新婚初夜は暗殺と共に
「だ、誰じゃ……?」
(え、えーっと、ここは、室内?私、ビルから落ちてたはずじゃ……?)
思考が追い付いていかない。どうやらここは、どこかの部屋の中のようだ。ぼんやりとした明かりと、窓のような格子から差す月明かりのみが頼りで、あまり良くは見えないが。
「こ、ここは、どこですか? あなたは、この家の人?」
「家、というか……」
男性が何かを言いかけたその時、部屋の外からバタバタと複数の足音が近づいてきて扉の外から尋ねられた。
「陛下! 何かございましたか? 大きな物音が聞こえて参りましたが」
(……陛下!?)
すると男性は「静かに、隠れて」と小声で話しながら近付き、詩音を衝立の陰に誘導した。
訳の分からないまま、とりあえず従う。
隙間からなんとか部屋の様子が見えることを確認し、そばにあった布を頭から被って息を殺す。
「ああ、入ってきてくれ」
陛下と呼ばれた男性が言ったのを合図に、2人程部屋へ入ってきた。
「いかがなされました?」
「……これを、見よ」
「お、お妃様?……どうなさったのですか!?」
1人が駆け寄って、うつ伏せになっていた女性を上向きに返すと、右手で握った小刀がその胸に刺さっていた。
「これは.....!」
その人は慣れた手付きで首筋と手首の脈を確認し、「亡くなっています」と告げた。
「.....先程、その女が私に刃を向けようとしてきた。だが、懐から抜き出そうとした時、足を滑らせて自ら倒れ、そのまま動かなくなった」
陰で聞いていた詩音は、小さく身震いした。
(足を滑らせたって言ってるけど、やっぱり私がぶつかった衝撃であの人は.....? でも、女の人はあの男の人を殺そうとしてたってこと? なんてタイミング.....)
「この小刀には、恐らく毒も塗られていたのでしょう。傷の周りが変色しています。おそらく即死と思われますが、触れられてはいませんね?」
「あぁ、大丈夫だ」
「速やかに片付けます。それから、この女を手引きした者、及び一族を急ぎ捕らえます。よろしいですね?」
「うむ、任せる」
恐らく手伝いを呼びに行ったか指示を出しに行ったのだろう、1人が部屋を出て、残ったうちの1人が呟いた。
「それにしても、輿入れのその日に暗殺を仕掛けるなど.....なんて女だ」
「.....」
「失礼いたしました、陛下。別室でお休みになりますか?すぐにご用意いたしますが」
「いや、いい。軽く掃除だけしてくれ。ちょっと.....この部屋でゆっくりしたいので、片付けたら湯を持ってきてくれるか。茶が飲みたい。それから、しばらく誰も近づかぬようにして欲しい」
「かしこまりました」
それから、遺体の回収と清掃のためか人がどっと入ってきて、嵐のように作業をして一瞬で去っていった。
最後に、沸かした湯を持ってきた人が、周囲の見張りは強化してあるが、何かあったらすぐに鐘を鳴らして呼んでください、と言って部屋を出ていき、部屋は再び静寂に包まれた。
(わ、私、そろそろ出てもいいのかな.....?)
詩音が悩んでいると、ひょいと衝立の向こうから覗く顔があった。
「すまなかったな。身体は大丈夫か」
男性から優しく声を掛けられ、ほっと息を吐いた。
「話は聞こえていただろう、人払いをしたから、茶でも一緒に飲まぬか」
こんな状況で、お茶?
うーん.....鈍感なのか、図太いのか、慣れているのか。
とはいえ、詩音も喉が渇いて仕方がないことを自覚したので、素直にいただくことにする。
それに、色々と確かめたいことのある詩音には好都合だった。