プロローグ
プロローグ
長い道のりだった。
魔王の城に住む大勢の魔物を斬り捨て、魔王幹部を魔法で焼き殺し、やっと魔王の部屋の扉の前まできた。
扉からはなんとも言えない威圧感が溢れだしている。
「この先に、魔王が……!」
声の主、勇者であるネザン・センデーツは扉を前に震えていた。
しばらく目を閉じ、大きく深呼吸した後、取手に手を掛けた。
「よし、行くぞ!」
思っきり扉を開く。ギギギ……と軋む音出しながらゆっくりと視界が広がってゆく。
目の前の景色はネザンの想像を超えるものだった。
「だ、だ、誰もいない!?!?!?」
扉の先には大きな椅子が寂しく1つ。椅子には誰も座っていなかった。
「あ、あのー……誰かいますかー?
」
もちろん声は帰ってこない。
そこで、ネザンは魔王の部屋を探索することにした。
「広いけど……誰もいないし、椅子しか置いてない……」
これは本来なら異様な光景であった。
先代から、勇者は魔王に挑んできた。もちろんネザンの前の代の勇者も魔王討伐に向かい、倒してきた。だが、今回は挑む前から魔王がいないのだ。
「ん?これは……」
椅子の少し前にある異変を感じた。
すると、椅子から少し進んだところに魔法トラップを使った痕跡が見つかった。
魔法トラップとはマジックカードを使って設置できる特殊なトラップだ。
ここに残っている魔法トラップの跡は恐らく落とし穴トラップだろう。
「ここに魔法トラップの後が……」
その跡の周りにもいくつか魔法トラップの跡が見つかった。
そもそもマジックカードは高価でなかなか買うことが出来ない。
自分で探すのも凄く困難でまず不可能とされている。
そんな貴重な魔法トラップがいくつも設置されていたとすると、恐らく魔王が勇者をはめようと設置したものではないと思った。
だとすると、
「俺より先に魔王と戦った奴がいる……?」
信じ難いことだが、それしか考えられない。マジックカードを買いに街に出ることは出来ない魔王がたくさんの魔法トラップを仕掛けることは不可能だからだ。
だが、そうなると色々辻褄の合わない。
「そもそも勇者じゃないのにここまでたどり着けるのか……?」
勇者の剣は世界に一つしかない。そしてそれは子供の頃からネザンが持っている。
そして魔物は勇者の剣には弱いが、普通の武器だと1匹倒すのも一苦労だ。
だが、魔王の城まで行くには大量の魔物を倒す必要がある。
そして決定的におかしいのは、
「魔王幹部は生きていたよな……」
事実、ネザンは魔王幹部を倒してここまできた。この魔王の部屋に来るには魔王幹部が必ず立ちはだかるはずだ。
「何がどうなってんだ……?」
ここまで言ってネザンは気がついた。
もう、ここまで選択肢が狭められればこれしか残ってないだろう。
「瞬間移動〈テレポート〉しかないだろ……」
瞬間移動〈テレポート〉。それは数少ない上級魔法の1つ。
だが、何属性にも属さないことから習得試みる人が後を絶えない。
そして、皆、習得出来ずに断念する魔法だ。当然だろう。上級魔法は百年に一度の逸材が人並み以上に努力しようやく習得できる可能性が出てくるレベルなのである。
上級魔法は存在自体があやふやなものもある程高度なの魔法なのだ。
「それを魔王の部屋に移動するために1回。戻るためにもう1回使うなんて絶対無理だよな……」
そんなこと出来る人がいればそれは人間ではない。何か嫌な予感はしたが、魔王がいないんじゃ仕方がない。
ネザンは来た道を戻って行った。1度倒しても魔物は生き返る。帰り道、つぎからつぎへと生まれてくる魔物を斬り捨てながら考えたがやはりなぜ魔王がいなかったのか分からなかった。
そしてこの件を王都の国王に報告した結果、報酬は約束の半分しか貰えず、周りからは魔王を倒せない勇者と陰口を叩かれ、散々であった。
「魔王を倒した野郎め……」
魔王側を疑わせるような恨み言を吐きながら勇者は生活を送ったのであった。ネザンの亡き後、その名は『残念勇者』として歴史に名を刻む事になる。
今から始まる物語はこの『残念勇者』ネザンの息子の話である。