ダンジョン管理所
「ここがダンジョン管理所か……」
迷宮樹の根元、ダンジョンの入り口がある真上に建てられた管理所に、恐る恐る足を踏み入れる。
まだ朝も早い時間のため、管理所の中は人の数もまばらだ。
「えっと、たしかハリスさんはまず受付に行けって言ってたな」
ハリスさんに、一通り冒険者としての知識を教えてもらっているので、それに従って受付を探す。
ぐるりと辺りを見回して、それらしきところを発見したので、剣を手に持ってそちらへと進んだ。
「あの、すいません。成人を迎えたので冒険者の登録をしたいんですけど」
「新規の方ですね。武器はお持ちですか?」
受付に座っていたお姉さんに、アルテを手渡す。
頭の中で、マスター以外のものに触られるわけには……! とか言ってたけどそこはスルーだ。
受付のお姉さんは鞘から剣を抜き放ち、一通り眺めながらチェックを終えた後、アルテを僕の元へと返す。
「はい、確かに確認させてもらいました。いい剣をお持ちですね」
「ありがとうございます。この剣は、僕の自慢の一振りなので」
アルテを褒められて少し嬉しくなり、ついつい頬を綻ばせてしまう。
「それでは、冒険者の登録をします。このカードを持ってください」
そう言って渡された、手のひらに収まるサイズの白いカードを持つと、だんだん色が変わっていきカードに文字が書き込まれていく。
書き込まれた内容は僕の名前と年齢、そして踏破階層が示されていた。
もちろん僕はまだダンジョンにもぐったことはないので、その階数はゼロになっている。
「これで正式に冒険者として登録されました。紛失されますと再発行にお金がかかるので注意してくださいね」
「わかりました、気をつけます」
そう答えながら、僕は発行された冒険者カードを何度もひっくり返しながら、隅々まで眺める。
ファルリーレに住む人全員の憧れ、冒険者としての身分を僕もようやく手に入れることができたのだ。
まぁ、本業は合成術師なのであんまりド派手な冒険とかはできないだろうけれど。
「一応カードの説明をしますと、そのカードの色があなたの冒険者としてのランクを示しています。今は緑色なので、もっとも下のビギナーランクですね」
ふむふむ、と緑色に変わった冒険者カードを確認する。
これからランクが変わっていくごとに、このカードの色も変わるのか。
「ランクの変動は、踏破階数やモンスターの討伐状況などによって行われます。なのでランクをあげたければ、積極的にモンスターを倒し、その討伐部位を持ち帰ってきてください。もちろん持ち帰ってきた部位はこちらで買い取らせてもらいますので」
討伐部位を集め、管理所に買ってもらうというのは冒険者の基本的なお金の稼ぎ方だ。
もっとレアな素材なんかは僕たち合成術師や鍛冶屋に買われるけれど、そうでない使い道があまりないものも、この管理所では買い取ってくれる。
「管理所ではランクに従って、どの階層までなら立ち入っていいかの許可を発行しています。これは冒険者の皆様の安全のためでもあるので、必ず守ってください」
たしかハリスさんに聞いた話だと、管理所は冒険者の実力と、階層ごとの危険度を照らし合わせて、どこまでなら大きく命を危険にさらさないで済むかを調べているらしい。
この指示に従っていれば絶対安全というわけではないけど、まともに戦うことができる目標にはなると言っていた。
「さて、説明は以上です。あなたのランクだと第三層までの立ち入りが許可されますので、それより下の階には進まないようお願いします」
「わかりました」
受付のお姉さんの言葉に頷くと、それではといって立ち入り許可証が手渡される。
ついに、ダンジョンに入るための許可が下りたため、心の中が歓喜で湧き上がった。
「最後に一つだけ、注意事項です。ダンジョン内には十層ごとに、巡回主という強力なモンスターが存在するので、そのモンスターに出会った場合はすぐにお逃げください」
「……その巡回主っていうのは、結構遭遇するものなんですか?」
「いえ、あまり上の階には出ませんし、十層までは管理所が依頼した高ランクの冒険者の方が定期的に巡回主を討伐しているので滅多に遭遇はしません。ただ、初心者が命を落とす原因としては未だ巡回主との遭遇がトップなので、気をつけておくにこしたことはないです」
命を落とす、という言葉を聞いてごくりと唾を飲み込む。
これから進む先はダンジョン。
命のやりとりをする可能性も高く、ただの素材の宝庫というわけではないのだという実感が今更ながら湧いてきた。
「わかりました、細心の注意を払います」
「えぇ、そうしてください。十層までの巡回主はとにかく巨大なので、見ればすぐにわかると思います。それでは、ルトさん。あなたの冒険に幸運の女神が微笑むことを、管理所職員一同願っております。良い冒険を」
そう言って笑顔で送り出してくれた受付のお姉さんにお礼を言いながら、僕は管理所の奥へと足を進める。
期待ではやる鼓動を感じながら、ダンジョン入り口と書かれた扉をくぐり抜け、地下へと続く階段をゆっくりと降りていった。