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正しさを証明する代償


 その週の土曜日に魔討士協会を訪ねた。

 この話は木次谷さんに言っておかないと、僕一人でどうにもならない。

 幸いにも木次谷さんとはすぐに会うことができた。


「なるほど……台湾から問い合わせがあったのはそういう理由だったんですね」


 小さな会議室で一しきり事情を話すと、木次谷さんが納得したように頷いた。


「知ってたんですか?」

「それはもちろん。台湾誅師公会……台湾の魔討士協会からの正式な問い合わせでしたからね。しかもかなり確信を持った感じでしたし。

どこから情報が漏れたのか、しばらくは内部調査もして大騒ぎでしたよ。台湾にも彼らは現れていたのですか……理由が分かってよかったです」


 木次谷さんが言って僕を見た。


「片岡さんを騙して探りを入れてきている可能性もありますが……どうでしょうか」

「そんな感じではなかったんですよね」


 あのファミレスで話していた時を思い出すと、あれで嘘だったらかなりの演技派だと思う。


「しかし……なぜ片岡さんが彼のために?」

「……何となく、ですかね」


 確かにこんなことをしても僕には何の得も無いんだけど……この気持ちをうまく言葉にできない。

 ただ……憎悪とか復讐心は棘のようなものだと思う。その棘を何らかの形で抜かなくては、その痛みに縛られ続ける。


 七奈瀬君のその棘は……多分代々木の戦いのときに絵麻が抜いたんだと思う。

 どういういきさつがあったのか、二人は話してくれないけど。


 復讐することがいいのかどうか、僕には分からない。でも絵麻と一緒に居る七奈瀬君は、初めて会った時よりも幸せそうに見える。

 これがあの人の棘を抜くことになるならば、少しでも力になれればと思う。


 今までいろんなところで誰かに助けてもらった。自分一人だけじゃ切り抜けられない時もあった。

 なら、こういう時には少し誰かの手助けをするのもいい。


 木次谷さんが軽くため息をついた。


「公的にはさすがにお答えできない、というしかないですね。ただ、シューフェンがもうすぐに来ることになってます。話をされてみるのはいいかもしれません」

「分かりました」


 それは何ともタイミングがいい。

 というか結構頻繁に来ているな。


「ただし……いまソルヴェリアとの関係を悪化させることはできません。なのでそうなりそうだったら申し訳ないですが諦めてください。例え片岡君でも……そこは申し訳ないですが。

あと、勿論その方に秘密を守ってもらうのが絶対条件です」

「話していいんですかね……今さらですけど」


 胡さんの希望を叶えるなら、必然的にソルヴェルアの話をしなくてはいけなくなるわけで。

 そういうと木次谷さんが頷いた。


「その人がもしソルヴェリアの獣人について知っているのなら……中途半端な憶測を流されるより、知らせることを条件にして監視下に置く方が安全なんですよ。危機管理上ね」

「そういうもんですか」


「ソルヴェリアを含めたダンジョンの向こう側のことについてはいずれは世の中に知られるでしょう。いつまでも隠し通せるとは思ってはいません。

しかし、しかるべき時にしかるべき方法で我々が主導権を握る形で公開したいというのが我々魔討士協会、そして日本の考えです」



「片岡よ。それはわが同胞への侮辱だぞ、わが国の戦士に女子供に手を挙げる者はいない」


 夕方まで待っていたらシューフェンが本当に来た。

 今回も豪華な衣装の使者姿だ。


 最初は会えてうれしそうにしてくれたけど、その話を持ち出すとはっきりと雰囲気が変わった。

 口調はいつも通りだけど……怒りのオーラが伝わってくる。


 シューフェンやフォルレアさんを見てると、確かに女子供を切るなんてしそうにない。

 それに、そう言うだろうなとは思っていた。

 でも。


「茶色の肩くらいの髪、灰色の耳。牙をむく狼の横顔と爪の刺繍が入った水色の服、武器は細身の剣で多分シューフェンの剣に似たもの。

身長はシューフェンと同じくらい。年齢はわからない」


 胡さんが教えてくれた容貌をそのまま伝える。

 シューフェンが怒るのは分かるけど、話した以上、最後まで言わないと意味がない。


 そういうと、シューフェンの表情が少し動いた。

 ……どうやら心当たりが無いわけではなさそうだな。

  

「そのものが……虚言を述べているということはないか?」

「ないと思う。というか言う意味がない」


 そう答えるとシューフェンが深くため息をついた。

 普段は殆ど表情を崩さないというか、感情を表に出さないシューフェンにしては珍しい。

 憂鬱そうな表情でシューフェンが長い髪を払った。


「心当たりがなくはない……お前が信じる者であるならば、私もそのものを信じよう」


 シューフェンが重い口調で言う。


「だが、そのものが真実を述べていたとしても……その者は命を懸けることになる。

その覚悟はあるか?」 

「命がけって……?」


「片岡よ、私は明日まで此処に留まる。明日まで待とう。

もしその者が命をかけても自らの正しさを証明する覚悟があるというならば……15日後にもう一度門を開こう。その者を伴ってくるがいい」


 シューフェンが僕の質問を無視して話を続けた。


「だがその覚悟がないならばこの話は忘れよ……それが皆のためだ」


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