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突入

 ダンジョンの中に入った。

 岩肌むき出しって感じの奥多摩系のダンジョンは3人が並べるくらいの広さしかない。

 天井の低さも相まって地面の底に潜っていくかのような感覚になる。


「来い、鎮定」


 風が巻いて鎮定が空中に浮かび上がった。

 ケーシーが興味深そうにそれを見て、赤く照らされたダンジョンの奥に目をやる。 


「偵察と防御は私がやるから、全力で前に進んで。

ダンジョンマスターまでの道はライアンのデータがあるから、進路も指示するわ」

「分かった」


 ケーシーが回廊の奥を指さすと、ドローンの一機が先行するように飛んだ。


「しばらくは敵はいなさそう」


 ゴーグルにルートとかドローンからの映像が出ているんだろうか。

 いずれにしても不意打ちを警戒しなくていいのは便利だ。


「よし、行こう!」


◆ 


 一階層は大して敵はいなかった。

 ケーシーが敵の場所を教えてくれるから、それに合わせて破矢風を打ちこんでいけばいいだけだったけど。


「待って、この先……敵がいる。沢山」

 

 2階層の途中でケーシーが言った。

 ドローンがモーター音を立てて戻ってくる。


 確かになにかがいる気配がする。

 回廊の角を曲がると広めの廊下を腰位まである芋虫のような魔獣が埋め尽くしていた。


「これは……」


 あまりにも多い、と言うより早く、芋虫が一匹跳ね上がって飛び掛かってきた。とっさに空中で芋虫に一太刀浴びせる。

 刺激臭が一瞬鼻を突いて、地面に落ちた芋虫がライフコアに変わった。


 間髪入れず、芋虫の群れの中段のやつが立ち上がるように体を持ち上げた。

 何か仕掛けてくる。


案山子(スケアクロウ)防御陣形ガードフォーメーション!」


 風を使うより早く4機のドローンが僕の前にホバリングする。

 青白い光が盾のように浮かぶのとほぼ同時に、芋虫の群れが粘液の塊を吐いた。


 粘液が盾に降りかかる。盾が明滅して相殺するように粘液を止めた。

 どういう仕組みなのか分からないけど、本当に機械で魔獣の攻撃を止められるのか


 ドローンの盾の向こうの芋虫の群れを見る。

 さっきの感じ、単独では単なる雑魚っぽいけど、これを全部倒すのはかなり時間がかかるぞ。


 よく見ると、岩のような床にはいくつものライフコアが転がっていて、血で汚れていた。

 ここでサポートの人たちは止められたらしい。

 

「急いだ方がいいだろう。私が道を切り開くよ」


「大丈夫ですか?」

「ダンジョンマスターに一発食らわせるくらいの余力は残すさ。大丈夫だ

【書架は南西・創造の参列・五十弐頁八節。私は口述する】」


 檜村さんが言って詠唱に入った。ならやることはいつも通り

 芋虫がじりじりと距離を詰めてくる。

 

「【此処にとある騎士あり。右手には騎兵槍、左手には丸盾、その身に纏うは黒金の甲冑。供は一人の従卒と赤毛の老馬。その名は数多の兵とともに戦場に消えしもの】」

「ケーシー、防御は頼むね。一刀!破矢風、天槌!」


 防御を任せられるなら、こっちは攻撃で少しでも足を止めてやる。

 空中から降り注いだ風の塊が芋虫の群れの先頭を押しつぶした。


 潰れた芋虫がライフコアに変わるけど……お構いなしに後ろから芋虫が進んでくる。

 回廊の奥からはさらに新手が出てきた。どれだけいるんだ。

 

 もう一度芋虫が粘液を吐いて、さっきと同じようにドローンの盾が粘液を止めた。

 不安げなケーシーが、盾を展開したままのドローンと芋虫と、詠唱を続ける檜村さんを代わる代わるに見る。


「大丈夫。もう少しだから」

「【汝よ来れ、我が戦列に加われ、矍鑠(かくやく)たる武勲を上げる時は来た。たとえ世界の全てが忘れようとも、我は汝の名を呼ぼう。汝の名はオーギュスト!】術式解放!」


