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空から降る壺

 特にやることもなく、しかも後宮からは出られない。


 詩音は部屋を無意味に模様替えしたり、庭園で花を眺めたりして過ごした。


(やばい、これ。暇すぎて脳みそ溶けそう)



 そりゃあまとまった休みは欲しいと思ってた。

 だけど、慣れない環境で、しかも行動が制限されていて、好きにしていいと言われても、何をしたらいいか分からない。


 鞄にはスマホも入っていたが、当然電池切れだ。

 電池があったところで通信できないのだから意味もないと、奥底の方にしまった。



 ある時、詩音は建物の裏にある石でできたベンチのようなところに腰掛けていた。影になっており、直射日光が当たらず心地よい。


 どこかから笛の音が聴こえてくる。


 (綺麗な音色だなぁ……)


 その音に耳を傾けていたその時、急に眼前に、影が上から下に向けて通った。

 ガシャンという大きな音がして、右頬に熱を覚える。同時に、笛の音も止まる。


――え?


 上から、何かが落ちてきたようだ。

 右手を頬に当てて確かめると、少しだけ血が付着した。


(な、なに?)


 その姿勢のまま動けず、地面の割れたものを眺める。陶器のようだった。

 はっと気づいて上を見上げるも、人影らしきものは何も見当たらなかった。



 ここから少し離れた水場で洗濯をしていた(りん)が、音を聞いて駆けつける。


「詩音さま! 何事ですか? きゃっ大変、お怪我をされています。すぐに手当を」

「あ、うん。ありがとう」


 鈴に伴われて部屋に戻る時に、(れい)夫人が部屋から顔を覗かせた。


「今の物音は? 何かあったの?」


 詩音は、今起きたことを正直に話した。

 怜夫人は心配そうに目を細めた後、「気に病まないようにね」と言って部屋へ戻っていった。


 

 ――やっぱり、嫌がらせの類だよね?

 空から壺が降ってくるはずないし、って人間なのに降ってきた私が言うのも変かもしれないけど。

 怜夫人のあの発言だって、誰かの悪意によるものってわかったからこそだろうし。


 いや、嫌がらせというか……頭に当たってたら死んでたかもしれないんだし、殺しに来てた?



 今更ながらその事に気づき、ゾッとする。

 ちょっとしたいじめ程度なら覚悟してたけど、命を狙われるとしたら、たまったもんじゃない。


「詩音さま?痛いですか?」


 手当をしてくれている鈴が、心配そうに顔を覗き込む。


「ううん、大丈夫。ありがとう。

 この件、陛下に報告しておきたいんだけど、会わせてもらうことはできるかな?」


「あ、はい! 喬にそのように伝えておきます!」


 鈴に手当をしてもらったあとは、部屋から出る気になれなかった。


 またすぐに同じようなことがあるとは限らないが、外にいると全方位を警戒しなくてはいけない。部屋の中なら鈴も蘭もいるし、仮に侵入されるとしても経路は限られているから、いくらか安全だ。…鍵がかからない時点で、ほんとに「いくらか」程度でしかないけど。


 手持ち無沙汰で、自分の持ってきた手帳を開く。


 そういえば、仕事は大丈夫だろうか。スケジュールや必要な情報は共有のカレンダーやフォルダに入れてあるから、大体のことは誰かがフォローできるだろう。

 どちらかと言えば、自分がいなくても問題ないとわかってしまうと、居場所がなくなるのではないかという方の不安が大きかった。


(そもそも、時間の流れは同じじゃなかったな。

 向こうで3日過ごしてる間にこっちでは3カ月経ってたわけだし。同じ感じなら、まだ日付すら変わってないかもしれない。ていうか夢の線も捨てきれないし、次目が覚めたら普通に翌朝ってなってるだろうな。……夢なら、もうちょっといいことばっかり起こって欲しいわ。)


 詩音が手帳をパラパラとめくっていると、部屋の外から(きょう)が呼ぶ声がした。

 鈴が引き戸を開け、喬を招き入れる。


「橘夫人。陛下がお部屋に来て欲しいとのことです。参りましょう」

「わかりました」


 手帳を鞄にしまってから立ち上がり、喬と共に遥星のいる本殿へ向かう。

 執務室の前から喬が「陛下、橘夫人をお連れしました」と声をかけると、「入れ」と返事があった。


「失礼いたします」と喬が扉を開けると、部屋の中心に立っている()()()がいた。

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