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令和ダンジョン!~高校生風使いが挑む、東京ダンジョン討伐戦記~  作者: 雪野宮竜胆
7章・誰かに求められて戦うこと~仙台宮城野ダンジョン攻略戦
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7日目・宮城野ダンジョン、深奥の戦い・上


 大男が蛇のように蠢く蔦をデカい斧で切り払いながらこっちに走ってきた。

 あちこち裂けているけど、中華風っぽいひらひらした衣裳だ。赤いダンジョンの光に銀色の刺繍がきらめいている。

 

 こっちまで来たところで大きく息を吐いて、そいつがダンジョンの奥の向きなおった。

 手には僕の身長ほどくらいある両手持ちの大斧を持っていて肩には革の肩当を付けていた。

 肩当にも斧にも熊のような獣の顔を象ったような装飾がされている。 

 

 顔の下半分を硬そうな髭が覆っていて、バサバサとした乱れた短めの黒髪から小さめの獣耳が見えた。

 やっぱりシューフェンの国のやつか。


 熊男を追うようにじりじりと迫ってきたやつがこっちから10メートルほどのところで足を止めた。

 触手のような蔦がところどころから生えた球根のような丸い体。暗い緑色の硬そうな表面には黒い血管のような筋が走っている。

 全体で4メートル以上、この間のクレイゴーレムなみのサイズだ。


 球根の先端から芽が出るように花びらのような葉のようなものが広がっていて、その中央には蔦が絡まってできたような人形の姿が見えた。

 あれをどう呼べばいいんだろう。上半身人間で下半身は植物だからアルラウネっていうんだろうか。

 

 アルラウネの人型の顔がこっちに視線を向けたのがわかった。

 きしむような音がして球根から何本もの蔦が伸びる。攻撃がくる。


「一刀!破矢風!蛇颪!」


 四方から蔦を鞭のように飛んできた。

 風の刃が蔦を切り裂く。切り落とされた蔦が打ち上げられた魚のように地面で跳ねた。


「どういうことなんですか、何が起きてるです?」

「なによ、あれ」


 漸く我に返ったって感じで出水さんが言う。漆師葉さんも何が起きているのかわからないって顔だ。

 当たり前だけど想定してた状況と違いすぎる。


「四宮さん」

「分かってる!」


 また唸りをあげて鞭のように蔦が四方八方から飛んできた。

 熊男が斧を振り回して蔦を薙ぎ払う。

 四宮さんが剣を振ると、白い光が残って蔦を切り落とした。さすが年上かな。立ち直りが早い


「君は何が起きてるのかわかってるのか?」

「なんとなく」


 前に八王子でエルマル達とあったときと同じだ。

 シューフェンやルーファさんの世界とこっちの世界がダンジョンでつながっている。


「お前らがどこの国の兵か知らんが手を貸せや」


 熊男が野太い声で言う。四宮さんが熊男をちらりと見た。


「こいつは味方か?」

「敵ではないです、多分」

『邪魔をするな』


 アルラウネが頭の中に響くような声で言う。驚いたように漆師葉さんがアルラウネの方をむいた。

 やっぱり……知性がある奥多摩系、シューフェンが言ってた……后種(フョンシュー)だっけ。

 

「みんな気をつけて、あの木は知性がある。油断しないで」

「なんだかわからないけど……了解しました」

「あとで説明しなさいよ、片岡」


 漆師葉さんがサーベルを構える。

 アルラウネが周りを探るように見回して、アルラウネの足元から伸びた蔦が壁や床に突き刺さった。


 蔦が壁に貼っていって、侵食するように赤い壁に黒いひび割れが急激に広がっていく。

 浸食に合わせるようにアルラウネが巨体をじりじりと前に進めてきた。あまりにもデカすぎて、山が動くように見える。

  

『獣如きが何人来たとしても無駄だ』


 蔦のうち、先端に毒々しい紫色の花が咲いたやつが鎌首をもたげる蛇のようにこっちを向いた。


「まずい!全員目を瞑れ!息を止めるんだ」


 熊男が叫んで襟で口元を抑える。

 紫色の花から煙のような物が噴き出した。ガスのように黄色い煙がこっちに迫ってくる。


「あれを吸うな!」

「一刀!薪風!逆捻(さかねじ)!」


 通路で風が渦を巻いた。

 煙が渦に当たってそのままアルラウネの方に吹き飛ぶ。


『これは?なんだと?』 

「……風使い?」


 熊男が僕を驚いたように見た。


「お前……まさか大風老師(ダイフォンラオシィ)か?」 


 熊男のぎょろりとした目が僕を睨んだ。なんだ?

