日野定着ダンジョン攻略・上
「というわけでちょっと真面目に4位を目指してみたいんだけど手伝ってくれる?」
ライアン達と会った翌日の月曜日。
学校の帰りに三田ヶ谷とルーファさんに声をかけてみた。
流石に定着ダンジョンに単独で突入するのは危なすぎる。同行者は必要だ
「ああ、勿論いいぞ」
三田ヶ谷があっさりと応じてくれた
……これはありがたいけど、定着ダンジョンだということを分かっているのだろうか。
「頼んでおいていうのもなんだけど、定着ダンジョンだよ」
「分かってるさ。でも富山のアレよりはマシだろ。しかし、珍しいな、お前がそんなこと言うなんてな」
「それはまあそうかもね」
今まではあまり気にしなかった……というか、普通通りにやって僕か清里さんか斎会君の誰かが一番ならいいかな、くらいに思っていたけど、
ライアンのように明確に抜きに来る相手がいるとこっちもポイント取らないと、という気分になる。
それに、追いかけてくるならこっちも逃げるのが礼儀な気もするし。
SNSを見たけど、清里さんもまたどこかの定着ダンジョンを討伐したらしい。
しかし最近は本当に定着ダンジョンが多いな。
「昇格したら俺が育てたとか言っていいか?」
「別にいいけど……ルーファさんもいい?」
「ええ、もちろん……ただ」
ルーファさんが前髪をいじりながら顔を逸らす。
少し端切れの悪い口調だ。
「都合悪い?」
「いえ、そうではありませんが……この世界の戦士の方は……なんというか序列に拘り過ぎのように思えます。
戦士としての才覚があるものはまず民のために戦うべきです」
ルーファさんが生真面目な口調で言う。
普段はあまりランクについては気にしないけど……今はそう言われても仕方ないかもしれない
「ただ、今回は魔討士協会の要請でもあるんだ」
ただ、今回は魔討士協会から討伐依頼と言う形で要請が来た。
こんなのは初めてだけど、こういうところも含めて定着ダンジョンの数が増えているのは感じる。
要請は要請だから勿論拒否はできるけど、功績点的にこの状況で拒否する意味はない
……それに定着ダンジョンを放置はできないし。
「そういうことなのですね。なら喜んでお手伝いいたします」
「で、どこに行くんだ?」
「とりあえず日野にしようかと思う」
討伐要請は何か所か来ているけど、一番手近なのは日野のやつだ。
「分かった、日曜でいいだろ?」
「しっかり戦いましょう、カタオカ様、ミタカヤ様」
◆
次の日曜日、檜村さんと三田ケ谷、ルーファさんと合流して日野に行った。
「今日はありがとうございます」
「君が行くんだから、私も一緒に行くのは当然だろう。違うかい?」
檜村さんがいう。
今日は動きやすそうな黒のパンツに白いシャツのシンプルな装いだ。
ルーファさんは大きめのキャリーケースを引っ張っている。
何時も戦いの時に着ている例の赤い衣装が入っているんだろう。
改札を出ると魔討士協会の人と、背広姿の30歳くらいの若い男の人が改札のところで待っていてくれた。
男の人がきびきびと一礼してくれる。
「今日はありがとうございます。日野市役所の高木です。ダンジョンは駅から少し遠いのでお送りします」
「ああ……それはありがとうございます」
討伐要請に応じるのは魔討士協会に言っておいたけど、なんか偉く大袈裟になってるな。
高木さんの先導で駅を出る。よく晴れた駅前のロータリーにはバスが何台か止まっているけど、あまり人はいなかった。
白い日野市のロゴが付いたミニバンが止まっていて、高木さんがそれに乗り込む。
僕等も乗り込むとすぐに車が走り出した。
「どういう状況なんですか」
「定着ダンジョンなのですが。先週の日曜の夜の間に突然現れたらしいんですよ。住民からの情報によれば夜の12時頃には何事もなかったそうです。
朝の4時頃にアプリが警告を出して、表に出てみたらすでにダンジョンがあったとのことで」
運転席から高木さんが教えてくれた。
野良ダンジョンが定着するんじゃなくて、いきなり定着ダンジョンが現れる感じらしい。
このケースが最近増えている、というのもアプリの通知で回ってきている。今回もそのパターンらしい。
とはいえさほど階層が深くないから出てきた都度、大体は討伐されている、
ライアンたちが狩り回っているのもそれだろう。
「住宅地のど真ん中でして、さっさとどうにかしろという苦情が多くて。
でも定着ダンジョンを討伐できる人はそんなに多くないですし……平日は皆さん仕事の方も多いようで」
魔討士は学生とか社会人の兼業が多いから、平日はパーティ揃って討伐というわけにはいかないのかもしれない。
僕の場合も、学校に言えば平日でも休みを取らせてはくれるかもしれないけど、いい顔はされなそうだ
そんな話をしているうちにミニバンが細い路地に入っていった。
一戸建てが立ち並んでいる、落ち着いた住宅地って感じだな。
車が停まったから外に出る。
黄色い通行止めのテープの向こうに十字路の真ん中に地面がめくれたような穴が開いているのが見えた。
ダンジョンを家族連れって感じとの人たちが遠巻きにしている。
何人かがこっちを見た。
「あれ、魔討士?」
「おいおい、女の子と子供じゃないか……」
「大丈夫なのかよ」
「市役所も役に立たないな」
まあ確かに高校生ではあるけど。ひそひそと話しているつもりっぽいけど……聞こえてるぞ。
高木さんがミニバンからメガホンを取り出した。
「皆さん、片岡5位が来てくれました。高校生最強の一角、東京の風使い。
そして、その恋人でもある丙類4位の魔法使い、檜村さんです!」
高木さんがの声に周りが静まり返った
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