 檜村さんの詠唱が終わると、芋虫の群れの前で黒い糸の玉のようなものが浮かんだ。

 糸が絡みあって何かを形どっていく。わずかな間があって、巨大な馬に乗って鎧を着た騎士のようなものが芋虫の群れの前に現れた。

 

「進め!」


 檜村さんが言うと馬が大きく足を踏み鳴らした。

 騎士が突進して芋虫が次々と潰されていく。道が開いた。


「これが4位の魔法なのね」


 ケーシーが感心したように言う


「行こう!」



 結局、檜村さんの魔法の騎士は群れを全部薙ぎ倒してくれた。

 その群れを倒した先は殆ど敵はいなかった。階段というか傾斜のような通路を抜けて三階層に入る。


 また先行するようにドローンが飛ぶ。

 3階層、ここがダンジョンマスターのいる階層だ。


「この先には敵はいないわ!次の分岐は左!」


 ケーシーが言う。

 回廊の先から木霊のように何かがぶつかり合う音が聞こえてきた。 

 戦闘音だ。まだライアンはやられてない。

 

「この先の分岐を右。その先は20メートル、広い部屋になっててそこにダンジョンマスターがいる!」


 分岐を右に曲がるとまっすぐな回廊が伸びていた。その先がダンジョンマスターの間か。

 通路の半ばほどで甲高い音が響いて、ライアンらしき人影が壁にたたきつけられたのが見えた。

 

「ライアン!」


 ケーシーが叫んで奥を指さすように手を上げた。


「いけ!案山子(スケアクロウ)


 ケーシーの声に押されるように4機のドローンが僕等を追い抜いて猛スピードで飛ぶ。

 ドローンがライアンの前に割り込んで青白い盾を形成した。盾が何かを受け止めて火花を散らす。


「一刀、破矢風!」


 走りながら鎮定を振り下ろす。

 風の刃が飛んでライアンの前を切り裂いてなにかが飛び退った。

 

 そのままライアンの前に走り込む。

 ドローンが盾を形成したまま僕を守るように浮かんだ。

 

「無事?」

「ライアン、良かった!」


 遅れてケーシーと檜村さんが走り込んでくる。

 二人が大きく息をついた。3階層はほぼ走りづめだ。僕も息を整える。


「ケーシー……それに片岡。なぜここに」


 ライアンが状況が分からないって顔で僕等を見上げた。

 床にはドローンの残骸が転がっていて、ライアンのボディスーツのあちこちに切り傷から血が流れている。


 でもとりあえず致命傷とかそういうのはなさそうだ。

 とりあえず間に合ったか。


 ただ……本番はこれからだ。

 ダンジョンマスターはどんなやつなのか。


 ドームのような丸い天井の広い部屋の奥の方を見る。

 赤い光に照らされた部屋の奥にはいたのは、案山子の様にひょろりとした体の人型の奴だった。



 細い腰の周りには透明のスカートのような者が巻き付いていた。

 細長い左右の手の先にはアンバランスな巨大な鎌のようになっている。

 カマキリのような三角形の顔の大きく張り出したあごの間に人の顔のようなものが見えた。


 見覚えがあるというか……代々木で戦ったやつと瓜二つだ。

 ということは。


『へえ、まさかここでお前が』


 そいつが言葉を発した……案の定と言うか、こいつはあの知性の有る蟲か。

 普通の蟲系だったらよかったんだけど……こいつじゃライアンが苦戦するのも無理ない。


 鎮定を構えて相手の様子を見る。こいつらはどんな汚い手を使ってくるか分からない。

 そいつが探るようにこっちを見た。


『嬉しいな、お前に会えるなんてね……お前、カタオカっていうんだな』

 

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