慰労会のやりとり~騎士の名誉とは
おはようございます、出勤前に朝更新しておきます。
その団長さんが壇から降りてこっちに歩み寄ってきた。
近くで見ても、見た目は背の低い上品そうなご婦人って感じだ。率直に言って強そうな雰囲気はないし、フィッツロイのような尊大な感じもない。
「聞いていますよ。あなたが風使いのサムライ、片岡水輝ですね。
先の魔素文明との戦いの時、それに今回も我が騎士と共に戦ってくれて礼を言います。魔討士協会は良き人材を持っている。羨ましい限りです」
そう言って軽く会釈してくれた。話し方も穏やかで落ち着いた感じだ。
「そして、グランヴェルウッド卿、それにカタリーナ、パトリス。
よく戦いました。我が騎士団の名を貶めない働きに感謝します」
団長さんがそう言って、フィッツロイの方を何か言いたげに一瞥する。
「お待ちください。私の決断は正しいですぞ。
あの場で我らが手を貸す理由などなかった。気易く応じれば我らの威厳が失われます」
フィッツロイが不満げに言うけど、団長さんが呆れたように首を振った。
「威厳とは……愚か者。
もしあの場で何もしなければ、我らと魔討士協会との同盟関係にひびが入っていたでしょう。そうなれば威厳も何もありません」
「ですが、セスティアンたちが失態を犯していたら、その責任が生じました……そう、あの場では中立を保つことこそが最善でした」
「仮にそうなったとしても参戦せず傍観するよりましです。責任をただ逃れることに拘るのは小者の思考です
誇り高き騎士は先ず手を差し伸べるのです。だからこそ敬意を得られる」.
団長が言って、フィッツロイが黙り込んだ。
「それに、苦境で力を貸さぬものに力を貸すものはいません。戦場で中立など……木を見て森を見ぬ小賢しい戯言です
ここで我らが戦わなかったとして、次に我らが彼らに協力を求めて助力を得られると思うのですか?
自らは動かないが、自分の苦境には助けを求める。そのような厚かましいものが」
「ですが……」
「……それ以上、騎士の名誉を解さぬことを吐くならば、貴方を聖堂騎士の監督官の資格なしと見做します」
団長さんの言葉にフィッツロイの顔が青ざめた。
「いや……それは、あの」
フィッツロイが口ごもって俯く。
団長というのもあるけど、多分この人のほうが格上の家なんだろうなって気がした。
フィッツロイはさっきまで威張り散らしていたけど、権力者と言っても上には上がいるな。
そして、かなり年配で黙って立っていると上品な感じだったけど、話し始めると言葉にはえも言われない迫力がある。
さすが団長さんってことなんだろう。
「改めて、見事な働きでした。
命令に忠実に役割を果たすものは良き騎士です。だが真に優れたものは命令がなくとも正しい道を選び切り開く。
パトリス、カタリーナ、両名は聖堂騎士への昇格を望みますか?望むなら検討しますよ」
団長さんが言うと、カタリーナとパトリスが嬉しそうに顔を見合わせた。
「勿論です」
「ぜひとも」
「お待ちください、アッシャーヴァナム卿。こいつは……パトリスはギャング出身ですぞ!聖堂騎士に相応しいとは思えません」
フィッツロイが言って、パトリスの表情が強張るけど。
「それがどうしたのですか。能力の有無は選ぶことはできない。だが誇りある心根は誰もが持つことが出来る。
大切なのは今、そしてこの後どう歩むかです。騎士の心根を今備えているならば問題ないでしょう」
平然と団長さんが言い返してまたフィッツロイが黙り込んだ。
「そもそも、フィッツロイ卿。私の決定に異を唱えるつもりなのですか?」
そう言うとフィッツロイが渋々って感じで首を振って頭を下げた。
◆
セスと団長さん、それにフィッツロイが何か話があるらしく離れていった。
「恥ずかしいことを聞かれてしまったね」
パトリスが気まずそうに言う。
とは言ってもギャングなる者が何をしているのか、あまり想像がつかない。ギャングなんてアニメとか映画の中のイメージしかないぞ。
「実はギャングと騎士は似ているんだよ。仲間を大事にし、そのために命を張る、勇敢に戦う。命令には従う。
違うのは、仲間以外の者のために戦うことと、お行儀よくしないといけないことだな」
冗談めかしてパトリスが言う。
「日本にいる君には想像できないと思うが……ギャングは世間的に見ればまあ犯罪者の無法者だよ。
ギャング時代の友達とは今も付き合いがある。俺はずっとそこで生きてきたんだからね」
パトリスが静かに言う。
「だが……あそこにいると明日か精々一週間先の事までしか考えられなくなる。そこから抜け出せなくなるんだ……一年先のことを考えて生きたかったんだ」
パトリスが言う。
高校生だっていうのに……日本では想像がつかない世界だ。
「アリガトウ、片岡。この先もきっと色々あるけど……ガンバルわ」
「共に戦えて光栄だった。次の段階に行けるのは君のおかげだよ。君に助けが必要なら、いつでも力になる。必ず呼んでくれ」
パトリスとカタリーナと握手した。
カタリーナは特にそんな感じだったけど、二人とも聖堂騎士になりたそうだったし良かったな。
「ねえ、ところでさ……カタオカ、似合うカナ?」
「似合ってる」
カタリーナが映画の御姫様のように長いスカートをつまんでちょっと膝を曲げる。
赤いドレスが華やかな雰囲気に合ってるな。割と活動的なイメージがあるから普段と違う感じで新鮮な感じだ。
「ねえ、カタオカ、一ついい?」
「何?」
「スペイン語、分かる?」
「分かるわけないでしょ」
英語ならともかくスペイン語は分からない。
カタリーナが頷いた。
「アノネ……エレ リアルメンテ エルモサ、エスティマダ、カタリーナって言ってほしい」
「……どういう意味?」
「いいから、言うくらいいいでしょ。出来ればアタシの目を見て言って」
カタリーナが真剣な口調で言う。
「……エレ リアルメンテ エルモサ、エスティマダ、カタリーナ……これでいいかな?」
「………グラシアス」
グラシアスが、ありがとう、と言う事くらいはわかる。カタリーナが俯いてドリンクのカウンターの方に走り去ってしまった。
どういう意味だったんだろう。
「意味分かる?」
「さあ、俺もスペイン語は分からない」
パトリスが言った。
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