それぞれの物語・上
こうなってしまうと、あとは単なるポイント稼ぎ競争だ。
だから、彼らについてこれ以上気にする必要はないと言えばないんだけど、何となく気になる。
結局この辺は本人に聞くしかない
そして、今後彼らと順位を争うなら、彼らについて知っておきたい
そんな気分もあってライアンたちに会いに行くことにした
どこにいるかはすぐにわかる。
動画サイトyour theaterのチャンネルで次にどこに討伐に行くのかを宣伝しているからだ。
再生数や日本語のコメントは着実に増えてきている
先週と今週は平日の水曜日に千葉に居たらしいけど、今週末は神奈川の相模原に行くらしい。
相模原ならさほど遠くはない。しかし本当にハイペースで戦ってるな。
土曜の昼頃に家を出た。
中央線から八王子を経由して横浜線に乗り換えると相模原は割とすぐについた。
北口を出る。
相模原に来るのは初めてだ。駅前は大き目の団地が並んでいるけど、道路を挟んだもう片方は広めの空き地が広がっていた。
もうそろそろ梅雨だけど今日は晴れてよかった。
少し湿った風が吹き抜けて行った。
ダンジョンの場所は魔討士アプリで調べたらすぐ分かった。場所は駅から歩いてすぐ近くの広い駐車場だ。
魔討士アプリを見ながら歩くと、家族連れの自転車が横を通って行った。
この辺は住宅地っぽいな。
着いたのは1時ごろだけど……すでに討伐は終わったらしい。
魔討士アプリでも地図上に討伐済みのマークがついていた。
◆
地図に従って歩くと、ダンジョンがあった場所についた。
赤い住宅展示場の看板の傍の広々とした駐車場にはもうダンジョンの形跡はない。
その辺の道路には通行止めの黄色いテープが張られているけど、警官の人がテープやカラーコーンを片付け始めていた。
ギャラリーらしき人たちが20人ほど周りでたむろしている。
ダンジョンの周りには魔討士協会のスタッフらしき人たちがいる。
タブレットを片手に何か話していたけど、その1人が僕の方を見てこっちに駆け寄ってきた。
「片岡五位ですね。お疲れ様です。わざわざお越しいただいたのですが、すでに討伐は終わっていまして……」
「ええ、知ってます。ライアンたちはいますか?」
「はい、あちらに」
その人が指さしてくれた先。
歩道に簡易なテーブルとかが置かれていて、そこにライアンたちが居た。
「おや、片岡君じゃないか」
ライアンが僕に気付いて片手を上げて挨拶してくれた。
ラフな感じのパーカーに着替えている。討伐直後らしく、顔には疲れた感じが見て取れた。
汗で髪も乱れている。
隣にいたケーシーが軽く会釈してくれた。
どうやら今日はスミスはいないらしい。
代わりに前には会わなかったドレッドヘアの黒人の人が少し離れたテーブルにいた。
机の上には黒いスーツが広げられていてパソコンが横に置かれている。多分メカニックとかそう言う感じだろうか。
「討伐なら俺が先を越させてもらったよ……それともわざわざ来てくれたのか?」
ライアンが気さくな感じで聞いてくる。
どう切り出そうかと思ったけど……ここまで来て曖昧に言っても仕方ない。
「こういうことがあったんだけど……」
スミスとのやり取りをそのまま話すと、二人が少し気まずそうに顔を見わせた。
「それは……なんというか、失礼したね」
「そう、あの人もなんていうか先走り気味なのは困るわ」
ケーシーが言って、首をかしげて僕を見た。。
「でも、なぜ嫌なの?……あなたには損は無いと思うけど」
本当に不思議そうな顔でケーシーが聞いてきた……スミスと同じことを言ってるな。
この二人の指示でやったわけじゃないようだけど、それはそれとして悪いとは思って無さそうだ。
「金で言うことを聞かせようとするのは卑怯じゃない?」
「どうかしら……卑怯とまでは思わないわ。魔討士協会に妨害を働きかけたとかなら不正だけど、彼はあなたに交渉をしてオファーをしただけよ。何も強制はしていない」
ケーシーが全く気にして無いかのように言う。
「それに、断わったんでしょ。なら何も影響はない。違うかしら」
