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現れた援軍は褐色美少女だった

 改めてその子を見る。

 背は小さい。多分160センチほどだろうか。薄いベール越しに顔が見える。やっぱり女の子っぽい。

 

 赤を基調とした煌びやかな飾り布をちょっと癖のある黒い髪に巻き付けていて、同じような赤のロングコートのような上着を着て、帯のような白い飾り布をつけていてた。

 ひらひらしたロングコートの裾の隙間から黒いワンピースのようなものがのぞく。


 赤い衣装は写真とかで見たことが有る遊牧民のようなエキゾチックな感じ……と言えば聞こえはいいけど、どっちかというとファンタジーゲームのようなコスプレっぽい格好だ。

 ただ、それぞれに色とりどりの糸で細かい幾何学模様の刺繍が施されている。相当の手間がかかっていることは僕にでも分かった。

 すくなくともコスプレにしては手が込み過ぎてる。

 

「言葉は通じそうかな?なあ君、私の言うことがわかるかい?」

「いえ、多分分からないと思います」


 さっきの感じだと言葉は通じなさそうだ。

 聞きなれない響きで、英語じゃないってくらいのことしか分からなかった。こっちの言ってることも多分分かってないだろう。

 

 女の子が首をかしげて、懐に手を入れた。一瞬警戒したけど、小さな袋を取り出して中に指を差し入れる。

 指に付けた赤い液体で、文様を自分の喉に描いた。少しその子が目を閉じる。


「ア…ҳозир あ…… тама к…あ……」

「どうしたの?」

  

「えっと……素晴らしい祈祷師殿……名のある方とお見受けします。感謝します」


 ふいに彼女の口から出てきたのは日本語だった。



 殆どイントネーションに乱れもない、完璧な日本語だった。 


三つ首竜トゥヴァーレン・ハイドレンジアを一撃で屠る雪の魔術は初めて見ました……」


 そう言ったところで、彼女が僕等を怪訝そうに見る。


「あの……通じていますか?」


「大丈夫、通じてます」

「これは凄いな。本当の魔術か、呪術とでもいうのか」

 

 檜村さんが感心したように声を上げた。

 彼女が僕の方を向いて胸に手を当てて頭を下げる。


「あなたも素晴らしい風使いです。手助け頂いたこと感謝いたします」


 そこまで言って、ちょっと不満げな顔をした。


「ですが少し決断が遅いのではないでしょうか。なぜヴーリと合わせて戦わなかったのですか?」

「ヴーリ?」


 いつの間にか円状の剣が消えて、デカイ狼が彼女に寄り添っていた。

 返事代わりにその子が狼を撫でると狼が甘えるようにその子に体を摺り寄せる。この狼はヴーリと言うらしい。

 あの剣に変わる能力を持っているんだろうか。

 

「あのね、こいつが味方かなんてわからないでしょ?」

「そうですが……機を見て合わせるのが戦士と言うものではないでしょうか。絶好の機だったはずです」


 不満げな顔で彼女が言う。

 無茶を言うな。僕から見ればこいつもモンスターにしか見えない、とは言う言葉は飲み込んだ。


「ところでお嬢さん。君の名はなんだね?」


 檜村さんが聞く。そういえば名前も聞いてなかったな


「僕は片岡水輝です」

「私は檜村玄絵だ。よろしく」


「申し遅れました。私はサナルーファ。白い蓮の花の如き者アイ・ニルーサ・グルチェフェグルの名を頂くジェルキ族の戦士階級です。三つ首竜トゥヴァーレン・ハイドレンジアの討伐の助力に感謝します」


 サナルーファさんがベールを取る。

 日本人っぽくない彫りの深いはっきりした目鼻立ちがベールの下から現れた。

 年齢は分かりにくいけど、なんとなく幼げな印象を受ける。多分、絵麻や朱音と同じくらいの年だろう。

 意志の強そうな黒い瞳が僕等を見つめる。さっきの睨むような緊張感のある視線じゃなくて、年に似合わない落ち着いた雰囲気だ。


 ちょっと痩せ気味かなって感じの細面だけど、顔立ちは整っている。可愛いというかスポーツ選手っぽい凛々しい感じだ。

 日焼けしたようなちょっと褐色の肌には頬や額に赤で目のような文様が描かれている。


「我々の村は救われました。この恩は決して忘れません」


 そう言って彼女が膝をつくように頭を下げた


「ところで、ここはマナが薄いのですが……ここはいったいどこなんでしょうか?」


 ヴーリとかいう狼の姿がさっきより薄くなってきている。

 あたりはまだ人は戻ってきていないけど、ダンジョンの赤い光が消えて4階建てのビルに挟まれた車道に戻っていた。

 彼女が不思議そうに靴のつま先でコンクリートの地面をつつく。


 どう答えればいいのか。檜村さんと顔を見合わせた。



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