には10人近い部員がいた。


 全員が揃いの放課後退魔倶楽部の揃いのジャージを着ているからすぐわかった。

 もう全員分揃えたのか。


「おはようございます、片岡先輩!」

「おはようございます!」


 藤村がいつも通り元気よく言って、後ろにいた10人ほどが同時にお辞儀してくれた。

 確かにずいぶん増えたな……こんなにいるとは思わなかった。


 というか魔討士の素質持ちって結構いるんだな。

 割合的には50人に一人くらいらしいから、クラスに一人いるかいないかくらいだと思うんだけど、たまたま多かっただけなんだろうか。

 

「おはよう、じゃあ早速行こうか」


 八王子の入り口周りは今日もダンジョンツアーに行く人とか、恐らく深層でトレーニングしにきた魔討士の人とか、そう言う人向けのフードワゴンとかでにぎわっている。

 ダンジョンの近くというよりお祭りのようで、ここだけで言うなら緊張感の欠片も無い。


 入り口で形式的な手続きをしてダンジョンに入って、経路に従って下の階層に降りる。

 最初は賑やかだったけど、しばらく歩いているうちにだんだん皆口数が減っていった。

 地下に降りていくのは結構不安感はあるだろうなと思う。


 ミノタウロスを倒しているから、もう10階層までは魔獣は現れない。

 でもそれは理屈の上では分かっていても、地の底に吸い込まれて行くような感覚はある。

 

 5階層あたりまではダンジョンツアーの客もいるけれど、そこから10階層までは中継ポイント以外にはほとんど人の姿はない。

 あっちこっちに下への誘導灯があるからいいんだけど、静かな薄暗い回廊を歩いていると、なんとなく洞窟で道に迷った気分になる。

 エレベーターでもつけてほしい所だけど、そんなわけにはいかないよな。

 


 15分くらい歩いて着いた10階層の中継点は今日も人が沢山居た。

 机の上には地図とかタブレットが置かれていて、壁にはダンジョンの地図と魔獣の発生状況を示す書き込みがされていた。

 なんとなく冒険者ギルドなんてものがあるとしたら、こんな感じなんだろうなと思う。 


 体育館くらいのスペースがあるけど、待機してくれている公務員の魔討士の人や、協会の人、それと魔討士の人たちでは結構狭く感じる。

 そして、ここまでくるとダンジョンツアーの人はいなくて、皆魔討士だ。賑やかな中にも緊張感がある。

 年上ばかりだから、高校生の集団の僕等は何となく浮いている感じだ。


「あ、お疲れ様です、片岡4位」


 協会の人が気付いてくれて挨拶してくれた。

 周りの視線がこっちに集まるのが分かる……やっぱり目立ってるな。


「今日はどうされましたか?」

「学校のクラブ活動です」


 そういうとその人が後ろの藤村たちを見て少しだけ不安そうな顔をした。

 ……実は僕も少し不安だ。こんなことしたことないし。


「なるほど……そういうことなら、あの地図のAのエリアは比較的安全ですから、そちらに行かれるといいでしょう」

「ありがとうございます」


「ただ、私が言うのもなんですが、ご用心ください」

「おや、片岡君じゃないか、久しぶりだね」


 係の人と話をしていたら、不意に後ろから名前を呼ばれた。



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