君との間にあった壁
にぎやかな中で席に戻ると檜村さんが乾杯するようにグラスを持ち上げた。
こっちもお茶の入っているグラスを振れ合わせると澄んだ音がした。
「良かったね」
「ええ、そうですね」
ケーシーたちは嬉しそうだし、もう一方のテーブルでは大人の人たちが乾杯を繰り返している。
上手く行っているというかハッピーな様子を見ているとこっちもうれしくなるな。皿に残ったピザを一枚摘まんで食べたけど、それもさっきより美味しい気がした。
「改めて4位昇格おめでとう、片岡君」
「ありがとうございます」
「これで同ランクだね」
檜村さんが嬉しそうな口調で言う。
原宿で最初に会った時を思い出した。あの時は僕は7位だった。そして檜村さんは4位。
あの時は4位なんて雲の上だと思ってた……というより上に上がろうなんてこと自体、あまり考えてなかった。
風鞍さんから4位を目指せ、なんて言われてたけどそっちも現実感は全然なかった。
まさか本当にここまで来れるとは。
ただ、自分が本当に4位に相応しいのかと言われると何とも実感がない。
試合で誰かを負かしたとかではないから、高校生で一番……と言われてもピンとこないというのが正直なところだ。
「実は君に追い付いてもらって……嬉しいんだよ」
「なんでです?」
「君はなんていうか、私が大学生で年上でランクも上ということを気にしてただろ?」
檜村さんが俯き加減で言った。
これは間違いなくある。斌さんに年の差なんて数年の差でしかないとは言われたけど、それでもやっぱり意識してしまう。
それに大学生と高校生はやっぱり違う世界にいる気がする。
「私が高校生になることはできないし、君と同じ年にもなれないけれど……ランクなら並ぶことができるからね」
檜村さんがワインを一口飲んで言う。
ほんのりと頬が赤い。最近は何となく酔っている時とそうでないときが分かってきた……今日は少し酔ってるな。
「だから片岡君。一つ壁も無くなったことだしだね……これを機会にもう少し、その……積極的になってくれると嬉しいよ……だって君が私を年上と意識してくれてるかもしれないけれど、私だってこの年の差には色々と思うところがあるんだ」
「……大学に遊びに行きましょうか?」
「それもいいんだが……やっぱり高校生は特別なんだよ。なんというか、その、距離が近いというか。もちろん大学生活には大学生活の良さもあるけれどね」
檜村さんが言う。
高校にいるとあまりそんな気もしない、というか大学生活なんてものを知らないから今一つ想像がつかないけれど、そういうものだろうか。
「ここまで言ったから、もう最後まで言ってしまうが……私だって例えば君と同じ年で同じ学校だったら……とか思うんだよ。
同じ制服を着て授業を受けて……二人で一緒に帰って帰りにどこかで寄り道したり、二人で弁当を食べたり……それに年上だから大人っぽくいないといけないとか思ったりするしだね……」
檜村さんが小声で言う……そんなことまで考えていたのか。
ただ、同じ高校だったら今みたいに接することができただろうか……同級生とか同じ学校にいるより、程よく距離がある今の方が落ち着ける気もする。
ただ、同じクラスで普通にイチャついてる三田ヶ谷とルーファさんを思い出す。
あの二人を見ていると同じクラスとかにいるのもそれはそれで楽しいのかもしれない。
「君のクラスにもきっとかわいい子とかいるだろうし……それに高校生5位とかだと目立つだろう?」
「それが意外にもそういう話にはならないんですよね」
5位になった時にはみんなからおめでとうは言われてしばらくは色々聞かれたけど、しばらくしたら落ち着いてしまって、良くも悪くも特に何も変わらなかった。
変に意識されても面倒だから個人的にはありがたい。
「そうなんだね……ところで、君は同じような心配をしてくれたりするかな?」
檜村さんが意味ありげな口調で聞いてくる。
これは……しないわけではない。斌さんを見てたらいかにも大人の紳士って感じだったし、檜村さんがどういう大学生活を送っているかは余り分からない。
「もちろん私は君以外のことを見たりはしないけれど……でも少しは焼きもちを焼いてくれるとちょっと嬉しいよ」
そう言って檜村さんがもう一口ワインを飲んでため息をついた。
なんか普段よりも饒舌だ……酒で勢いを付けている気がする。
「とは言っても……実はまあ昇格間近だったりするんだけどね」
檜村さんがちょっと自慢気な口調で言う。
そりゃ大体僕と同じ感じで戦っているし、今回も定着ダンジョンを攻略したんだからそれはそうか。
僕に功績点を分けてくれたけれど、魔討士協会の規定があるから功績点の全部は譲れない。だから檜村さんの功績点も増えている。
普通に考えれば昇格は遠くないだろう……というかすでに上がっていても不思議じゃない。
ただ、3位は完全に上位帯で、各地方のエースクラスになる。トップクラスとして評価される一方で特別な目で見られる。
だからこそ、昇格の条件も厳しいというのは聞いたことがある。
「3位は凄いですよね」
「ふふ……そうだね。3位になってみたい気もするけれど」
そう言って檜村さんが僕に体を預けてきた。
髪が頬に触れてふんわりとワインと髪の香りが漂う。
「……でも、今はこのまま君と並んでいたい」
檜村さんが上目遣いで僕を見ながら言う。
向かいではライアンとケーシーが何か言いたげに笑いながらこっちを見ていた。
微妙に気まずいけど……さっきまでの君達も中々だったぞ、とは言いたい。
◆
本編はここまで。
このあと、ライアン視点の幕間を追加します。
本業の繁忙期が絡んだためではあるのですが、web掲載にあるまじき更新ペースでお待たせして申し訳ない。
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