ケーシーが言うけど……なんか誤魔化されてる気がしなくもない。
というか、感覚の違いを感じるな。
「それに、片岡君。
戦力的には私のドロシーと案山子6機、それとボディスーツとライアンの能力を合わせてようやくあなた一人分よ。これは勿論卑怯じゃないけど……そう、不公平じゃないかしら?」
ケーシーがちょっと怒ったような口調で言うけど……さすがにそれを僕に言われても困るぞ。
それに能力を使いこなすのは自分自身だ。ゲームのコマンドのようにはいかない。
ライアンがなだめるようにケーシーの手を取って、ケーシーが俯いた。
「ごめんなさい……」
「……俺個人の能力は精々1メートルほどまで魔力の刃を伸ばす程度だ。俺の能力は君には遥かに及ばないのは確かではある」
ライアンが話を逸らすように言った。
◆
何となく気まずい沈黙が流れた。
少し離れた所からマリーサの明るい声が聞こえてくる。配信中らしい。日本語だから日本向けだな。
「一つ聞いて言い?」
ここで気まずい気分になって黙っていても仕方ない……というか、せっかく会いに来たんだから話さないと意味がない。
「色々と失礼なことをしてしまったからね、答えるよ」
「なんでそこまでして一番に拘るわけ?」
ライアンが、というか彼のチームがかなり強いのは間違いない。
だからこそ、こんな無理なポイント稼ぎをしてまで1位を目指そうとする理由は分からない。
普通にやっていたら4位まで行けそうだけど。
「スポンサーに見せるトロフィーは1位じゃないと意味がないんだ……スミスが言うには。俺自身は1位じゃないと意味はないとは思わないけどね」
「いえ、一番は重要よ、ライアン」
念を押すようにケーシーが言った。
「日本での活動が評判になれば、奨学金が得られる。上手く行けば企業から研究資金もね。ケーシーにとってこれは重要だ」
ライアンが言う。確かにスポンサーでもいなければ開発は続けられないだろう。
あのドローンもスーツもどう見ても安く作れるものじゃなさそうだし。
「今の個人の能力、素質に頼った戦いはいずれ必ず行き詰る。問題を解決するのは誰でも使用可能な技術よ。
ドロシーと案山子のシステムが完成すれば、誰もが同じように案山子の防御を使える。かならず役に立つわ」
ケーシーが言う。
自衛隊の人もそんなことを言っていたな。能力に頼らずに、誰もが使えることが大事だ、ということだっけ。
ただ。
「……これ、いくらくらいするの?」
ボディスーツにドローン。
見るからに高そうなのは分かるけど、いくらなのかは見当がつかない。
ケーシーが俯いたまま何か呟いた……けどよく聞こえなかった。
「なに?」
「……一式、200万ドル」
ケーシーが小声で言う
頭の中で計算する……5億円くらいか……そりゃ開発費用も必要だろうな。桁が違い過ぎて金額が想像できない。
「コストダウンするためにも、普及させるためにも研究資金は必要よ。日本で実績を上げれば日本の企業が資金を提供してくれるかもしれないし」
「日本ではダンジョンでの討伐実績は色々と社会的に有利になるようだけど、アメリカではあまり評価されなくてね」
ライアンが肩をすくめて言う。
「君やミズ清里、ミスター斎会を軽んじてるとかじゃないから誤解しないで欲しいんだが。これは俺達にとって……そうだな、進学試験とか就職活動みたいなもんなんだよ。
日本で結果を出して奨学金や研究費を得れるかどうかに、俺だけじゃなくてチームOZの将来が掛かってる」
改めて見ると、テーブルやドローンのケース、来ている服のあちこちにいろんな会社のロゴのようなマークが張り付けられていた。
単なる模様とかじゃなくて、これはスポンサーなのか。
「正直言ってスミスが何で俺達の世話を焼いてくれるかはわからないが……俺達にはたまたま力になってくれている人がいる。
その全てを使って……俺は目的を果たす。俺たち全員で未来を掴みとる」
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