慰労会でのやりとり~聖堂騎士の団長
おはようございます。今日も朝更新。良い一日を。
「片岡さん!」
ジュースと檜村さん用のワインを貰ってテーブルに戻るところで声を掛けられた。
「片岡さん、あの時はありがとうございました」
声を掛けてきたのは鐙さんだった。
今日も前と同じような短めのポニーテール。白いニットに細身の茶色のパンツで活動的な感じだ。
肩から掛けた黒のバッグには猫のぬいぐるみがつけられている。
鐙さんの横にはもう一人、背の低い子が横に立っていた。
茶色っぽい髪を後ろで編み上げている。
メガネ姿と藍色のセーラー服に赤いリボン。ちょっと俯き加減で、なんかおとなしい優等生っぽい雰囲気を感じる。
「そう言えば8位になったんですよ」
「ああ、それはおめでとう」
後から聞いたけど、グラウンドで孤立した魔討士たちを合流させるのに先頭に立ってたらしい。
けが人や子供たちを連れて施設に戻って、最後は朱音を連れてきてくれたからセスや如月は死なずに済んだ。
「今後も頑張っていきますよ」
鐙さんが笑いながら言う。
「私は……どうしようか考えてます」
隣の子が言う。
「あ、はじめまして、鈴森です」
「こちらこそ、始めまして」
鈴森さんが言う。
確かあのカマキリと戦った時に見た、盾を持った子だ。
厳密に言えば始めましてじゃないけど、あの時は話す余裕もなかった。
「栞ちゃんも一緒にやろうよ。一緒にやれば大丈夫だって」
鐙さんが言う。
後から聞いたけど、なんでも鈴森さんは未登録のままで戦ったらしい。
戦場を選ぶことはできないんだけど、初戦があんな修羅場なのは災難としか言いようがない。
「魔討士協会の人からは是非登録してほしいって言われます。
でも……パパとママはもう辞めろって言うんですよね……今日も友達と外出って言って出てきたんです」
鈴森さんが困ったような口調で言う……そりゃそうだろうな。
◆
テーブルに戻ると絵麻と朱音、それに七奈瀬君が戻ってきていた。
テーブルにはいろんな料理を乗せた皿が置かれている。
「これ、美味しいよ、七奈瀬君」
「そうだな、まあまあだ」
七奈瀬君は絵麻と一緒だ。
絵麻が世話を焼いてあげてる感じで、七奈瀬君は偉そうにしてるけど、主導権は絵麻が握ってるって感じだな。
「じゃあ、七奈瀬君、あーんして」
絵麻がフォークに挿したミートボールを差し出した。
朱音が大げさに驚いた仕草で目を逸らして、檜村さんは意地悪そうに笑いながら二人を見ている。
七奈瀬君が顔をこわばらせた。
「こんなところで何考えてんだ……バカか、お前は」
「じゃあ、あたしに食べさせてよ」
そう言って絵麻がフォークを七奈瀬君に渡す。
「だから止めろって言ってるだろ、僕を誰だと思ってるんだ。いいか、僕は七奈瀬二位様だぞ、まったく」
そう言って七奈瀬君が自分のフォークでミートボールを一つ刺して口に入れる。
「もう、素直じゃないなぁ」
絵麻がからかうように言う。
七奈瀬君の言葉遣いは前と同じなんだけど、口調に前より棘が無くなった気はする。
あの後、屋上で何があったのかわからないけど、七奈瀬君にいい影響があったのならいいことなのかもしれない。
トゥリィさんは檜村さんと何か話しながら、小分けにした料理を色々とつまんでいた。
ソルヴェリアの料理とこっちの料理は随分違うらしくて、食べるのは楽しいらしい。
トゥリィさんの正体は奇跡的にバレずに済んだ……というか何人かに見られてはいたけど、魔討士協会が知らぬ存ぜぬで押し通したらしい。
幸いにも映像には残っていなかったらしいし、あの状況なら気のせいとか記憶の混乱とかそんな感じで片付くんだろう。
トゥリイさんは食事をしながら、誰かを探しているように周りを見回していた。
