代々木訓練施設・グラウンドの攻防・6
おはようございます。今日も朝更新
『無駄ですよォ、確かに私を100回くらい殺せば倒せるかもしれませんけどねェ』
そいつが僕等を見下ろす。
『こんなことも出来るよォ、どれが本物かなァ』
そいつが言ってまた地面が揺れる。
周りに次々と人間の背丈位の木が生えた。それぞれにこいつと同じような顔がある。
そいつらがまるで槍でも構えるようにとがった枝の先をこっちに向けた。
「地下茎か……」
檜村さんが呟く
「なんです、それ?」
「竹のような、地下に根を広く張り巡らせる植物だ。恐らく本体はあれじゃない……」
こいつらが植物に近い生態ならそういうこともありえるのか。
「地面の下に攻撃できますか?」
表に出ている奴を風で斬るくらいなら僕でもできるけど、本体が地下にいるのではどうしようもないぞ。
「できなくはないんだが……一発で決めるのは難しいと思う」
檜村さんが硬い口調で言う。
「じゃあそれをお願いします。追撃は僕が何とかしますんで」
倒すにはそうするしかないのなら、それを実行するまでだ。
『絶望したかあィ?降参するならァ苦しませずにィ……』
言いかけたところで突然爆竹のような音がした。
一瞬遅れて赤い炎が爆発してそいつを捉える。
腕のように生えた枝や葉が焼かれて消えて、同時に人影が目の前に飛び込んできた。
◆
「老子、ご無事ですか?」
誰かと思ったけど、トゥリィさんだった。
動きやすくするためなのか、パンツの裾が短く破かれている。キャスケットも脱げて兎耳が露になっていた。
「どうやってここまで?」
「先生たちが拓いてくれた道がありましたので。途中の刺槐共は避けてきました」
「なるほど」
さっき鐙さんの馬が拓いた道はまだ残ってはいるけど、また蔦のようなものが塞いでいる。それにこいつの生やした木とかアリのような魔獣がうろついているのが見えた。
あそこを一人で抜けてきたのか。
色々人間離れしてるけど……今はそれを言ってる場合じゃないか。
「トゥリィ、詳しい説明はあとだ。私があいつの本体にダメージを与える
でも私は魔法の連発はできない。止めは君がするんだ。任せるよ」
「はい!」
「【書架は東南・想像の五列。壱百五拾弐頁五節……私は口述する】」
説明する間がないと言わんばかりに檜村さんが詠唱に入る。
何をする気か分からないけど……やることはいつも通り。
『まだやるのかい、ねえ、そこの君ィ、怖いだろォ、勝てないことくらい分かるだろォ』
さっきトゥリィさんの魔法で焼かれた枝ももう元に戻っていた。
こいつらは確かに強い。
でも。吹き付ける風が強い時こそ花の前に立て、それが剣の務め。
それに僕の後ろの花はただの飾りじゃない。
「一刀!破矢風!蛇颪!」
風の刃が渦を巻いて周りに生えた木を切り倒した。
周りを囲まれてるのは不味い。
『成程ねェ、その女を守っているんだねェ』
「一刀、破矢風!七葉!」
風の刃が本体そいつを切り裂く。かなり深い傷ができるんだけど、白い粘液が噴き出して切った端から再生していく。
あいかわらず大してダメージは無さそうだけど、それはいい。
受けに回ったら不味い。押し返す。
『しぶといねェ』
そいつの手のような枝が次々と伸びてくる。
槍のような木の根はさすがに風の壁じゃ止まらない。伸びてくる奴を鎮定で撃ち落とす。
硬い感触に手が痺れた。切っても切っても枝が押し寄せてくる。
足元が押し上げられるように動いた。鎮定を逆手に持ち替えて地面に突き刺す。
硬い手ごたえがあって切られた木の先端が見えた。
足元から生えてくるこれの精度が低いのは幸いだな。
「【かつてありしは一つの薬瓶。詰められしは腐敗の毒。一度その封が切られし時、河は濁り麦は枯れ昼は闇となり命は絶えた】」
後ろで音がした。地面からまた一本、木が生えてきている。
とっさに風を飛ばして切り払うけど。
「あぶない!」
トゥリィさんの声が聞こえた。とっさに鎮定を立てて体を捻る。
肩に痛みが走った。枝が掠めたか。鎮定で伸びた枝を切り落とす。
