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幕間・新世界へ・下

やきもきしつつ2か月ほどが過ぎた。

 ケーシーとテレルは案山子(スケアクロウ)の改良に励み、俺はひたすら体を鍛え続けた。


 ダンジョンで実戦経験を積みたいところだったが、町はずれのダンジョンは今は許可を得てライフコアの採掘をすることしかできない。 

 許可を申請してはみたものの、高校生は許可が出なかった。


 そして、まだ夏が終わらない暑い8月の半ば頃、スミスから連絡がきて、また研究室に集まった。

 今日はケーシーと俺とスミスの三人だけだ。


「ほとんどの準備は整った。

日本では魔討士(マトウシ)なる制度があってそれに登録して戦うことになる。保安官(シェリフ)と同じようなものだ。

手続きは済ませてあるから、いつ出発しても大丈夫だ」


 スミスが言葉を切って、ケーシーと視線を交わした。


「そして……結論から言うと、ライアン。君に戦ってもらいたい。今からこのケーシーの装備にフィットする日本人の能力持ちを探して訓練するのでは時間がかかり過ぎる」

「……初めからそのつもりですよ」


 スミスが言うが……この話が出た時には戸惑ったが、ケーシーが行くなら俺も行かないという選択肢はない。

 今更って話だ。


「頼むぞ、ライアン。魔討士(マトウシ)として数値的に評価されるのは君一人だけだ。つまりこのチームの浮沈は君にかかっている」


「重荷を背負わせてゴメン……」

「いや、大丈夫だ」


 申し訳なさそうにケーシーが言うが、その不安を少しでも軽くしてやりたい。

 できる限り明るく返事をするとケーシーが頷いて背伸びをして俺の頬に唇を振れさせた。


「ありがとう……ライアン。すぐにでも準備するわ」



 ケーシーが研究室を出て行って、スミスと俺だけが取り残された。


 とりあえず何をするかの目標が具体的に決まったのはありがたい、というか気持ちが落ち着く。

 勿論不安は山ほどあるが、どこにもいけないんじゃないかという気分で袋小路にいるよりはましだ。


「しかし、親御さんは許可してくれたのか?今更聞くのもなんだが」

「猛反対されましたけど、爺さんが後押ししてくれてなんとか」


 高校生が日本に行ってダンジョンで戦うなんて普通に考えればまず通らないだろう。

 ケーシーもかなり揉めたらしいが、俺の方が大変だった。ダンジョンで戦う以上、危険は避けられない。


 大切な女が遠くに戦いに行くのにそれを守ろうとしないのは男ではない、という古めかしいことを言って後押ししてくれたのが爺さんだ。

 結局、高校卒業までに結果を出す事と、定期的な連絡をかかさないことを条件になんとかなった。


「……一つ聞いていいですか?」

「なんだね?」


「……結果が全てだと思いますか?」


 結果を出す事。だが、今までの人生で思う通りの結果は残せなかった。

 高校のフットボールチームでも学校の成績でも。


 今の状況に不満があるってわけじゃない。

 でも目を見張るような素晴らしい結果、表彰台や祝福の輪の真ん中に立つような結果とは縁がない、そんな人生だった。


 保安官(シェリフ)の素質もそうだ。

 能力があるというだけで其処まで強い能力ではなかった。


 ケーシーの助けになれないわけではないが、彼女を引っ張って行けるような強さも無い。

 希望が無いわけでもないが、明るい未来が見えているわけでもない。

 こんなところも俺らしいと言えば俺らしい……そう思ったことを今も覚えている。


 それに、日本行きの話をしたら学校の友達には大いに笑われた。

 お前なんかがそんなことできるわけないだろ、結果を出せる訳がない、怪我をするだけだ、と。


 動画サイトでは強力な能力持ちが配信とかをしていたり、時にはメディアに取り上げられたりもする。

 そういう強力な能力持ちをうらやましいと思ったことは一度や二度じゃない。


 自分が全力で戦ったとしても、とても彼らには及ばないだろう。

 だからなのか……結果が全て、と言われるのはどうしても胸に引っかかってしまう。


「結果は大事さ、いつだってね。それは間違いない。紙一重の差でも勝者は肯定され敗者は忘れられる」


 スミスが淡々とした口調で言った。


「だが。ある時は敗者の側に立つことがあっても次は別の結果が出ることもある。その時の結果がどうあれ人生は続く。

ライアン。君も私くらいの年になれば分かるよ」

「大人になれば……ってことですか?」

 

「年を取れば嫌でも思い知るってことさ。私たちが出来ることはただ全力を尽くすことだけだ……後は神が決めてくださる」

「全力を尽くす、と言う意味では絶対に大丈夫です」


 何がおきたとしても、ケーシーのために道を切り開く。それが俺の役割だと思う。

 スミスが小さく笑って頷いた。


「簡単に説明しておく。君の能力的には日本では乙類(オツルイ)というカテゴリーとなる。いわゆる接近戦タイプをそう区分してるようだ。

まずは乙類(オツルイ)の高校生最上位を目指す。外国人がトップになれればインパクトがある。その為の方法(メソッド)も考えてある」

「はい」


「だが、ライバルは手ごわいぞ。我々にとっては困ったことに高校生の有望株(トップ・プロスペクト)が3人もいる。

特に彼だ。ミズキ・カタオカ……風を操作する能力を持つ東京の高校生。既に3つの大きいダンジョンの攻略で活躍していて、名声を獲得しつつある。しかも日本は我々にとってはアウェイだ」


 タブレットに映ったのはブレザー姿で片手には侍のような刀を持っている男だった。同じ年らしいが、俺より年下に見える。

 戦いが終わった時なのか、少し疲れた表情だ。それでも画面越しに歴戦の雰囲気は感じ取れた。


「じゃあ先に行っていてくれ。日本にはすでにマリーサと言うスタッフを送ってある。チームの広報担当だ。何かあったら彼女が対応してくれる。私も後から来るよ」


 スミスが差し出してくれた飛行機のチケットを受け取った。

 ミズキ・カタオカ……どんな奴なんだろう。風を操るというのはどんな能力なんだろうか。


 ただ、相手がだれであろうが関係ない。

 ケーシーのため、チームのため。男として決めた以上は進むだけだ。 


 





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― 新着の感想 ―
アメリカンヒーローを目指す。その為の手段としてって事だったんですねぇ。 いや、違うな。惚れた女を笑顔にする為にだな。
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