代々木訓練施設・グラウンドの攻防・4
おはようございます、今日も朝更新
施設の外に出た。
普段は綺麗に整えられた緑の芝生が広がっているグラウンドには、腰位まである怪しいとしか言いようがない蔦のようなものが生えている。
蔦が波のように蠢いていて、禍々しい草原って感じになっている。
蔦の間には何かの影が動くのが見えた。
それにうっすら靄のようなものがかかっていて、見通しが悪い。
そのせいなのか、なんか息苦しい気がする……風邪をひいた時のような感じだ。
気のせいかと思ったけど、パトリスも少しせき込んで周りを見回した。
これもダンジョンマスターの能力とかなんだろうか。
「早く!急ぎましょう!」
金色のたてがみの馬に鐙さんが軽やかに飛び乗って声を掛けてきた。
「ところでこの馬は?」
「私の能力です。アンヴァルちゃん」
鐙さんがたてがみをなでながら言う
「槍に替えることもできるんですけど……私はまだ槍があんまり得意じゃないんで」
どうやらルーファさんのグーリに近い能力っぽい。武器と使い魔に変化する能力か。
実際の馬を見たことは無いけど、セスがあっけにとられたって顔で見ているから、多分実物より大きいんだろうな。
ひざを折った馬に鐙さんと僕とセス、それに檜村さんがまたがる。
「カタリーナ、パトリス、お前らは走ってついて来い。できるな」
「勿論です」
「訓練で死ぬほど走らされマシタからネ、大丈夫」
カタリーナとパトリスが頷く。
定員オーバーだから仕方ないとはいえなんか申し訳ない気がするな
「ところでお前、序列では一番下の9位だそうだな」
セスが鐙さんに聞く。
「はい」
「ならば、この馬で我らを送ったらここに戻れ。あとは我らに任せろ」
「嫌です。友達に助けに行くよって約束したんで」
セスが迫力ある口調で言うけど、鐙さんがにっこり笑ってセスに言い返した。
大人しそうに見えたけど結構気が強いっぽいな。セスが何かつぶやいて諦めたように首を振った。
「このまま突っ込め。俺が道を切り開く」
セスが鐙さんに言う。
鐙さんが蔦で覆われたグラウンドにまっすぐ馬を向けた。
「【Blessed be the Lord and Sir Framlingham our blave , which teaches my hands to war.My goodness and my fortress... my high tower and my shield.My sword, and he in whom I trust】」
セスが詠唱を呟いて十字を切る。
同時にセスの体から巨大な鎧のようなものがうかびあがった。
◆
「これは?」
檜村さんが驚いたような声を上げる。
3メートル近い、馬の大きさの負けないサイズの黒の装飾が入った青い西洋鎧のようなものが、馬にまたがるようにセスの体から浮かんでいた。
関節からは青白い炎のようなものが見える。
片手には人間のくらいの長さの片手剣、左手には紋章が刻まれた盾を持っている
……重くないのかと思ったけど馬の挙動は変わらない。
「行け!」
「はい!」
馬が巨体を揺らしながら突っ込んだ。
セスが右手を薙ぎ払うと同時にその鎧が同じように動く。
巨大な剣が雑草でも切り払う様に蔦を切り裂いた。中にいた蟲の体の破片が空中に飛び散る。
「ジャマだ!」
鎧が馬の前に身を乗り出して剣を振り回す。
蔦で覆われたグラウンドにまるで裂け目のような道が出来た。残った蔦を馬が踏みつけて突進する。
200メートルほど走ると、すぐに行く手に1組のパーティと何人かの人が見えた。
アリのような魔獣と戦っている。こっちに気付いたアリがぞろぞろと向かってくるけど。
「お前らは力を温存しろ」
「皆さん、振り落とされないで」
セスが言って腕を振ると鎧人形の剣が一閃する。鐙さんの馬が前足を振り上げて魔獣を蹴りつけた。
人間の体より大きい大剣とハンマーのような馬の蹄が魔獣を蹂躙する。
あっという間に魔獣が薙ぎ倒された。
「大丈夫ですか?」
「助かりました」
「……死ぬかと思ったよ」
30歳くらいのちょっと太めのジャージ姿の男の人と、同じ年くらいの背の高い女の人。
男の人はロングソードを持っている、女の人は武器はないから魔法使いかな。
あちこち傷だらけだけど命に別状はなさそうだ。
「この道を通って施設に戻って下さい。あと少し頑張って」
「ありがとう」
「さあ、行こう」
鐙さんの馬とセスの鎧が開けた道はまだ残っている。
5人くらいの家族連れっぽい人達をその2人が先導していった。
◆
「次に近いのは……あっちです」
鐙さんが馬の上に立って左側の指さしながら言う。
右の方にはあの木のようなダンジョンマスターの姿が見える。
「できるだけあっちに近づいて、そこで下ろして」
「はい!」
鐙さんが言って、馬が駆けだす。セスの鎧がまた蔦の中に道を穿って、すぐにその木の傍まで来た。
鐙さんが馬の足を止める。檜村さんが恐る恐るって感じで馬から飛び降りた。
その木まではまだ10メートルほど離れているけど、太い木の幹からまるで骨ばった手の指のように木の枝が張り出していて、すぐ頭上まで届いている。
まるで巨大なドームのようだ。
遠目から見るとよくわからなかったけど、間近で見ると禍々しいというか圧迫感を感じるな。
改めてアプリを見る。光点の位置的にあいつがダンジョンマスターなのは間違いない。
でも、こっちに気付いていると思うんだけど向こうから動く様子はない
僕等の代わりにパトリスとカタリーナが馬に飛び乗った。
セスの鎧が敬礼するように剣を立てて構える。
「じゃあここで!向こうは宜しくね」
「後で会おう、カタオカ」
「死んじゃダメよ!」
鐙さんの馬が地面を蹴って走り去っていった。
セスの詠唱の意味はこんな感じです。元ネタが分かる人はかなりの映画マニア。
【神と我がフラウリンガムに祝福よあれ、我が手に戦う勇気をお与えください。主よ、あなたは我が砦にして高き尖塔、我が盾、そして我が剣なり。私はあなたを信じます】
鐙亜沙はキャラ募集に応じてくれた方のキャラです。
短めポニーテールの小柄で活動的な雰囲気の高校一年生。
マイペースですが芯が強く自分の意思を曲げないタイプです。
半年前ほどに能力に目覚めて即登録した甲類9位。
槍に変化する馬の形の使い魔を使う能力です。ルーファの持つ、円弧剣に変化する狼の使い魔・ヴ―リとよく似た能力です。
ちなみにアンヴァルと言う名前は自分でつけた者です。
槍の状態にすると騎兵槍のような形状の槍になります。
馬の状態に場合は、金色のたてがみに赤い体の巨大な馬になります。某有名漫画の世紀末覇者の愛馬のイメージ。
彼女の意のままに動くので馬術の技術が無くても乗りこなせます。
現状ではまだ槍使いとしての修行が全然足りていないため(もともと普通の女子高生なので当たり前ではある)馬の状態で戦う方が高い戦力を発揮します。
本人は熱心に槍の稽古に励んでいます。