戦いの終わり、その後・下
ひとしきり終わった時にはすでに8時を回っていた。
ライアンは念のためってことでスミスが車で病院に連れて行った。命に別状はなさそうだったけど、何か所か切られてたし、その方がいいだろうな
そして、こんなことになるなんて思ってなかったから、家に連絡するのを忘れてた。
もうとっくに晩御飯の時間のはずだ。絵麻に電話をするとすぐに出た
「もしもし、絵麻?」
「あ、アニキ……やるじゃん、大活躍だったみたいだね」
事情を説明しようとする前に絵麻が言った。
「……なんで知ってる?」
「ばっちりテレビでやってたわよ。立川の定着ダンジョンで取り残された人が居るっていうニュース。で、アニキと檜村さんが助けに行ったってSNSで盛り上がってた」
「……そうなんだ」
戦っているうちにそんなことになっているとは。
「……母さんは?」
そう聞くと絵麻が電話の向こうで沈黙した。
「……まあ、ちょーっと怒ってるからさ、檜村さんとご飯でも食べてきたらいいと思う。朱音とあたしでなだめておくから」
「ああ……悪いけど、よろしく」
とりあえず通話終了のアイコンを押すけど、思わずため息が出た。
……絵麻の口調からも、かなり怒ってるだろうというのは想像がつく。
母さんは僕の魔討士としての活動をあまり良くは思っていない。
というか、危険だから辞めなさい、と言われたことも何度もある。
しかも今回はわざわざ危ない場所に突っ込んでいった形なわけで、怒り心頭だろうな。
「どうしたんだい?」
「ちょっと、母さんが怒ってるっぽいんで……晩御飯を食べにいきませんか?」
「ああ、それは大歓迎だが……いいのかい?」
「心配されてるんですよね……ちょっと面倒ですけど」
心配してくれているのは分かるんだけど……それでも多少わずらわしさも感じる。
僕は自分の意思で魔討士をやってるわけで、今更辞めたりするつもりはない。だからこそ、あまり嫌な顔はしてほしくない。
「……そうか、でも君のお母さんの気持ちは分かるよ」
檜村さんが言う。
そういえば檜村さんは富山城のダンジョンで大怪我をして入院したこともあるし、筧さんが入院して目覚めない姿も見ている。
心配される側、心配する側のどっちも経験があるから分かるのかもしれない。
「まあでも、無事でよかったじゃないか。誰も死なずにすんでよかった」
ちょっと重くなった雰囲気を変えるように檜村さんが言った。
母さんの気持ちは分かるんだけど、この話は多分簡単に決着する話じゃないわけで、今ここで沈んでいてもあまり意味がない。
「……しかし片岡君、本当に誇らしいよ。君は、本当に……強くなったね」
「あのサイズならどうにかなるんですよね……デカいのは無理ですけど」
前に戦った女王アリみたいなのとか、アラクネみたいな大きい奴だと耐久力も高いから風で切ってもなかなか有効なダメージにならない。
そもそも人の部分に刀が届かない。でもあの人間サイズの奴なら何とかなる。
逆に、檜村さんの魔法は強いけど、あの小さいほうのタイプには相性が悪い気がする。
あの速さでもこっちに向かってきてくれる分には凌げるけど、誰でもいいって感じで動かれたらどうなるかは分からない。
そういう意味では今回はかなり運が良かった。
あいつが技を使うことというか、腕比べに拘ってくれたからだな。
「そんなことよりだね……片岡君」
「なんです?」
「あの彼女たちといつの間にあんなに親しくなっていたのかの方が……私には気になるよ」
檜村さんが静かな口調で言う。ただ、静かだけど圧を感じる口調だ。
そういえばライアン達と会ったりしたのは僕一人だし、彼らの事を話したのは斎会君たちとだ。
ライアンたちの事は檜村さんにはあまり詳しくは言ってなかった気がする。
とはいえ、単に少し話しただけだし、そんなに気になるだろうか……と思ったけど目が結構真剣なのが怖い。
「いや、乙類5位の関係でライアンと話している時に話しただけですよ。そんな気になるもんですか?」
「気になるかって……当たり前だろう。だって君はどんどん凄くなっていっていくんだから」
檜村さんが俯き加減で言う。
「……気になるよ」
こういう時は、心配することなんてないですよ、とスマートに言うのが大人の男なんだろうか……そんなことを考えていたら、スマホが通知音を鳴らした。
魔討士アプリの通知音だ。
スマホを見ると画面にメッセージが浮かんでいた。
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