慰労会でのやりとり~如月の場合
おはようございます。朝更新。
あの代々木訓練施設の戦いから1週間が経った。
でも、今でもニュースはあの件で持ち切りだ。
魔討士たちの対応は適切だったのか、もっと周到な対策は出来なかったのか、とか、亡くなった人への補償はどうするのか、とかを話しているのをテレビで毎日のように見ている。
あのカマキリが代々木の最後のダンジョンマスターだったらしく、あれを倒してしばらくしてダンジョンは消えた。
セスも含めた怪我人は、カマキリを倒した直後に鐙さんが連れてきてくれた朱音の治癒が間に合って無事だった。
後から聞いた話だけど、施設の周りだけじゃなく広範囲に奥多摩系の野良ダンジョンが現れてあちこちで戦ってたらしい。
それに、施設の周りがあの木の奴が作ったらしい塀で囲まれていて、援護が来なかったんだそうだ。
施設の中だけで魔討士の死者が10人、それ以外の一般人の死者は28人。負傷者多数。
これを、あの規模の野良ダンジョンの発生の中この人数でしのげたというべきなのか、それとも多いというべきなのか……それは僕にはわからない。
ただ、一人であってもその一人は誰かにとってかけがえのない一人だ。
数字が少なかったから良かった、と言う風には言えない。
しかもあいつらはどうもこの施設を狙って門を開けたというかダンジョンを発生させた節があるっぽい。
今後のことを考えると色々と大変だろうと思う。
それ以外のことはよくわからない。
ただ、これについては魔討士協会が考えること、というか僕等のはどうにもならないことなんだけど。
あの場にいた人は皆精一杯戦ったとは思う。それだけは確かなことだ。
◆
これだけの犠牲が出ると祝勝会なんてものが出来るはずもなく、功績点とかは後日配布ってことになった通知だけが来た。
でも数日後に魔討士協会の本部で慰労会的なものをするというメッセージが来た。
犠牲が出たことと戦いの慰労は別ってことらしい。
とはいえ、不謹慎と言われそうだから、大規模にはできないわけで。
今回戦った魔討士とその関係者のみで、新宿の魔討士協会の本部でやることになった。
当日魔討士協会に行くと、係員の人がホールに通してくれた。
高校の体育館二つ分ほどの大きなスペースだ。天井は高くて広々とした感じだ。赤みがかった明るい光がホールを照らしている。
「なかなか立派だね」
「すっごーい」
「ふん、たいしたことはないな」
「素直になりなよ、七奈瀬君」
シックなドレス風の黒いワンピース姿の檜村さんと、制服姿の朱音が感心したように言う。
ブレザーを着た七奈瀬君がいつも通りの憎まれ口をたたいて、制服姿の絵麻が七奈瀬君を嗜めた。
青い絨毯が敷き詰められたホールには背の高い立って食べるためのテーブルと、丸いテーブルとイスが並べられていた。
綺麗なテーブルクロスもきちんと掛けられていて花まで飾られている、豪華な雰囲気だ。
壁際には料理とかが乗せられたテーブルがあって、制服姿のウェイターさんやウェイトレスさんが待機してくれていた。
なんか肉を焼いてくれているコックさんっぽい人も居て、遠くからでも美味しそうな匂いが漂って来ている。
中央には丸いカウンターがあって、ジュースやワインとかお酒の瓶が置かれていた。
ホールには30人ほどの魔討士と、その連れっぽい人とか保護者っぽい人が50人ほど。僕と同じ高校生くらいの人から、40歳くらいの大人まで年齢も性別も結構幅広い。
思ったより大きな規模のパーティだな。
「魔討士の皆さん、そしてその家族の皆さん。良くお越しくださいました」
暫く待っていたらスピーカーから声が掛かった。
いつの間にか木次谷さんホールの一段高い所に立っていた
「今回の戦いでの皆さんの貢献に感謝します。家族の方もご心配でしたでしょう。ささやかながらこのような形で少しでも慰労できればと思います
ですがSNSとかへの掲載は厳禁でお願いします……それと未成年の皆さんは飲酒は控えてくださいね」
壇上の木次谷さんが冗談めかして言う。
「では皆さん、少しでも楽しんでください」
◆
「おい、片岡」
檜村さんと話しつつジュースを飲んでいたら声を掛けてきたのは如月だった。
後ろにはパーティのメンバーらしき3人の大学生くらいの男の人がいる。
あの時にあのカマキリと戦ってた槍使いが如月だったことは後で知った。
今日も高そうな茶色のジャケットに金ピカの首飾りをつけている。
男の僕から見てもイケメンなんだけど……相変わらず偉そうな態度だな。
とはいえ、前はランクの差があったけど今は同じ五位で差がないのは少し気分が良い。
檜村さんが微妙に嫌そうな顔をしているけど、今日は如月は檜村さんの方を見る気配はなかった。
「これをくれてやる」
如月が一枚のカードを渡してくた。銀行のキャッシュカードだ。
「何これ?」
「400万入ってる。暗証番号は1234だ」
「……貰う理由がない」
貰う理由もないけど……ていうか、400万なんて貰っても困る。
「クソムカつくことだが結果的に俺たちはお前に助けられた。
だから借りはさっさと返す。お前に借りを作る気はねぇ。俺のパーティ4人分、一人100万で400万だ」
そう言って如月がカードを押し付けてくるけど。
「要らない……」
「ああん?この額じゃ不満か、手前ぇ」
「そうじゃない。これは要らないってだけ……代わりに400万円分いつか僕に手を貸して」
答えると、如月が舌打ちした。
「それまで貸しにしておくよ」
「本当に嫌な野郎だな……ムカつく奴だぜ、クソが」
そう言って如月がカードをポケットにねじ込んで歩き去って行った。
知らなかったこととはいえ、一応僕が助けたはずなのに……あの態度はどうなんだろう。
「まああんな奴だが、許してやってくれ……大人げない奴だが、まあ根は悪い奴じゃないんだ」
「ええ」
パーティの一人……森下さんというらしき背の高い人がフォローするように声をかけてくれた。
失礼ながら大学生っぽくないな、とか思ったりする。僕より年上のはずだけど、なんというか子供っぽい。
でもあの状況でも逃げずに孤立した人達を守ってあのカマキリと戦ったらしいし。人は見かけによらないのかもな。
「フォローになってないんだが……仲間には割といい奴なんだよ」
「それに稼がせてくれるしな」
あとの二人、黒川さんと遠藤さんが言う。
「なるほど」
金を持ってるのは何となくわかる。
それになんだかんだ言いつつパーティを組めているんだから、パーティの仲間想いではあるんだろうな。
……外面はあんなのだけど。
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