 熊男が舌打ちする。

 

「……お前のことはあとだ。

あれを受けると酒に酔ったように体が動かなくなる。我が旗下も全員あれにやられた。なんとしても止めろ」


 熊男が言う。

 今のは毒と言うか麻酔と言うかそういうものっぽいな。でもあれなら風で止められる。


「あれの弱点はあの人型のところです。出水さん、漆師葉さん、よろしく」 


 檜村さんがいれば時間を稼いで魔法で一撃ってこともできるんだろうけど。

 今日はそういうわけにはいかない。遠距離攻撃ができる二人に削ってもらうしかない。


「任せなさい!」 

「了解です」


 出水さんが詠唱に入る。

 蔦がうなりを上げて飛んでくるけど、それを四宮さんの剣と風が切り落とす。

 

「ブラックローズ!」


 影が漆師葉さんの足元から伸びて枝分かれする。壁や地面から影の刃が伸びてアルラウネを突き刺した。

 続いて次々と泉さんの光球が飛ぶ。光弾がぶち当たって白い光がフラッシュのように弾けた。


「どうだ?」


 光が消えるけど、人形の部分の周りに生えていた花びらのようなものが本体を覆うように守っていた。

 影で切られた傷の裂け目も粘液のようなものが埋めていく。

 あの時の蜘蛛もそうだったけど、再生能力というのかそういうのが高い。


『獣だけかと持ったが、珍しく人外の力を持つ者がいるようだな。だがこの程度では私を倒せん』 

「我が部下の仇!」


 止める間もなく熊男が突進した。熊男に向けて何本もの蔦が四方八方から次々と飛ぶ。

 鞭のようなものの中に、ハンマーのように先端が膨らんだようなものが混ざっている。


「一刀!薪風!」

『無駄だ』


 風の壁が立つけど、蔦の内の何本かが風の壁を突き抜けた。鈍い音を立てて蔦が熊男の斧と交錯する。

 巨体が蔦で打たれてこっちまで吹き飛んできた。

 威嚇する蛇のように蔦が蠢く。風の壁であのガスは止められても蔦は止められないか。

 

「大丈夫?」

「戦うのに支障はない……」


 顔をゆがめながら熊男が立ち上がった。


『抵抗しないなら楽に死なせてやるぞ。足掻いても苦しみが長引くだけだ』

「貴様等蟲どもに対して下るなどあり得ん!」

「キモイのよ、アンタ」

 

 熊男と漆師葉さんが言い返す。


『いつも通りだな、人間も獣も口だけは勇敢だ……そしてすぐ死ぬ。口ほどもなくな』


 アルラウネの前に何本も伸びた蔦の先端がこっちを向いて拳のように膨れた。


「一刀!薪風!」


 風の壁が立つ。同時に蔦の先端が弾けて散弾のように打ち出された何かが風の壁にぶち当たった。

 硬い音を立てて、太い棘のようなものが床や壁に突き刺さる。

 それを追うように風の壁を突き抜けて今度は蔦が飛んできた。


「ブラックローズ!」

「こいつ!」


 正面から飛んでくる奴を鎮定で切り払う。四宮さんの剣と熊男の斧が蔦を切り落とした。

 漆師葉さんの影の刃と出水さんの魔法が本体に突き刺さる……でもまったく動じた様子がない。


『どうした?』


 蔦と棘が絶え間なく飛んでくる。手数が多すぎて近づけない。

 蔦をどれだけ切ってもすぐに次が伸びてくる。しかも蔦を切っても全然ダメージがなさそうだ。


 棘を撃った蔦がしおれて、20本近い蔦がアルラウネの前に立ちふさがるように伸びた。 

 鞭のようなやつに棘付きのハンマーのようなやつ、それに棘を撃ってくる奴。 

 あれを全部かいくぐって断風の間合いに飛び込むのは厳しい。

 熊男が横で歯ぎしりする音が聞こえた。


 こいつは、前に学校で戦ったあの蜘蛛……アラクネよりはるかに手ごわい。

 しかもあの時はシューフェンが本体を切りつけれてくれたし、檜村さんがいた。

 でもこの熊男はパワーはともかく、シューフェンのように一瞬で距離を詰める速さはなさそうだ。

 それに檜村さんも今はいない。

  

 でも泣き言を言っていても状況は改善しない。逃げられないなら戦うしかない。


「この距離で戦ってちゃだめだ」

「その通りだ。援護しろ!」


 そう言ってまた熊男が突進したけど、その動きを制するように、蔦が大きく振り回された。

 熊男が何か悪態をついて下がる。


 アウラウネがまたじりじりと前進してきた。まるで根が張るように赤く光る地面に黒い筋が根を張るように広がる。

 蔦が赤いダンジョンの壁に突き刺さって壁にも黒い浸食が広がっていく。

 四宮さんが一歩後ずさった。


「踏みとどまれ!あれを倒さねば、ここから地上に出ようとするぞ。

そうなっては大変なことになる。分かるだろう!」


 熊男が言う。

 ……外に出ようとするダンジョンマスターなんて聞いたことも無いけど、そもそもこいつはダンジョンマスターじゃないのか。


『逃げれば助かるかもしれないというのに、悪あがきを続ける気のようだな』 


 僕らを囲むように、芽を出すように蔦が周りの地面を突き破って伸びてきた。

 先端が膨らむ。また棘を飛ばしてくるか。


「一刀!破矢風!蛇颪!」


 風が渦巻いて風が僕を中心にして渦を巻く

 四宮さんの斬撃の光が蔦を切り裂いた。どうにか突破口を見つけないと。アルラウネの様子を見た時。


「片岡さん」

「危ない!」


 後ろから声が聞こえた。

 同時に突き飛ばされるような衝撃が来る。赤と黒が混ざった地面に転がった。

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