表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢日記

「悔い」

作者: ひかる


 起きてすぐ腕に違和感を覚えた。


 昨日は無かった切傷が腕いっぱいについてた。

私はギョッとして、血の固まりきっていない生々しい傷を眺めた。

不思議なことに、肉を切られたときの焼けるような痛みはほとんどない。

しかし、じくじくとした嫌な鈍痛があった。


 「そうか……。」


 君がやったのか。

私は隣で気まずそうにしている男を見やった。

男を疑いたくはなかったが、昨日から今日にかけて同じ空間にいた人間は私と男だけだ。


 男はこちらと目を合わせない。

恥じているのだろう。


 かける言葉は無いので、私は自分の怪我を労わることにした。



 肘から先に無数についた切り傷は、どれも5㎝ほどの長さであった。

よく切れるカッターナイフで描いたような、赤っぽい地味な切り込み線だ。

 みみず腫れにはなっていない。

時間がたっていないのか、はたまた相当に傷が浅いのか。


 私はふと、傷の中から何か覗いていることに気が付いた。

傷に触れないよう、傷の周りの皮膚を押すと、無機質な異物が傷口から顔を出した。


 薄い金属片だった。

そっとつまんで傷から抜き出した。

背筋が寒くなった。

私の腕には、この尖った金属片がいくつも潜んでいる。

 恐ろしさに泣きたかったが、このグロテスクな状況から私を逃がしてくれる者は私しかいない。

隣にぽつねんと座っている男は、変わらず宙を見つめて恥じている。



 まるで鼻の角栓をとっているみたいだ……


 慎重に傷を探り、私は次々と肉に埋まった金属片を取り除いていった。

折れたカッターナイフの刃のようでもあり、割れた果物ナイフのようでもあった。

小さく座る私の足元に、刃の破片が溜まった。

 理不尽な暴力の前に感情は生まれない。

それは怒りや悲しみさえも生まない。

生まれるのはしんとした恐怖と、それに適合する自身だけだ。



 すべてを抜き取り、私はいつものように一日を始めた。

男もいつものように一日を始めた。


 彼には良心がある。

つまり、恐ろしさに震え出すのは彼の番だった。





(完)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=716282791&s
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