まさか本当にお婿さんを探しているんじゃないだろうな
◆
少し離れたテーブルにセス達が居るのが見えた。
背が高いのと会場で唯一の外国人グループだから目立つな。
近づくとカタリーナが手にしたグラスを軽く上げて手招きしてきた。
カタリーナは赤いドレス姿、パトリスとセスは黒いタキシードっぽいのを着ていた。
三人とも同年代には全く見えない。
「今回はありがとう、助かった」
セスのケガもきちんと治っている。
僕があの木と戦ってる間に、グラウンド中を駆けまわって孤立したパーティと一般人を助けて戦ってくれたらしい。
彼らがいなかったらどうなっていたことやら。
「あの時にも言ったはずだ。これは我らの名誉の問題だ。礼には及ばん」
「アタシの活躍は見てくれた?カタオカ?」
「見た。有難う」
「もっと上手くできた気もするんだよな……残念さもあるよ」
パトリスが言う。
「でも、俺達でまあ救えた人がいたのは良かった」
「ソウよ、暗くなってもさ……」
「ふん、気楽なものだな。全く」
そんな話をしていたら、不意に後ろから声が掛かった。
フィッツロイだ。こいつもタキシードを着ているけど、太めの体で今一つ似合ってない。
フィッツロイが不機嫌そうな顔で僕を見た。
「いいか、カタリーナ、パトリス。
お前らは我が命令に背いたのだ。手柄を立てればいいと思うなよ、騎士とはそういうものではない」
フィッツロイが嫌味な口調で言ってグラスのワインを飲んで顔をしかめる。
「ふん、この私にこんな程度のワインを出すとは全く」
そう言ってフィッツロイが三人をじろりとにらんだ。
「今は猶予されているがお前らの処遇は私の胸三寸だと言う事を忘れるな。日本における聖堂騎士団の最高責任者は私だからな。
セスティアン、お前もだ。グランヴェルウッド家への対応はこれから決める」
フィッツロイが偉そうに言う。
空気読めよ、コイツ、と言いたくなるけど。
ただ、権力があるのは本当なんだろうな、とは思う。カタリーナとパトリスの表情は硬い。
「お楽しみの所すみません。皆様、すこしご注目ください」
そんな空気を破るように、スピーカーからまた木次谷さんの声が聞こえた。
壇の方を見ると、いつの間にか木次谷さんがマイクを持って立っていた。
「皆さんご存知かと思いますが、今回はEUの聖堂騎士の3名が偶然居合わせて施設防衛のために勇敢に戦ってくれました。
改めて魔討士協会を代表し感謝いたします」
木次谷さんが言って、周りから拍手が上がる。
フィッツロイは偉そうに立ってるだけだけど、セス達が周りに会釈した。
「ここで光栄なゲストをお迎えしております。どうぞ、お入りください」
そう言って入ってきたのは50歳くらいの小柄な女の人だった。
薄緑色の帽子からは銀色のウェーブがかかった短めの髪が覗いている。
花の模様の青いワンピースに、帽子と同じ色の薄緑色のマントのような長い上着を羽織っている。
片手には短い杖を持っていた。足が悪いんだろうか
「その関係でお越しいただきました。ご紹介しましょう。
聖堂騎士英国師団の団長、ベアトリス・モルガン・アッシャーヴァナム卿です」
木次谷さんが言って会釈するけど……あれが聖堂騎士の団長なんだろうか?あんまりそうは見えないんだけど。
その団長さんが壇の中央に進み出てきた。
「我らの騎士が招かれていると聞き及びましたので、お邪魔させていただきました。
勇敢に戦った魔討士の皆様と同席出来ることは光栄の至りです。
そしてこの戦いで斃れた全ての人にここで祈りを捧げたいと思います」
その団長さんが落ち着いた声で言うけど。
僕の横ではセス達が固まっていた……どうやら本物らしい。
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