待ち受けていたもの
『やっぱり来るんだねぇ、お前等は。そういう習性なんだねぇ、同属を助けようとする……』
「案山子!突撃!」
問答無用とばかりにケーシーがそいつを指さすと、二機のドローンが空中を複雑な軌跡を描いて飛んだ。
盾を展開していた部分からビームサーベルのように光が伸びる。
真上と背中からドローンがそいつに向かって突進したけど、そいつがハエでも払うかのように手を振り回した。
ドローンが金属音を立てて吹き飛ぶ……やっぱり強い。
床に転がったドローンから光が消えた。
そいつがドローンを見る
『見た目は同じだけど違う能力なのか。そういう種族なのかい?お前の同族はみんなそんな能力を持ってるのか?』
そいつが僕等を見ながら言う。
『最近、私たちの巣穴を壊してるその黒い殻のを殺すつもりだったんだけど……ここでお前に会えるとはね、お前に会いたかったんだよ』
そいつが指さすように鎌を持ち上げて僕に向けた。
『知ってるぞ、お前を。お前はカタオカというんだな。個体名か?属名なのか?』
「僕のことが分かるのか?」
はっきり言ってこの蟲達に相手を認識するような知性があるとは思えない
戦う時とかは多少知恵が回るとは思うけど。
『前のお前が殺した奴を覚えてるか?』
「……あの代々木の奴か?お前に似てる奴」
代々木のグラウンドで最後に戦ったのがこいつとかなり似ている。
こいつらにも種族とかそう言うのがあるんだろうか。
『ああ、そうさ。アイツはわたしより強かった。アイツが負けるのは信じられなかった。たかが遅くて弱い人間ごときにやられるなんてね』
「お前等にも仲間意識とかあるんだな」
『なぜか考えたよ。お前等人間は、あの獣共もだが……どういえばいいか分からないが、そう、お前等はうまく動くんだ。あいつはそれに負けた』
そいつが言う。
『あいつがなぜ負けたか気づいた日から、うまく動けるようにそれを磨いた。だからお前で試させてもらうよ』
そいつが鎌を大きく振るとゴトゴトと後ろで音がする。
後ろを見ると、さっき入ってきた帰り道を岩が塞いでいた。
『それに、あの獣どもより、その良く分からない硬い物や人外の力をつかう奴が多い分お前らの方が厄介だ。
先にお前らの戦士の数を減らさせてもらう』
「いつもの得意技は使わないのか?背中から斬るのがお前らの得意技だろ」
周りは岩肌で特に他の魔獣はいない……とは言ってもこいつらは地面や壁に潜んでいることもありそうだけど。
『それじゃ意味がない気がするんだよねぇ』
そいつが言う。
不意打ちとかそう言うのをする気は無いってことか。
とはいえ、今はこっちの方がありがたい。
そいつへの警戒を切らないように軽く後ろを見る。
ライアンは立ち上がっているけど、全身に切り傷がある。あの分じゃ戦えないだろう。
それに、速さでゴリ押しされて乱戦になったら、ケーシーや檜村さんも危ない。
サシで戦えるならその方がいい。
そして。
師匠が昔行っていたことを思い出した。
「いいか、片岡。何度も言う通り、身体能力を凌駕することが剣術だ。
だが一番恐ろしいのは、勤勉な天才だ。まああんまりいないがな」
「なんでです?」
「俺たちがしんどい修行をするのは出来ないことをやるためだ。努力しないでできるならわざわざ何千回も素振りしたりとかする必要ないだろ」
「まあ……そうかも」
確かにそうなんだけど、相変わらずこの人は身も蓋も無いことを言うな、と思ったのを覚えている。
「だが、稀にいるんだ、そういう奴がな。
技は身体能力を凌駕するが、同じ修行をするなら身体能力が高い方が強い。それが現実だ」
あの時、師匠がかなり真面目な顔で言った。
「まあ味方にいる分には何の問題も無いんだがな」
「そういう敵がいたらどうするんです?」
「確実に殺せ。手に負えない相手になる前に……未熟な間に息の根を止めろ」
こいつは正にそれだ。
……なんとしてでも此処でこいつは倒さないといけない。
それに、あの蟲達が「技を磨く」という概念を持ち始めたら危険だ。
やるしかないか。
前の女王アリとかみたいにバカでかいのでなければ僕でも倒せる。
「ケーシー、檜村さん、防御を固めていてください」
「カタオカ、あなたへの防御は……」
「いや、必要ない」
案山子と連携が取れるならありがたいけど、その辺が分からないなら邪魔になる可能性がある。
それに今はケーシー達が戦いに巻き込まれる方がまずい。
「分かった……幸運を」
「【書架は南東・記憶の六列・参拾弐頁八節。私は口述する】」
残った二機の案山子が盾を展開して三人の前に陣取った。
檜村さんが返事替わりって感じで詠唱を始める。
「【今、敵は迫り鬨の声は門の外より響く。戦の時はきた。
されど恐れるなかれ。我等の四囲に聳えるは家祖が築きし高き城壁。其を超えること能うは北天より山嶺を越え来る渡り鳥のみ】術式開放」
青白いドームのような結界が檜村さん達を覆った。
これでひとまず安心か。
「【書架は南東・理性の七列・五十二頁21節。私は口述する】」
もう一つ、檜村さんが詠唱を始める。
そいつが左右の手の鎌を一振りして、左の手を伸ばして半身の姿勢を取った。
構えのように見える。前の奴とは確かに違うな。
「【『災いは影のごときものなれば、光満つれば其はおのずと退くが理』術式解放】」
体を白い光が覆った。
防壁の魔法だ。これなら一撃くらいは耐えられる。
「こいつは僕が倒す」
本章の最後まで一気に行くつもりでしたが、ちょっとお待ちください。
本業が繁忙期なうえに、書籍化作品・死姫と呼ばれた魔法使いと辺境の最強剣士、の校正作業中につき、マジで時間が無いのです。
作業が終わり次第、続けます。多分今週末当たり。
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