魔討士協会の事情・下
「そういえば、今はライアンとどのくらいの差があるんですか?」
5位になって結構長いから、5位から4位にあがるにはかなり功績点が必要なのは分かる。見た感じ、多分もう一体ダンジョンマスター級を倒せば昇格できそうだ。
僕の功績点はわかるけど、ライアンのは分からない。いくらなんでも追いつかれてはいないと思うんだけど
「それはちょっと……」
木次谷さんが言葉を濁した
「じゃあ、僕と清里さん、斎会君のなかで一番5位に近いのって誰です?清里さん?」
5位の一番乗りは清里さんだから一番上の可能性は高い。
ただ、5位昇格後は結構僕も危ない橋を渡っている。それなりに接近していても不思議じゃないと思うけど。
「すみません。他の魔討士の功績点は言えないんです」
木次谷さんが申し訳なさそうに言う。
「そういえば……なんでポイントを公開しないんです?」
乙類5位の功績点は、僕は自分のことをしっている。
でも他の人のは分からない。公開していなからだ。
清里さんとも斎会君ともその話は出てこない。
なんか財布の中身を聞くような失礼な話題な気がして聞きにくい。割と何でもズバズバ言う清里さんが聞いてこないのも、僕と同じ感覚だからだと思う。
でもポイントランキングなんて魔討士に限らずどこにでもある。
マンガやゲームのセールスランキング、動画サイトの再生数ランキング、ランキングだらけだ……でも魔討士には無い。これは前からちょっと不思議だった。
「魔討士協会は魔討士に序列をなるべく付けない方針なんですよ」
木次谷さんが少し考えて口を開いた。
「なんでです?」
「勿論ポイントを公開すれば、5位の中で、例えば片岡君と斎会君、清里さんの上下はすぐ分かります。
でも、数値の上下は実力の上下を意味はしません。例えば乙の5位の5010ポイントと5020ポイントに差はあると思いますか?」
「無いでしょうね」
何度も戦ってると分かってくるけど。
勝ち負けは明確だけど、強い弱い、というのはそこまで単純じゃない。相性、状況、精神面も含めてその時の僅かな機微が結果に影響する。
そして、その結果は上下を示すわけじゃない。
「でも数値の優劣をつけるとまるで実力の上下があるように見えてしまいます。
周囲だけではなく、本人にもそう言うイメージを植え付けてしまう。数字の怖さと言う奴ですね」
「そういうものですか?」
「そういうものです。
それに魔討士の能力はバラバラです。片岡君の戦い方と斎会君の戦い方は全く違うでしょう?ランキングで表せるほど単純ではありません」
木次谷さんが言う。
斎会君は、武器の性質の関係で完全に接近戦型だ。ある程度攻撃の間合いがある僕や清里さんとは違う。
そういえば、大阪で会った児玉さんも間合いの短さを気にしていたな。
「無論、競争は重要です。そこから生まれる改善や進歩はある。
しかし過度の競争や数字で上下の序列をつけること、白黒つけることは負けた側に余計な遺恨や軋轢を生み弊害の方が大きい、と協会は考えているんです」
木次谷さんが言葉を選ぶように続ける。
「ライバル意識は片岡君たちのようにいい方向には働くこともありますが、負の方に働くこともあり得る。
例えば、順位を付けると、自分の得た経験や気づきを他人に教えないかもしれない。自分の順位を守るためにはその方が有利ですからね」
確かにそうかもしれない。
清里さんとかはいいけど……例えば4位昇格を争う相手が如月みたいなやつだと、色々と思うところも出てきてしまうだろうな、と思う。
「私達魔討士の敵はダンジョンの魔獣……他の魔討士は敵ではないし、勝つ必要はない。私たちは皆でダンジョンの脅威に立ち向かう仲間です。
だからこそ、魔討士同士のいがみ合いの要素は極力取り除く、そう言う方針なんですよ」
木次谷さんが言う。
魔討士協会の甲乙とかの区分に関する文句は聞いたこともある。区分のくくりが大きすぎるとか、いい加減だ、とかだ。
でも、結構色々と考えているらしい。
「だからこそ、ライアン君のやり方は……ちょっとね」
木次谷さんがため息をつきながら言った。
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