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幕間・新世界へ・上

 本章で登場したライアン視点です。

 長くなり過ぎたので分けました。


 ・作者注

 

 アメリカでの魔討士は保安官(シェリフ)と呼ばれています。

 魔討士協会的な組織として保安官組合があり、そこが能力の診断や登録・管理、企業や公的機関の要請に応じた保安官の斡旋などをしています。

「全部無駄になったわ、ライアン」


 ケーシーの家の地下室を改造して作られた見慣れた研究室に駆け込むと、項垂れたケーシーが椅子に座っていた。

 机の上にはスマホのディスプレイがぼんやりと光を放っている。

 表示されている記事が何かは聞かなくてもわかった。


「州法が改正された。今後はダンジョンの討伐活動は禁止になる。ここだけじゃなくて恐らく他も追随する……こんなものはもうガラクタよ。結果がでなければ全部意味がないわ」


 机の上には案山子(スケアクロウ)と名付けられたドローンが4機置かれている。何度もの改良と稼働試験を経て、ようやく実戦でも使えるレベルになってきたケーシーの力作だ。

 パソコンのディスプレイには制御AIのドロシーの女性タイプのアバターが踊るようにステップを踏んでいた。

 

「無駄なんていうなよ……じゃあ俺がやってきたことも無駄だっていうのか?」


 その問いかけにケーシーは答えないままだった。

 いつもの場所が昨日とは全く違う部屋に見えた。



 ダンジョンでモンスターを倒したら獲得できるライフコア。

 これはクリーンなエネルギー源になるのは知っている。だからこれを取れば金になる。

 

 それを大規模に活用しようとした企業が出てきたのも勿論知っている。

 21世紀のエネルギー革命!そんな風にCEOが演説して雑誌の表紙にもなっていたが自分にはあまり関係がないことだと思っていた。


 だけど状況が変わるのはあっという間だった。

 ダンジョンでの討伐活動やライフコアの採集を規制するという州法の変化について、噂はあって時々ネットニュースでも取り上げられていた。


 知ってはいたけれど、やっぱり自分にはあまり関係ないと思っていた。

 そもそも、一高校生にはどうすることもできなかっただろうけれど。


 そして、州法の改正があった数日後。

 町はずれにあってトレーニングや実験に使っていたダンジョンの周りには黄色いテープが張られて立ち入り禁止になっていた。


 行く手を遮るテープとダンジョンの周りでたむろする警官の姿を見た時にようやく現実が理解できた。

 昨日までのようにいかない、世界は変わってしまったんだ、と。



 州法が施行されて半月ほど後。

 ケーシーとテレル、それに代理人を務めてくれているスミスでケーシーの研究室に集まった。

 4人が入るとそれなりに広い研究室も狭く感じる。


 天井の低さと、初夏の太陽が差し込む室内の蒸し暑さが妙に気に障る。

 いつも陽気なテレルも暗い表情で、所在なさげにタブレットをいじっていた。


「研究内容を変える気はないか?このドロシーと案山子(スケアクロウ)の技術的な蓄積は他にも生かせるはずだ。なにも対ダンジョン装備に拘ることはない」


 スミスがはっきりとした口調で言った。

 彼は弁護士であり、俺達の代理人(エージェント)だ。


 案山子(スケアクロウ)のプロトタイプを作るためのクラウドファンディングをきっかけに知り合って、それ以後色々と世話を焼いてくれている。

 スポンサーの確保の交渉とか特許とかは彼の後押しが無ければ手に負えなかっただろう。


 ネットで調べてみたがかなりのやり手で、もちろん報酬も高いはずだ。だが大した報酬も受け取らないまま、俺達の世話を焼いてくれている。

 なぜ彼がここまでしてくれるのかは分からないが。


「いえ、それは譲れないわ。だってそのために作ったのだから」


 ケーシーがこれまたはっきりした口調で言い返した。

 街で発生したダンジョンと、そこで戦った保安官(シェリフ)たち。そしてその戦いで怪我をした人を見た時からケーシーのこの研究は始まっている。

 俺が保安官(シェリフ)に登録したのも、あれを見たからだ。

  

 スミスが特に気にする様子も無くスマホを操作した。

 ケーシーの答えが分かっていたんだろう。


「となると……これを生かすとしたら」


「日本よ……日本ではまだダンジョンと戦っているって聞いたわ。ならこの子達にも活躍の場があると思う」

「それがいいかもしれないな、あの国は良くも悪くも自由だ。欧州は聖堂騎士団(テンプルナイツ)の規制が厳しい。きっと受け入れてもらえない」


 二人が当たり前のように言うが……この街を離れて日本に行って活動するっていうのか。

 俺たちは高校生だっていうのに……観光に行くのとはわけが違う。


 それに日本と言えばアニメとゲームとハイテク、寿司と忍者と侍の不思議な国、そんなイメージだ。

 テキサスの田舎にいるとどんな風なのか想像もつかない。


「それで行きましょう」

「よし、なら少しでも完成度を高めてくれ。私は日本のダンジョン対策の制度を調べる。日本で実績をだしてアピールしよう。スポンサーも集める」


 スミスが強い口調で言ってケーシーが頷いた。

 どうやら本気らしい。テレルと顔を見わせると、テレルの厳つい顔にも困惑の色が浮かんでいた。

 多分俺も似たようなものだろう。 


「日本語も勉強しておいてくれ。必ずや君たちにスポットライトを当てさせてみせる」


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