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「さて。話も一段落したし、一旦休憩するか」


 そう言って、遥星(ようせい)は机の上の(から)の茶器を持ち上げ、部屋を出ていった。


(え、ちょっと・・・)


 置いていかれてしまった形となった詩音は、しばし呆然とする。

 あれだけの情報しか発さずに置き去りにするなんて、なんて身勝手な、と詩音は思った。



 外へ出るわけにはいかないが、部屋の中ならうろついても許されるだろう。

 詩音は椅子から立ち上がり、ジャケットを脱いで伸びをした。


 前回とは違う部屋のようだが、ここはなんだろう。

 棚に巻物が沢山あり、大きな執務机のようなところにも所狭しと積まれている。

 先程詩音が現れたところは衝立の向こうで、低い机に筆と硯が置かれていた。

 格子の窓から外の明かりも入ってくるということは今は昼間なのだろうし、仕事部屋なのかもしれない。


 詩音がもう一度椅子に腰掛け、パンプスを脱いでふくらはぎのマッサージをしようとしたところで、遥星がお盆を持って戻ってきた。

 慌てて足を靴に戻し、姿勢を正す。


(わぁ、はしたないところを.....!)



「茶と菓子を持ってきたぞ。一緒に食べよう」


 遥星はお盆を机の上に置き、とぽとぽと新しい温かいお茶を注ぐ。

 湯気から漂う香ばしい匂いと、お菓子の甘い匂いに安らぎを覚える。


 どの程度の時間部屋を開けるのか、とか、

 部屋に残された自分は何をしていれば良かったか、とか、

 そうした欲しかった情報を何も残さずに部屋を出ていったことを咎めようと思っていた。

 それなのに、この茶菓子の香りに戦意喪失させられる。


「.....これは、月餅、ですか?」


 模様の型押しされた、潰れたお饅頭のようなそれを手に取ると、ずっしりと重い。


「知っておるのか?」


「はい。近隣の国のお菓子で、私の国でも食べることができます」


「そうか.....珍しい菓子で喜んで貰おうと思ったんだが、知っていたのか。ちと残念じゃの」


 そう言ってしゅんとした顔は、まるで子供のようだった。

 何故だかフォローしなければいけないような気になって、慌てて取り繕う。


「あ、でも滅多に食べるでもありませんので!頭も使ったところだし、甘い物嬉しいです!美味しそう~」


 詩音が喜んで見せると、またもやパァッと表情を明るくした。

 

「菓子に合うように、茶は苦味のあるものにした。

 さっ、いただこうではないか」



 そうして、3度目のティータイムが始まった。



「あの、このお茶菓子は自分で取りに行ったんですか?」


 1回目も2回目も、部屋の中でだがお茶を淹れてくれていた。

 一国の皇帝陛下が、自ら歩いて茶菓子を取りに行くというのが不思議だった。


「?そうだが。何か変か?」

「いえ、人に持って来させるのが普通なのかな、と」

「まぁ、言えば持ってきてくれるだろうが…自分で選びたかったしな」


「そうですか。それならそうと部屋を出る前に言って欲しかったです。

 置いていかれたのかと、心配になりました」


 少し拗ね気味に伝えてみるも、遥星には細かい機微は伝わらないようで、

「すまんすまん」と軽く返されてしまった。



ーー掴めない。

 マイペースだということは嫌という程わかったが。


 例の同僚の言葉を借りれば、『私を理解してくれて甘やかしてくれる』存在ではないことだけは明らかだった。

 夢なら、もう完璧に自分に都合の良いキャラクターでいてくれてもいいのにな、と詩音は思った。

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