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代々木訓練施設・グラウンドの決戦・上

 おはようございます。今日も朝更新

 周りのグラウンドを覆っていた蔦のようなものがしおれるように倒れて行った。

 これもあの木が作っていたんだろうか……いずれにせよこれで少しは動きがとりやすくなる。

 

 まだ周りの赤いダンジョンの光は消えていない。

 もう一体、ダンジョンマスターがいるはずだ。

 

 もう一体はどこにいるのか分からないけど、見回すとあのセスの鎧の姿が見えた。

 遠くからでもあれは目立つな。

 鎧が剣を振り回している……戦ってるな。カタリーナの銃の音がそれに重なる。


「合流しましょう」


 と言ってはみたものの……兎耳が露になっているトゥリィさんを見る。

 この子をどうしたものか。 

 彼女の正体を知っているのは僕等と魔討士協会の人だけだ。


 さっきの魔法の威力を見る限り、いてくれると戦力になる。

 ただ連れて行くのもまずい気がするし、施設に戻すのも不味い気がするし、かといってここに置いていくわけにもいかない。

 

「あ、この耳が良くないんですよね、老子(せんせい)


 トゥリィさんが言って長袖のシャツの袖を引き裂いて頭に巻く。

 ターバンのように巻かれた布が耳を覆い隠した……とはいってもちょっと危なっかしいけど。


「これでいかかでしょうか?」

「……ああ、まあ、いいんじゃないかな?」


 自信満々って感じでトゥリィが言う。檜村さんが僕の方を見て苦笑いした。

 ここで帰る気は無さそうだな。


「じゃあ行こう」

「そうだね」

「行きましょう!」


 セスの鎧の方に向かって踏み出したところで、遠くに見えていた鎧が薄れて消えた。



「先に行きます!トゥリィさんは檜村さんと一緒に来て!一刀、薪風、薙舞!」


 ダッシュしながら風で自分の背中を押す。

 風切り音がして一気に体が前に進んで、戦いの場が近づく。


 ひょろりとした案山子のような奴の姿が見えた。

 そいつの前に槍を持った男の人と大きな板のような盾を持った女の子が立ち塞がっていて、そいつに向かってパトリスの矢が降り注ぐ。

 でも止まらない。長い腕が振られて槍使いの男の人が血を撒き散らして倒れた。

 

 あと20メートルほど。この距離ならギリギリで届くか。

 走りながら鎮定を振り上げる。

 

「一刀!破矢風!鼓撃」


 振り下ろした切っ先から風の塊が飛んだ。

 鈍い音を立ててそいつが大きく吹っ飛ぶ。

 スカートのような透明な羽根のようなものが広がって空中でそいつがバランスを立て直した。


「カタオカ!」

「大丈夫?」


 セスが肩口から血を流して倒れているのが見えた。

 案山子のように見えたけど、細い左右の手の先が鎌のようになっていてその鎌が地に濡れていた。

 腰に巻き付いた透明な羽根もあいまってカマキリのようだ。そいつがこっちを見た。


『‘‘サマネア‘‘を倒したのはお前か?』

 

 サマネアとやらが何だかは分からないけど……多分さっきの木のことだろうな。


「僕だけじゃないけどね」 

『なるほどな』


 そう言ってそのカマキリがこっちに向き直った。

 細い左右の手の先の巨大な鎌がアンバランスで、変な人形っぽく見える。


『人外の力を操るか。だが、お前もあの男も同じだ。同じように容易く倒せる』


 セスともう一人黒いジャケット姿の人が血を流しながら倒れていた。カタリーナと、黒いジャケット姿のもう一人の男の人が介抱している。

 多分命に別状は無さそうだけど……早く手当てしないと。

 

『お前たちは個体としては強い者もいるが、強き者も少数で孤立させれば殺すのは容易い。それに誰もが弱い者を守ろうとする。そういう習性のようだが、愚かだ。愚か者は弱い』


 そいつがセスの方を見ながら言う。

 セスも同じ手で倒されたのかもしれないけど、そんなことよりも。


「おい……いい加減にしろ」


 あの子供を守って屋上で倒されていた人たちを思いだす。

 それに京都の野良ダンジョンで死んだ人がどう戦ったのか。魔討士協会の広報があったから大体のところはしっている。

 6位の人は最後まで戦えない人たちをかばった。7位と8位の人は勝てないと分かっていても支援した。


「さすがに本気で腹が立ってきたよ。

弱いだの愚かだの……人の背中を切るしか能がないくせに、僕等より強いつもりか」

「片岡君!」

「全員下がっていて……カタリーナ、パトリス、邪魔が入らないようにして」


 走ってきた檜村さんに声を掛ける。カタリーナとパトリスが意図を察してくれたように頷いた。

 アリの群れと人とで僕とそいつの周りにまるで広場のように僕等だけの空間ができた。


『何のつもりだ?』

「この状況ならお前らの得意技は使えないぞ。戦えない人を襲う手は使えない」

『人間が私と一人で戦う気か?別の意味で愚かだな。死にたいのか』


 カマキリが言うけど……こいつら相手だと余程完璧な連携ができないなら、いっそ一対一の方がいい。

 誰かと一緒に戦っているとどうしてもその人を気にしてしまうし、こっちを気にする。

 そこが隙になってしまう。

 

 そして、さっきあのアリと戦って分かった。

 あの木や女王アリみたいなデカいやつは兎も角、このサイズなら僕でも対抗できる。


『まあいいだろう。これなら効率よく戦士を減らせる。優秀な戦士を殺せばお前らも戦う意思を失うだろう』


 そいつが左右の鎌を威嚇するように触れ合わせた。

 呼吸を整えて気持ちを落ち着ける。相手をよく見ろ。戦いは剣を交える前に始まっている。


 距離は5メートルほど。

 学校で戦ったアラクネのように体液を飛ばしてくるって感じではなさそうだ。

 武器はあの両手の鎌だけだろうか。手足は長いから間合い的には不利かもしれない。

 踏み込みを普段より深くすべきか。

 

 風の斬撃を使うためには一呼吸くらいの間が必要だ。

 シューフェン並みの身体能力を持っているとしたら、風を使うのは難しいかもしれない。

 鎮定を正眼に構えて呼吸を整える。


 そいつが少し姿勢を低くする。

 空気が張り詰めた……来るか。



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