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義兄嫁(複数)

 (れい)夫人の部屋から廊下続きとなっている、(しん)夫人の部屋へ向かう。


 さっきと同じように声をかけ、戸が開くのを待つ。

 そして同じように、中から少女が扉を開けると、挨拶に来た旨を告げる。


 「どうぞ」


 少女の合図で部屋に入ると、そこには三人の女性が机を囲んでお茶を飲んでいるところだった。


 詩音は挨拶を述べながら、失礼にならない程度に、冷静に三人を観察する。



 この国の服装のことは詳しくはないが、皆大体同じような恰好をしていた。装飾品のランクの違いくらいはあるかもしれないが、詩音にはそこまでわからなかった。



 小柄で華奢で可愛らしい、童顔の女性。

 それから、どことなく水商売っぽい雰囲気のある女性。

 対照的に、堅そうな真面目そうな雰囲気のある女性。

 


(見事に、みんなタイプが違うなぁ)


 おそらく、この三人は(しん)夫人、(かく)夫人、()夫人なのだろうが、一体どれがどの人なのだろうか。

 喬から特徴も含めて聞いておけばよかった、と思った。


 詩音は一通りの挨拶をした後、素直に聞いてみることにした。


「こちらは(しん)夫人のお部屋と伺って参りました。ご無礼ながら、蜃夫人はどなたでいらっしゃいますか」


「わらわじゃ」


 小柄な女性が、すぐに声を上げた。


「こちらが廓夫人、こちらが吏夫人じゃ」


 水商売風の女性、真面目そうな女性を順に示した。



 詩音が「以後、よろしくお願いします」と言うも、返事はない。

 三人は、座ったまま無表情でこちらをジロジロと見ている。


 聞こえなかったのかと思い、もう一度大きな声で言うも、彼女達に変化はなかった。


(うわぁ、あからさまに敵対オーラ出されてる?)


 仕方なく、「失礼します」とだけ言って、その部屋を後にした。




 はっきり言って、気味の悪い人たちだった。


 秘書課に異動してきたばかりの頃の、先輩社員を思い出す。


 あの値踏みするような視線。

 こちらが何か間違っているのかと思い聞いてみても、「そんなこともわからないの?」と答えてくれない人達。


 今はもう秘書課からはいなくなっているけど、あの頃はとても煩わしかった。


 真面目に仕事をすれば、あるいは後輩らしく素直に振る舞えば受け入れられるかと色々試みたが、どれも功を奏さなかった。具体的にいびられたり嫌がらせされたりするわけでもないので、周囲にも訴えられず悶々としていた。


 結局、詩音自身に問題があったわけではなく、いわゆる洗礼とでもいうのか、単に攻撃のための攻撃をしているということがわかったのは、詩音よりも年下の後輩が入ってきた時だった。そこでターゲットは切り替わり、詩音に対してのおかしな挙動がなくなったことで確信した、ということがあった。




 

「あの三人が一緒にいるなんて、珍しいことです」


 自室に戻って腰を下ろしたあと、蘭がそう言った。


「そうなの?」

「はい。皆さん性格や嗜好もバラバラなので、行動を共にしているところはほとんど見たことがないです。

 そもそも、佑星さまの寵愛を取り合う関係ですし…」



 詩音という異物が入ってきたから、徒党を組んで圧力をかけようとでも思ったのだろうか。


 まぁ、今考えても仕方のないことだ。

 遥星(ようせい)だって「妬まれるかも」ということは言っていたし、覚悟は出来ている。

今の時点でご機嫌取りしたところで、どうせ何かしら難癖をつけられるだけなのだから、何か起こってから考えよう。



 でも、そもそもの話。

 さっきからちょいちょい違和感を覚えながらも結局聞けずじまいになってたけど、兄がいるのに、どうして弟が皇帝なんだろう?

  

 "攻め込んだ城から攫ってきた妻"がいるくらいだから、病弱とかそういうことでもないはず。

 同じ母親から生まれてるんだから、兄の母親の方が地位が低かった、ということも考えられない。


 兄がどういう人物かはわからないが、あんな僕ちゃんな弟にわざわざ皇位を継がせる必要がどこにあるのだろう? 兄は目も当てられない馬鹿野郎だとか? だとしたら、この国やばくない?



 蜃夫人たちがあんな態度なのも、その辺りに関係しているのだろうか。



……なんて、憶測で考えても、分からないことな気がする。

 今度関係者に紹介してくれるって大臣が言ってたし、きっとその時にお兄さんも来るだろう。

 どんな人物かはその時に確かめてみよう。


 今日は、もうあまり物事を考えたくない。




(うぅーーーん、疲れた!!!)


 この日、詩音は布団に入ってすぐに眠りに落ちてしまった。


 寝る直前まで、部屋に誰かがいると落ち着かないとか、ベッド(寝台)が自宅のものより固くて寝づらいのではないかとか、不慣れな環境に不安を抱いていたりした。


 だが、実際には何かを考える余裕もなく、横になった瞬間、瞼が自動的に下りてきて(あらが)えず、そのまま意識を失った。



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