日野定着ダンジョン攻略・下
「え、マジかよ?」
「本物?」
「やべ……聞こえたかな」
「あれが片岡君?」
「ほんとだわ、あの顔テレビで見た」
「五位が来たって、本当に?」
「あの眼鏡の魔法使いの子も見覚えある。動画でみたぜ」
なんか白けた感じのムードが一転してなんか期待に満ちた雰囲気になる。何人かは気まずそうにこっちを見ていた。
しかしそれはそれとして……恋人って。
「片岡五位だけではありません。
三田ケ谷君、ルーファさんも高校生ながらそれぞれ7位の実力者です!もう安心です!」
反応を確かめるように高木さんが胸を張って言う。
同時に周りから大歓声が上がった。
「おお、やるじゃん、市役所!」
「随分大物を呼んできたなぁ」
「本当に助かります」
「頼むぞ、兄ちゃん」
「サクッと倒してくれ」
「こんなところに有ったら困るのよ……子供もいるし」
「本当に怖いわ。どうにかしてください」
「お兄ちゃん、頑張ってー!」
「頑張れー」
「お姉ちゃん、頑張ってね」
「片岡君!こっち向いて―」
周りから次々と歓声と拍手が上がる。
なんか思ったより期待されているっぽいな。
定着ダンジョンからモンスターが飛び出してくるなんてことは今まで一度もない。入らなければ危険はない。
そう言う意味では直接的な危険と言う意味では野良ダンジョンの方が余程危ない。
とはいえ、定着ダンジョンの周りは野良ダンジョンが発生しやすい。
これは統計もあるらしいから、住宅地のど真ん中は迷惑極まりない。
それにそう言うのが無くても、不気味な存在なのは確かだし。
ただ。
「なんでこんな大事に?」
「さすがだな、片岡五位」
「戦士は民のために魔獣と戦うものですし、私の村でも送り出すときはこのような感じでしたよ」
ルーファさんが盛り上がる周りを見ながら誇らしげに言う
ここまで大袈裟になると失敗したら中々に恥ずかしいな。しっかりしないと。
地面に開いた洞窟のような外見、どうやら奥多摩系らしい。
どんな魔獣がでてくるのか。
◆
結局一回様子見をしてからの再突入で、ダンジョンマスターの間にたどり着けた。
まだできてから間がないからなのか階層は三階層までで、横にもさほど広くなかったからそこまで中の探索に時間がかからなかったのは助かったな
奥多摩系のご多分に漏れず、敵の数が多かったのは面倒だったけど。
数は多かったけどどれもあまり強くはなかった。
ダンジョンマスターは芋虫のような見た目の毒液や糸を吐いてくるやつだった。
三田ケ谷の斬撃を受けても平然としていたから耐久力はあったようだけど、動きが遅い敵は檜村さんにとってはカモでしかないわけで。
毒液と糸を風で止めて魔法を打ち込んだらあっさりと倒せた。
「意外に大したことなかったな」
市役所が用意してベンチで水を飲みながら三田ケ谷が言う。
ダンジョンがあったところはもう何もなくなっていて、子供たちがコンクリートの地面を蹴っ飛ばしたりして遊んでいた。
確かに……というか比較してはいけないんだろうけど、代々木とか富山とかに比べるとさほど危険な感じはしなかった。
修羅場をくぐったのはいい経験にはなっている……こういうのに慣れるのは良くないのかもしれないけど。
ただアプリで見てみたけど功績点は其処まで増えなかった。
今回のダンジョンマスターはさほど強くなかったし、4人で討伐した、と言うのもあるんだろうな。
「一応、片岡君に目いっぱい多めに功績点をつけるようにはしたが……」
「ありがとうございます。三田ヶ谷達もいいの?」
今回は僕のランクアップに付き合ってもらっているから、ということで功績展を規定の範囲内で傾斜配分してくれてはいる。
「俺はダンジョンマスターと戦れたから満足してるぜ。いい経験になった。ポイント分は貸しにしておいてやるよ。何か奢ってくれ」
「私は序列には興味はありませんので大丈夫です」
二人がスマホを見ながら答えてくれた。
正直言うと今は有難い。
ただ、ライアンの話を聞く限り、週に一つか二つくらいのペースで戦ってるっぽい。
しかもソロだし、このままじゃマジで追いつかれそうだな
「お疲れ様でした、片岡五位。お見事でした。流石です」
「ありがとうございました」
高木さんと魔討士協会の人が声をかけて来てくれた。高木さんの顔には安どの表情が浮かんでいる。
「また討伐をお願いすると思いますが…できれば前向きに検討してください」
「最近は多いんですか?」
「ええ、殆どが奥多摩系ですね。実は魔討士にも怪我人もでていまして……討伐が進まないケースが増えてきています」
どれだけ浅くても定着ダンジョンは油断できる場所じゃない。
野良ダンジョンなら逃げられるけど、定着ダンジョンはそういうわけにはいかない。
それになんだかんだでダンジョンマスターは強敵だ
「深くなる前に潰しておきたいので、ぜひご協力をお願いします」
魔討士協会の人が深々と礼をしてくれる。
「また討伐要請があったら行きたいんだけど付き合ってくれる?」
「もちろんだよ」
「ああ、いいぜ」
「戦うのは戦士の本懐ですので、いつでもどうぞ」
三人がそれぞれ答えてくれた。
とりあえず討伐要請が来る限り戦ってみるか。
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