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彼らのその先・下

その後もいろんな料理が出てきた。

 ピザは薄くサクサク、パスタの茹で加減も絶妙、他の肉や魚の料理もどれも美味しい。


 食事も進んでトイレで少し席を外したら、出たところでスミスが待っていた。

 タイミングが被ったとかじゃなくて、話があるっぽい。


「ミスター片岡、改めて今回のことに心から感謝する。彼等を救ってくれて本当にありがとう」


 スミスが真剣な口調で言って深々と頭を下げてくれた。


「そして君を金で買うようなことをした無礼を詫びさせて欲しい」

「いえ、それはいいです」

 

 金で言うことを聞かせようとするような言い方には少し腹が立ったけど、この人があんな大金を払う理由はない。

 この人なりにライアンたちのための行動なんだろうなということは分かった。


「彼らが無事で本当に良かった」  

「でも、10万ドルなんて払ったら損なんじゃないですか」


 10万ドルというのはあの時はよくわかっていなかったけど、通帳の残高表示を見たら実感がわいた。

 文字通り貯金が2桁違うわけで、思わず二度見してしまった。


 ……というか本当に払ってくれるとは思ってなかった。

 少し皮肉も込めて言ってみたけど、スミスが平気な顔で首を振った。


「ケーシーの案山子(スケアクロウ)は対ダンジョンの兵器にとどまらない。あのドローンと制御AIは間違いなく数億ドルクラスの取引になる。

ここで彼らの道を途絶えさせると今までの投資が無駄になる。代理人(エージェント)はビジネスだ。あくまで金の為だよ」


 そう言ってスミスがケーシーの方に視線をやる。

 テーブルの方ではライアンとケーシーとマリーサ、それに檜村さんが何か楽し気に話しているのが見えた。


「ケーシーは天才だ。正直言って、対ダンジョン兵器などにその才能を向けずにもっと合理的なってほしいんだがね……偉大な才能は時に偏屈というか凡人の理解を超える。天才は天災のようなものだ。私のような凡人はそれに合わせるしかないのさ」


 スミスが苦笑いしながら言う。

 天才か……正直言ってダンジョンの中で戦える武器を作れるなんて想像もしなかった。まだ自衛隊とかもあそこまでのものは作れてはいないっぽいし。

 同じ年とは思えないな。


 それに宗片さんとかも中々変人というか変わってる。

 天才なんてそんなものかもしれない。


「しかし彼女が天才でも、実際に戦うライアンや支えるテレルやマリーサが居てこそだ。偉大な進歩は一人の天才だけでは成し遂げられない」


 スミスが独り言のように言う。何となく弟を見守る兄のような口調だ。

 金のためと言ってはいるけれど、ライアンたちに単なる客以上に思い入れがあるんだろう、というのはわかった。


 というか、そうでないとここまでやらないだろうな……なんではっきり言わないのかは分からないけれど

 大人ってやつはそういうものなんだろうか。


「そして、優れた知識や能力は世の中に出て人に使われてこそ意味がある。そのためには金だって必要だ。

金があれば何でもできるわけじゃない。だが金がないと出来ないこともあるということさ。

だから、カタオカ。今回の10万ドルはいつか君の役に立つ日が来る。金はないよりはある方が良いだろ?」

「まあそうかも」


 とはいえ、今回貰ったお金は桁が違い過ぎて高校生としては今一つイメージできない。

 絵麻のギアが幾つ買えるのやらって感じだ。

 

「そもそも、君もそうだぞ。高校生史上初の4位到達は天才と言っていい。それに私から見れば数万ドルの取引を断る君も中々の変人だ」

 

 スミスが真顔で言う。

 ……褒めてくれているのか、ディスられているのかよく分からない。

 スミスが親し気に僕の肩に手を置いた。肩に置かれた手は大きくて結構力強い。

 

「どうだい、私と代理人(エージェント)契約をしないかね?君やミズ・ヒノキムラを見ているとあくどい大人に騙されそうで不安になるよ。

なんせ君は日本初の高校生乙類4位昇格者だ。周囲も放ってはおかないだろう。今後は色々とビジネス面でもエキスパートが必要になると思うのだが」

「……考えておきます」


 そんな話をしていると、不意にケーシーたちの方から歓声が上がった



「聞いて、皆、今ミスター木次谷から連絡があったわ」


 ケーシーがスマホを掲げていう。


「日本の九角(くずみ)工業が資金提供を申し出てくれているそうよ。対ダンジョン兵器として。あとは自衛隊のダンジョン対策部門も研究費用と技術協力をしたいって」

「やったぜ!これでチームOZで活動が続けられるな」

「おお!おめでとう!」

「これからもよろしくな、ライアン君」


 ライアンが嬉しそうに言って、マリーサやテレルたちとハグしあった。

 周囲から拍手と歓声が上がって、ライアン達とサポートの人たちがハイタッチする。

 

 なんせダンジョンの魔獣の攻撃を止められる装備だ。

 自衛隊としては喉から手が出るほど欲しい装備だろうなと思う。


 実際のところ乙類としては防御の補助をしてくれる装備とかはあると有難い。

 防御が堅ければその分攻撃に意識を割ける。


 それに攻撃を受ければ痛い。そしてちょっとした痛みや怪我でもけっこう動きに影響する。

 ゲームみたいに攻撃を受けてもHPが減っただけで平気、という風にはいかない。


「勿論大丈夫です。ぜひとも近日中に……」


 ケーシーが答えようとするけれど、スミスさんが足早に歩み寄っていってひょいとスマホを取り上げた。


「ミスターキジタニ、素晴らしいオファーをありがとう。

しかし、そういう話は私を通してもらいたい。私は彼らの代理人(エージェント)だからね。彼らへの配慮には感謝するがビジネスの話は別だ」


 しっかりビジネスマンに口調に戻ってスミスが言った。

 この辺はしっかりしているな。それはそれ、これはこれ、ということらしい。


 スミスが話をしながらレストランを出て行った。

 いい知らせがあって何となく会場の空気が明るくなった気がする。


 この後も日本で活動するんだろうか。

 大学の奨学金がどうとかライアンが言ってた気がするけど、日本で進学するつもりなのかな。

 そうだとしたら、また一緒に戦うこともあるかもしれない。



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― 新着の感想 ―
そうね。テレビのワイドショーとかで思いっきり持ち上げておいて、視聴率が取れなくなってきたら有る事無い事…ってやられそう。 それを防ぐ為の防波堤はあると便利そうです。
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