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#19 洗練された味との出会い

美味しいものとの出会いは、いつでも嬉しいものですね。

どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ

少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!

 朝の目覚めは相変わらず最悪である。どうして朝はやって来るのか。どうして朝に起きなければならないのか。


 そんな(せん)無い事を考えつつ、のそりと上半身を起こす。


「う〜……」


 呻き声を上げながら、頭をがしがしと()いた。


「おはようございますカピ」


 いつもサミエルより早く起きているマロは、やはり今朝も既に起きていて、元気に挨拶してくれる。


「おはよう……」


 最初はやや恐々だったマロも慣れてくれた様だ。


 頭はぼんやりしているが、恐らく移動疲れは取れている。となると、今夜営業出来そうではあるが。


 今日行く予定の場所の対応に寄っては、明日に延期になるだろう。確率としては高い。


「……起きるか」


 サミエルは呟くと、のろのろとベッドから足を下ろした。




 朝食、そして昼食を済ませ、サミエルとマロはとある工房に向かう。


「何処に行くのですカピ?」


「酒の工房だな。醸造酒メインに手広くやってるぜ。米酒、あれを開発した工房でもあるな」


「凄いのですカピね!」


「そうだな。米酒はまだ飲むには味がいまいちなんだが、料理に使うと良い甘みとコクが出るんだ。素材の臭みを取ったりな。ソイパテ((味噌))とかソイソース((醤油))と良く合うかな。あ、ソイソースを開発したのもユリンな」


「ユリンさんも凄いのですカピ」


「まぁな。ま、あの調子なもんだから、折角(せっかく)旨い調味料作っても流通せんで、俺だけの味になっちまうんだがな。良いんだか悪いんだか、微妙なところだぜ」


「そうですカピね」


 そんな話をしながら到着した工房は、村外れにあるかなりな規模の敷地で、幾つかの建物が手前に奥にと建てられていた。


 門柱(もんちゅう)には堂々と「マキリ醸造酒工房」と書かれたプレートが掲げられている。


「広いのですカピね」


「結構大規模に商売やってるからな。さてと、マキリさんはいるかな」


「マキリさんですかカピ? サミエルさんが買われるお酒の工房が、確かこちらのお酒ばかりだったかと思うのですカピが」


「お、流石目敏(めざと)いな。マキリさんはここの(おさ)。こりゃあまた腰が低くて丁寧な人、と見せ掛けて実は押しがなかなか強い。俺より10程年上の男性だ」


「そうなのですカピね」


 そうしてサミエルとマロは並んで敷地内へ。1番手前にある事務所を訪ねる。


「こんちわ!」


 声を掛けると、デスクで事務仕事をしているであろう女性が気付いてくれた。


「あら、サミエルさんお久しぶり。マキリ社長はワイン舎にいるわよ。呼んで来るわね」


 そう言って立ち上がろうとした女性を、サミエルは「いえいえ」と止める。


「俺行くっすよ。ワイン舎ですね。ありがとうございます」


「はーい」


 女性に見送られ、サミエルとマロは事務所を出てワイン舎に向かう。


「こんちわ。マキリさんいます?」


 覗き込むと、1番手前で作業をしていた男性が振り向いてくれた。


「サミエルさん、久しぶりですね、こんにちは。マキリ社長、社長ー! サミエルさん来られましたよー!」


 奥に向かって大声で呼ぶと、「はーい」と言う返事とともにひとりの男性が姿を現した。白い帽子を被り、白の上下に白のエプロン。あちらこちらを赤や黄に染めているのは、ワインに使う葡萄(ぶどう)の染みだ。


「おや、サミエルさんこんにちは。お久しぶりですね」


 にこやかに低姿勢で近付いて来る男性に、サミエルは「こんちわっす」と笑顔で応える。


「ご無沙汰っす。お世話になってます」


「いえいえ、こちらこそ。サミエルさんに味見していただきたいお酒があるんですよ。ワインもエールも美味しく出来てます。是非飲んで行ってください。さぁさぁさぁ。おや、可愛らしいカピバラをお連れなんですね」


