代々木訓練施設・グラウンドの攻防・2
おはようございます、朝更新。
◆
鐙さんがやきもきした顔で外を見ている。
とはいえ、打って出るにしても鐙さんと檜村さんとの3人で行くわけにはいかない。
流石に無茶だ。
真坂門さんは娘さんと一緒にいて何か話している。もう一度戦ってほしい、と要求するのは無理か。
となると……壁際の方に黒いジャージ姿の3人の姿が見えた。セスティアンは背が高いから目立つな。
人ごみをかき分けてそっちに向かう。
「パトリス、カタリーナ、それにセスティアン……今からグラウンドの人を助けに行く。
一緒に来てほしい。手伝ってくれないか?」
学校の態度を見る限り、セスティアンは決して高慢で偉そうなだけの奴じゃない。
それにパトリスの言葉を信じるなら、甲の3位並みらしいし。
セスティアンが僕を見下ろして気まずそうに目線を逸らした。
「これは君達の問題だろう。君達が解決するのが筋というものだ、違うかね?」
セスティアンの代わりのように、3人の後ろにいたフィッツロイが嫌な笑みを浮かべて言う。
「私達は君たちの同盟者ではない。君たちのサポートをする理由は無いし、余計な責任を押し付けられても困る。
いいかね、我々を巻き込むな」
大変ご尤もな話ではあるけど……非常に腹の立つ言い方だな。セスティアンは黙ったままだ。
ダメ元で頼んでみたけどやっぱりダメかと、思ったけど。
「アタシが行ってあげるわ、片岡」
◆
カタリーナが言ってフィッツロイが不快気にカタリーナを見た。
「なんだと?」
「俺も行こう」
カタリーナに続いてパトリスが言う。
「お前等……その言葉の意味は分かっているんだろうな。命令に背く気か?
聖堂騎士の監督官である私に、世俗騎士風情が」
フィッツロイが静かな口調で言うけど。
「ここで剣を取らぬは騎士の名折れ……俺は俺の騎士道に従います、フィッツロイ卿」
パトリスが言った。
「アタシは騎士道とかはどうでもイイんだけどさ……これって手柄の立て時だと思うのよネ」
カタリーナが小声でささやく
そう言ったカタリーナの手にはごつくて黒い突撃銃が握られていた……どこから持ってきたんだ?
「これ、ジエイタイの20式っていうんだって。銃使いの魔討士用に置いてあったんだってさ」
「なるほど」
「流石、日本製ね。軽くて取り回しが良いわりに威力があってイイワ」
この訓練施設も結構色々あるんだな。
たしかに銃系の武器の取り扱いのために元自衛官の教官もいるのは知ってるけど。
「さ、急ごう、パトリス、カタオカ。行かない奴にナンカ言ってても時間の無駄ヨ」
カタリーナがセスティアンの方をちらりと見て言う。
セスティアンは甲の上位クラスらしいし来てくれると有難かったけど……無理なものは無理か。
でもこの二人が来てくれるだけで助かる。
「待て、パトリス、カタリーナ」
セスティアンが言って一歩前に進み出た。
◆
「何のつもりだ、セスティアン?」
フィッツロイが言ってセスティアンが無言でフィッツロイを見る。
フィッツロイのなまっ白い顔が真っ赤になった。
「まさか……貴様まで我が命に背くつもりか。正気を失ったのか?」
「無論承知です。ですがこれは名誉の問題だ。
ここに居合わせたにもかかわらず、彼らの苦難を後ろで傍観すれば聖堂騎士団の名誉は地に落ちてしまいます。断じて許されることではない」
怒りの表情を浮かべるフィッツロイに、セスティアンが静かに言い返した。
「それに悪の手より民を守るこの戦いの場において、我ら聖堂騎士にも名誉ある役割が与えられてしかるべきでしょう」
「騎士がどうだのとか、そんな下らんことは聞いておらんわ、馬鹿者め。
立場が分かっているのか?お前の家のことを考えて言っているんだろうな、と聞いているんだ」
フィッツロイが脅すような口調で言う。
セスティアンがわずかに考えるように間を置いた。パトリスが緊張したというか何か言いたげな顔でセスティアンを見る。
「無論……誇りに思ってくれると信じております」
「もう一度言うぞ。我が命に背けばお前の家は終わりだ。お前も聖堂騎士の地位を失うぞ。弁えろ飼い犬が」
フィッツロイがセスティアンを見上げて言うけど。
「承知しております、フィッツロイ卿。それでは」
迷いを吹っ切ったようにセスティアンがフィッツロイに素気無く言い返した。
セスティアンが歩み出して、パトリスとカタリーナがそれに従う。
「ありがとう」
「礼には及ばん。これは我らの名誉の問題だ。お前には関係ない」
なにか余程の事情があることくらいは察しがつくけど。
「……それに正しい場所に行きつくためには正しい道を選ばねばならない」
セスティアンが言う……なんのことだろうか。




