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#22 さて、何を作ろうか

さて、お城で何を作りましょうか。

どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ

少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!

 王都は、首都であるドルドラの街の中央に位置する。


 南部スーザの村に北部マカロワの村、東部アグレルの村、そして西部マスネの村。これら4つの村に取り囲まれる様に、王都は存在した。


 王都にはそれぞれの村に繋がる門があり、そのすぐ内側には詰所。その出入りは厳しく制限されている。


 だが王都を囲う石塀はそう高く無く、梯子1本あれば忍び込めてしまいそうだ。とは言えそんな事をする国民はいないのだが。


 (まれ)に好奇心の塊の様な子どもが入り込んだりするらしいが、子どもの悪戯(いたずら)だから大事(おおごと)にはならない。


 「入っちゃ駄目だよ」、そう(さと)されて家に帰される。親にはこっぴどく叱られそうだが。


 さて、今サミエルとマロがいるのは北部、マカロワの村。と言う事は北門から入るのが早い。


 まずは馬車を借りて、王都近くの宿に向かう事にする。


 国王陛下、そして王族の方々に料理を振る舞うのは、明日の晩である。




 王都から1番近い宿からは、北門が小さく見える。そこにはキッチン付きの部屋が無かったので、普通のペット可の部屋を取った。


 さてそうなると、夕飯はどうしようか。カロリーナの事もあるから、作らない訳には行かない。となると、何時もなら村外れで火を起こす事にするのだが。


 サミエルは部屋に荷物を置くとロビーに引き返し、受付の女性に、火を起こせそうな場所はあるか聞いてみた。すると。


「お客さま、受付の時にキッチン付きのお部屋があるか聞いておられましたね。お料理をされたいのですか?」


「ああはい、そうなんすよ」


「でしたら、宿の厨房をお使いになられます?」


「え、良いんすか?」


「はい。夜は使いませんから」


 この国の宿の殆どは、夕飯の用意は無い。朝食は客が望めば軽食が振舞われる。内容は宿による。この宿ではスープとパンなのだと言う説明が、受付の時にあった。


「朝食のスープを作る為の調理器具しかありませんので、不充分かも知れませんが、よろしければ」


「そうさせて貰えるなら、本当に助かります。ありがとうございます」


 それは本当に有難い。サミエルは頭を下げた。足元ではマロも。受付からは見えないだろうが。


「ではご案内しますね。使える器具は使っていただいて構いません。あ、食材だけは持ち込んでくださいね。後は元通りに片付けてくだされば大丈夫ですから」


 そう言いながら連れて行かれた厨房はこじんまりとしたもので、一般家庭の設備とそう変わらない。しかし夕飯を作るには充分だった。


「解りました。じゃあ使わせて貰いますね。ありがとうございます」


「ありがとうございますカピ!」


 サミエルに続けてマロも礼を言うと、受付の女性は「あら」と小さく驚いてマロを見た。


「喋れるって事は、能力持ちのカピバラさんだったんですね。でしたら普通の2人部屋をご用意しましたのに」


「大丈夫なのですカピ。動物用のベッドの方が落ち着くのですカピ」


「そうなんですか? それなら良いんですけど」


 受付の女性はそう言って、にっこりと笑った。


「じゃあ俺は市場に行って来ますんで」


「はい。ご使用の前にはお声を掛けてください」


「はいっす」


 そうしてサミエルとマロは市場に向かった。




 サミエルが仕入れたものは、にんにく、生姜(しょうが)、玉葱、牛挽肉(ひきにく)、人参、トマト、卵、米。


 まずは米を洗って鍋に入れ、水に浸しておく。


 鍋に湯を沸かし、卵を入れ、火を止めて(ふた)をする。これは(しばら)くこのまま放置。


 続けて、にんにくと生姜、玉葱と人参は微塵(みじん)切り、トマトはざく切りにしておく。


 米の鍋を火に掛ける。まずは強火に。


 フライパンにオリーブオイルを引いて、にんにくと生姜をじっくりと炒める。香ばしい香りがしたら玉葱を加えて炒める。塩を振ってしんなりするまで。


 米の鍋が沸いたので、弱火に落として。


 玉葱に透明感が出て甘い香りがして来たら、人参を入れてさっと炒める。


 続けて牛挽肉を入れて、ぽろぽろになる様に炒める。


 炒まったらブレンドしたカレースパイスを入れ、香りが立つまで焦がさない様に炒めて。