「大風老子様!」
「いつでも魔法を使えるようにしておいて。防御は僕がやる。トゥリィも自分の仕事を」
「はい!」
また何本か生えてきた木を木を破矢風で斬り倒した。
再生能力と言うかそういうのは今まで戦ったやつの中で一番だ。
「【その作り手の名を語るは永劫の禁忌。其が彼の者の犯した罪に課されし罰。
時を経て今、その名を知ることを望んだ汝に法の司より告げる。禁を破りし咎、看過し難し】」
『まだまだ終わりませんよォ』
そいつが言ってまた周りを囲むように木が次々と生えた。
どれだけ切ってもキリがない。
「一刀……」
「【よって汝の名も等しく消えることとせん。されど怯えるに及ばず。その心すら消える、枯死の一滴】術式解放!」
風を飛ばすより早く、檜村さんがそいつを指さした。
硬そうな木の皮に波紋のようなものが浮かんで消える。
僅かな間があって、そいつの腕のように伸びていた枝がばさりと落ちた。
◆
硬そうな木の表面がグズグズと崩れ始める。
鱗のような木の肌が内側からはがれてドス黒く染まった粘液が噴き出してきた。それがまるで体を侵食するように広がっていく。
『なにィこれはァ』
そいつが悲鳴を上げた。
周りに生えていた木も腐るように折れ曲がっていく。毒とかそういう魔法か。
地面が波打って、太い根と巨大な球根みたいなのが出てきた。それも中から腐ったように黒い粘液を噴き出している。
球根の瘤のように盛り上がった部分には他の奴と同じく人の方から上の上半身のような部分が見えた。
『こんな……バカなァ、なぜこんなァ』
粘液を撒き散らしながら球根が地面をのた打ち回る。枝を生やそうとするけどそれも次々と崩れていった。
体当たりでもするように根が本体を持ち上げる。球根の一部ががほどけで口のようになった。
『食わせろぉ!』
「一刀、薪風!樫櫓!」
風の壁にそいつの巨体が衝突する。巨体が吹っ飛んでドロドロの黒い粘液が飛び散った。
まだ死んではいない。黒い粘液があふれ出ているけど、白い粘液が傷を埋めようとしている。
「トゥリィ!」
「はい、老子!
【方位丑寅・八卦坎陸・火尖煉獄・赤蘭紅蓮・炎礫塵槌・百禍繚爛・算命教我・好运来了!!】」
トゥリイさんが詠唱を終えてそいつを指さす。
漢字を思わせる文様が空中に浮かんで、また爆竹のような耳を劈く音がした。
赤い塊が次々と爆発する。
地面から飛び出した根が蛇が暴れるようにのた打ち回るけど、本体を支えていた根が焔と毒で崩れていった。
球根のような本体が地面に転がる。
追い打ちをかけるように赤く燃える石の塊が次々とそいつを押しつぶした。
爆発音と重たい地響きの音が、そいつの悲鳴が爆音に混ざる。
赤黒い土煙が消えたあとには、地面の空いた大穴の中にライフコアが転がっていた。
流石に死んだか。
◆
赤い霧のようなものが薄れてさっきまでの息がつまるような感じが消えた。
こいつの攻撃がやんだってことかな。
「よく来てくれた、助かったよ」
トゥリィさんに檜村さんが言う。
来てくれて助かったけど……さっきの様子だと来てくれるとは思わなかった。
本体を引っ張り出した後に僕の風で止めをさせたかは分からないけど……もっと際どい闘いになってただろう。
……というか、勝てた気がしない。
「老子が闘っているのに、怖くて震えているのは情けなくて……勇敢に戦った弟に顔向けできません。
それに、一度走り始めたら怖くなくなりました」
「そうか」
「それに、優しくて強い旦那様は自分で捕まえます。
私の活躍を見ればニホンの方が我が家に婿に来て下さる方もいるかもしれませんし」
トゥリィさんが笑って言う……ブレないな
そんな話をしているところで大きな音がした。
塀のように施設を取り囲んでいた木が倒れているのが見える。これで援護が来るだろうか。
遠くからカタリーナの銃声が聞こえてきた。
まだやることはあるな。
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