表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/283

代々木訓練施設・グラウンドの攻防・5

おはようございます。今日も朝更新

 普段は木が一本植えられていてその下は食事したりする家族連れがいる平和な場所だけど。

 その木は今は地面に倒れていて、その代わりの太い幹の木が生えている。


 テントの屋根のように頭の上にも木の枝が伸びていた。

 花粉のように何かが放出されているように見える。


 何本もの枝が捩れて絡み合ったような木の幹の真ん中に、木の節で彫り込まれたように、人の顔らしきものが見えた。

 木の皮で皺が寄った老人を思わせる顔。目と口らしき部分が鈍く緑色に光っているいて、かろうじてそこが顔ってことがわかる


『聞いていた通り変な生き物だねぇ……』


 人の顔の口元が動いて、しわがれたような声が聞こえた。


『弱いのに同族を助けに来るなんてねぇ。たくさん死ぬより少し死ぬだけの方がいいと思うんだけどねぇ……愚かだねェ』

「そのセリフはもう聞いたけど……それ言った奴は上でバラバラになったよ」


『勘違いしてるようなんだけどねぇ、これは全部君達のために言ってるんだよォ

どうせ降参するんだからァ、戦って痛い目見るなんてなんて馬鹿でしょォ』


 木が喋るごとに木の皮がこすれ合って耳障りな軋み音がする。


『ねえ、降参して生贄を差し出しなよォ、平和が一番さぁ。大人しく降参すれば悪いようにはしないよォ。子供なんてどうせいくらでも産まれてくるでしょおォ』

 

 間延びしたような口調も含めてなんともイラつく言い草だ。

 

『それともこんなふうになりたいのかい?』


 そいつが体を震わせるようにすると何かが落ちてきた。

 檜村さんが小さく悲鳴を上げる。

 

 遺体だ……ジャージ姿の人、普段着っぽい人、男の人、女の人、それに子供。10人ほど。

 体を貫かれて血を吸われたように干からびている。

 

『この通り僕はねェ、誰でもいいんだよォ、男でも女でも。優しいだろォ』


 ……これがシューフェン達が言われたことか。

 ソルヴェリアの皇帝が使者を切る気持ちがよく分かった。


「いまから僕らがお前を倒す」

『威勢がイイねェ、そういう人間の血は美味いんだよねェ』

「【書架は南・想像の弐列。五拾弐頁三節……私は口述する】」


 どうせ交渉の余地なんてない。檜村さんが詠唱に入る。

 鎮定を構えて意識を集中する。


『本当にやるのかいィ?やっぱり賢くないなァ』


 そいつが言って幹から伸びていた枝が軋みを上げて蠢いた。

 木の枝が頭上に枝から槍のようにまっすぐこっちに伸びてくる。


「一刀!薪風!朽環(くちなわ)!」


 風が渦巻いて木の枝を弾き飛ばす。折れた枝が周りに散らばった。

 こいつらの攻撃は基本的には物理攻撃だから、風での防御や攻撃は効果的だ。

 あの新宿系の奴が使ってくるキューブのレーザーとかよりは対処しやすい。


『へェ、やるねぇ。でもこれならどうかなァ』


 そいつが言って、今度は枝が僕等を取り囲むように伸びた。

 四方が木の垣根のようになって、そこからつぎつぎと尖った枝が迫ってくる。


「一刀!破矢風!蛇颪!」


 風が渦を巻いて枝を切り飛ばす。そのまま風が生垣のようになった部分も薙ぎ払った。


『どれだけ切っても無駄だよォ、君が死ぬまで、どれだけでも増えるからねェ』


 そいつが言って枝がまた生えてくる。枝の密度が増して生垣っていうより棘だらけの壁のようになった。 

 壁が圧力をかけるようにじりじりと迫ってくる。再生能力は流石だな。


 でもこっちとしては一番大事なのは詠唱の間だ。

 その間をこんなに与えてくれるのはありがたい。


 僕らのことをバカにしてるのかどうなのか知らないけど、随分呑気なもんだ。

 後ろに目をやると檜村さんが頷いた。


「【古の伝承に偽りあり。煉獄は業火が満ちたる場所にあらず。無明に燃ゆるはただ一対の篝火。煉獄の長曰く、何人たりとも彼の炎に殿油を指すこと勿れ、一度燃え盛れば七界悉く灰燼に帰す故に】術式解放!」


 檜村さんがそいつを指さした。

 同時にドス黒い木の皮の切れ目や伸びた枝、目や口のような窪みのあちこちから炎が吹き上がる。

 内側から吹き上がった赤い炎が一瞬でそいつを包み込んだ。



 周りを囲んでいた枝もすべて焼き尽くして燃え上がった炎が、前と同じように一瞬で消えた。

 炎が消えた後には黒焦げになった木の残骸が残っていたけど、それもすぐに形を失う。


 あっけなかったな……まあでもあのアラクネもこの炎の魔法で一撃だった。

 攻撃もああいう風にゆっくりと数で押してくるだけなのだったら風で押し返せる。

 相性の問題もあるんだろうけど、仙台で戦ったあいつほど強くは無かった感じだな。


「さすがですね」

「久しぶりだからね、君にいい所をみせないとね」


 檜村さんがちょっと得意げな笑みを浮かべて眼鏡の位置を直す。

 一息つきたいところだけど、まだやることはある。セスたちが行った方から銃声とかが聞こえてきた。


 鐙さんの馬が踏みつけていった道がまだ残っている。 

 あれをたどれば合流できるか。


「行けますか?」


 そういうと檜村さんが大きく深呼吸した。


「勿論だ。さあ……」

『うーん、やるねェ』


 その檜村さんの言葉を遮るように、さっきの声が聞こえた。



『たしかにここの人間はァ、個体としてはあの獣どもより手強いみたいだねェ』


 また声が聞こえた。

 死んでないのか?そういえば魔獣を倒した後にいつも出てくるライフコアがない。


 地面が突き上げられるように蠢いた。とっさに後ろに飛ぶ。

 地面が膨らんで土の破片が舞い上がった。土の中から次々と木の幹のようなものが生えてくる。

 その幹が絡み合って、またさっきのような木が形成された。


『残念だねェ……でも言っただろォ、いくら焼いても無駄なんだよォ』


 今焼いたのとまったく同じように幹の中央には人の上半身が生えていた。


 面白いと思っていただけましたら、ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】からポイント評価をしてくださると創作の励みになります。

 感想とか頂けるととても喜びます。


 応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