 トマト、水と顆粒(かりゅう)ブイヨンを加える。まずはトマトを潰す様に炒めて、馴染んだら煮詰めて行く。


 米が炊き上がったので、解して蓋をして蒸らしておく。


 さて、その米を皿に平らに盛る。その上に塩胡椒と砂糖で味を整えた牛挽肉を煮込んだものを乗せて、真ん中に(くぼ)みを作る。


 その窪みに放置しておいた卵を割り落としたら。


 ドライカレー温泉卵乗せ、完成である。


「スパイシーで良い香りですカピ」


 調理台の上にちょこんと腰を落としたマロが、嬉しそうに声を上げた。


 この厨房の調理台には椅子も置かれているので、このままここで食べる事にする。カロリーナはまだ来ていない。宿を移る事は言えなかったので、迷っていなければ良いが。


 そう考えた瞬間、厨房のドアが勢い良く開かれた。


「ちょっと! 宿を変えるのなら前もって言っておいてよね!」


 カロリーナが怒りを含んだ声を荒げた。


「宿に気配が無いから驚いたわよ。人間の振りして受付に聞いたらチェックアウトしたって言われて、何処に行ったか聞いたら「お客さまの事は教えられない」なんて言われて本当に腹が立つったら。この村にいる気配はしてたから、どうにか辿って来たけど」


 愚痴(ぐち)るカロリーナの台詞の合間に、マロの「そのまま迷って来なければ良かったのにカピ」が小さく混じり、「相変わらずだなぁ」とサミエルは微笑を浮かべた。


「そりゃあ悪かったな、時間が無くてさ。でも丁度良いタイミングだ。出来立てだぜ」


「そ。ま、もう良いけどね。良い香りだわ」


 カロリーナはころりと機嫌を直し、鼻をひくつかせながら椅子に掛けた。


「ほらよ、どうぞ」


 サミエルはマロとカロリーナの前にドライカレーを置いてやった。


「美味しそうだわ!」


 カロリーナは嬉しそうな声を出すと、あらためて顔を近付けて香りを楽しんだ。


 マロもわくわくを隠せない表情でドライカレーを見つめている。


「じゃ、いただきます」


「いただくわ」


「いただきますカピ!」


 まずはスプーンで、米にドライカレーを(まと)わせ、口に運ぶ。ぴりりとスパイシーで香ばしく、だが玉葱の甘み、ブイヨンの(ふく)よかさが味わいを良くしている。


 次に温泉卵を割る。とろりと流れ出る黄身。黄金色に輝くそれを絡ませて口へ。まろやかさが加わり、更なるコクも生まれる。


 今夜も美味しく出来た。サミエルはうんうんと頷いた。


「美味しいわ!」


「美味しいですカピ! とろとろの卵ととても良く合いますカピ」


 カロリーナとマロも、満足そうに口を動かしていた。




 皿が空になり、ひと心地着いた頃。


「カロリーナ、明日の晩飯だけどさ、悪いがキャンセルしてくれんか」


 サミエルが言うと、カロリーナはあからさまに不機嫌を(あら)わにした。


「どうしてよ」


「明日は王都の城に料理作りに行くんだ。流石にそこにお前さんを招待する訳には行かんと思うからさ」


 するとカロリーナは唇を尖らせながらも、渋々と頷いた。


「……王都なら仕方が無いわね」


「お、やけにあっさりと引き下がってくれたな。助かるけどさ」


「王都には結界が張られているのですカピ」


「そうなんか?」


「有能な祓魔師(エクソシスト)結界師(バリアマスター)が組んで、強力な結界を張っているのですカピ。あれは見事ですカピ。そこの悪魔程度なら、手も足も出ないですカピ」


「煩いわね! あの結界は高位悪魔でも簡単には破れないんだから」


 カロリーナは膨れっ面で言い放つ。


「で、サミエルさん、明日は何を作るのですカピ?」


「そうだなぁ……」


 マロの問いに、サミエルは「ううん」と首を捻る。


「担当してくれてる王都勤めの人が言うにはさ、王都にはこの国の名物が集まってるらしいんだよ。畑も田圃も牧場もあって、王都の食は全部中で賄ってるんだな。だから迷ってんだよ」


「それは難しいですカピね……」


「なぁ、マロ、カロリーナ、今まで食べた俺の料理の中で、どれが1番旨かった?」


 訊くと、マロとカロリーナが顔を見合わせた。


「決められないわね」


「決められないですカピね」


「どれも美味しすぎるから」


「美味しくて堪らないものばかりなのですカピ」


「そう言ってくれるのは嬉しいがなぁ」


 サミエルはそう言って苦笑する。


 さて、何を作ろうか。

ありがとうございました!

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです!

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