 マキリがサミエルの足元のマロに気付き、帽子を脱ぎながら(かが)み込んだ。


「こんにちはカピ。マロと言いますカピ」


「おや、喋れると言う事は、この子も能力持ちなんですね」


「はいカピ。よろしくお願いしますカピ」


「はい、よろしくお願いします。マキリと言います。マロさんも良かったら、僕たちが作ったお酒、いかがですか?」


「嬉しいですカピ! なのですが、どうやらボクはお酒に弱いみたいなのですカピ。すぐに眠くなってしまって、皆さまにご迷惑をお掛けしてしまうのですカピ」


 喜ぶマロだが、すぐに申し訳無さげに顔を伏せてしまう。するとマキリはクスリと笑った。


「構いませんよ。場所はありますから、ゆっくり休んでください。じゃあサミエルさん、マロさん、行きましょう。皆さん、後はお願いしますね。先ほど言いました通りに」


 従業員に後を託し、マキリはサミエルとマロを促した。向かったのは先程訪れた事務所の隣の建物。


 ドアを開くと、まるで食堂の様にテーブルや椅子が整然と並べられている。壁沿いにはずらりと棚や冷暗庫が置かれていた。


「適当に掛けてください。マロさんも椅子に上がってくださいね。サミエルさん、米酒は料理に使ってくださってますか?」


「ああ、はい。それはもう。あれで味に深みとか甘みとか、コクなんかも出るんで。ユリンが作る大豆の調味料と、特に合うんすよ」


「それは良かったです。で、ですね」


 マキリはニヤリと口角を上げると、冷暗庫を開け、1本のボトルを取り出した。


 透明のガラスのボトルには、透明な液体がなみなみと入っていた。


「こちら、是非飲んでみてください。マロさんも如何(いかが)ですか?」


「お、お酒でしたら、ボクは少しだけでお願いしますカピ」


「解りました」


 マキリは棚から小振りなグラスとサラダボウルを出すと、それぞれに注いだ。


「どうぞ」


「じゃ、いただきます」


 サミエルはグラスを持ち上げ、まずは香りを確かめる。そして「おお?」と驚いた声を上げた。


「これ、米酒っすね」


「その通りです」


 サミエルはグラスを傾け、ほんの少量、()める様に口に含んだ。ふた口目は少し量を増やして、じっくりと味わう。


「へぇ! これは凄い!」


 (ふく)よかながらすっきりとしていて、(ほの)かに甘みも感じる。引っ掛かる様な雑味も無く、キンと冷やされている事もあって、するりと喉を通って行く。


「旨いっすね!」


「本当ですカピ。美味しいですカピ!」


 サミエルとマロが賞賛すると、マキリは得意げに「ふふ」と笑みを浮かべた。


「そうでしょう。前に作ったものは、料理には使えたんですが、飲むにはいまいちでしたからね。美味しく飲めるものをと考えてみましたよ。サミエルさんたちにそう言って貰えたなら、これも流通させて行きますかね」


 流石に商魂(たくま)しい。そうして貰えるとサミエルも嬉しい。これはまた是非飲みたいと思う味だ。


「あ、マロ、言うの忘れてた。マキリさんも能力持ちなんだぜ。醸造酒作りの能力な」


「そうなのですカピね! だからサミエルさんはこちらのお酒ばかりを買われるのですね」


「そう言う事だ。新作が出ても間違いが無いからな。米酒は珍しく手間取ったみたいっすね」


「そうなんですよね。発酵が葡萄よりも難しいのでしょうか。でも1回目の経験がありましたからね。これは2回目に作ったものなんですよ」


「2回目でこの出来っすか。流石ですね」


 サミエルはその能力に感嘆(かんたん)する。


「まだ磨く余地はあるかと思いますけどね。新しい米酒が出来ましたら、また飲んでみてください」


「楽しみにしてます」


 さて、マロを見ると、加減して舐めていた様で、眠たそうな気配は無い。


「マロ、大丈夫か?」


「大丈夫ですカピ。マキリさんが少しにしてくれましたのでカピ。でもボクには充分美味しくいただけましたのですカピ」


 とても機嫌も良い様だ。


「それは良かったです。お酒はある程度は飲まないと強くなれませんからね。勿論限度はありますが。マロさんもよろしければ、またうちのお酒飲んでみてください」


「はいカピ。先日は白ワインをいただきましたカピ。そちらもとても美味しかったのですカピ」


 サミエルの実家で買われる酒類も、サミエルの進言に従って、この工房のものばかりなのだ。


「嬉しいですねぇ」


 マキリは本当に嬉しそうに破顔した。


「サミエルさん、マロさん、こちらの赤ワインも飲んでみてください。後こっちのエールも、麦の出来が良くて」


 マキリはそう言って、冷暗庫や棚から次々とボトルやグラスを出して来る。案の定の対応だった。これはやはり営業は明日に延期になるだろう。確実に(ほろ)酔いにはさせられる。この工房を訪ねた時の(つね)だった。


 サミエルに断る理由は無い。これが商売の一環だと判っていても、有り難くいただく事にしよう。


 おっと、マロの様子にだけは気を付けなければ。




 マキリ醸造酒工房を辞したサミエルの片手には、マキリから直接購入した米酒と赤ワインのボトルが入った袋が(かか)げられ、もう片方の肩には寝入ってしまったマロが担がれていた。

ありがとうございました!

次回もお付き合いいただけましたら嬉しいです!

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