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だってそういうお年頃

 

 青い空と白い雲、そして目の前にそびえる迷宮樹。

 今日も変わりなく君臨するこの街の象徴に、朝早くから僕とアルテは向かっていた。

 目的はもちろん、初のダンジョン潜入とアルテの試し切りだ。

 ちらほらとお店を開く用意を始めた人たちを横目に、僕たちはゆっくりと街中を通り抜けていく。


 「ふあぁ……」

 

 「眠そうだねマスター。昨日はあんまり眠れなかった?」

 

 アルテが首を傾げながら、横であくびをしている僕の顔を覗き込むようにそう問いかける。

 目に浮かんだ涙を指でこすりながら、彼女の言葉にうんと頷いた。

 

 「今日が楽しみすぎてなかなか寝付けなくってさ。アルテはよく眠れた?」

 

 「マスター子供みたい。私はよく眠れたよ。ちゃんと寝る場所も用意してもらえたし」 

 

 子供と言われて少し言い返したくなるけど、ここで彼女の口車に乗ってしまえばそれこそ子供だろう。

 ぐっとこらえて、それは良かったと笑顔で返す。

  

 「本当はアルテの部屋を用意できたらいいんだけど、今の僕にそんな余裕はないからなぁ……」

 

 剣にの姿に戻って貰えば場所には困らないのだけど、それはアルテが嫌がるので無しだ。

 とはいえ部屋がないのはどうしようもないので、今は作業場の一角に臨時の寝床をこしらえている。

 

 「私は別にマスターと同室でもいいよ? なんなら寝るのが一緒でも」

  

 「そんなことされたら僕は不眠症で死ぬと思うよ」

 

 一つ屋根の下、一緒に暮らしているというだけでも意識してしまうのに、同じ部屋で暮らしたりなんかしたら、心が落ち着く暇もないだろう。

 

 「そのうちアルテの部屋を用意できるくらい稼いで見せるから、それまで我慢して欲しいな」

 

 「わかったよマスター、期待しないで待ってる」

 

 す、少しは期待してくれてもいいんだよ? と声を震わせながら口にする。

 とは言ったものの、実際僕も改築費用なんていつになったら捻出できるのか見当もつかない。

 ダンジョンに行けるようになったことで、今よりも収入が上がることを期待しよう。

 

 

 

 ファルリーレの住民が起きだす前に街を通り抜け、正門から街の外へと出る。

 しばらく歩くと頭上を迷宮樹の巨大な枝と多くの葉が覆い始め、あたりがだんだんと薄暗くなってきた。

 

 「さて、周りに人もいないしそろそろかな」

 

 きょろきょろと辺りを見回し、人がいないのを確認してからアルテの手を取って、近くにあった物陰へと連れ込む。

 されるがままにされていたアルテはなぜか、頬を赤らめながら潤んだ目でこちらを見つめていた。 


 「マスター、こういうのはもう少し親しくなってからがいいかな……」

 

 「何を言っているのかわからないけど、ただ少しだけ剣の姿に戻ってもらうだけだよ。ダンジョンに入るには武器を持ってないといけないから」

 

 ダンジョンに入るときには、迷宮樹の根元にある管理所に自分の武器を登録しないといけない。

 15歳以上であることと、武器を持っていることで、冒険者と認められダンジョンに入ることが認められる。

 アルテを物陰に連れ込んだのは、人から剣へと姿が変わるところを誰かに見られるとまずいからであって、決していかがわしい意味はない。

 

 「あんまり気は進まないけどしょうがないね。落としたりしたら嫌だよ?」

 

 そう言ってアルテは僕の手を握りながら、その体に光をまとっていく。

 やがて光が収まった後には、銀の鞘に収まった剣が僕の手の中にあった。

 その剣を腰の剣に差し、ふたたび迷宮樹の根元に向かって歩き出す。 


 『二人でダンジョンに入れるように、いっその事マスターも普通の剣を買ったらどう?』

 

 頭の中に鳴り響くアルテの声に、いやいやと首を振って答える。

 

 「それじゃあわざわざアルテを作った意味がなくなっちゃうじゃん」

  

 『それもそうね。それに私もマスターの剣として、他の安物の剣に浮気されてるみたいでちょっと嫌な気持ちになるし』

 

 なら提案しなきゃいいのにと思いつつも、そこはわざわざ口には出さない。

 だって僕は今日からもう、正式な大人なのだから。

 

 『そういえばこの状態のときはマスターの思考もだだ漏れだから気をつけてね』

 

 「そういう事は早く言ってよ! えっ、ていうか困るんだけどそれっ!」

 

 突如告げられた衝撃の事実に、思わず僕は悲痛な叫びをあげる。

 普段考えているあんなことやこんなことがアルテにバレるのは非常にまずい。

 

 『でもしょうがないよね、帯剣してないとダンジョンに入れないんだし』

 

 「くっ、背に腹は変えられないか……!」

 

 アルテの言う通り、この状態でなければダンジョンへの立ち入りは許可されない。

 もうなるようになれと腹をくくり、なるべく無心で一歩、また一歩と先へ進む。

 読まれて困るようなものを思い浮かばなければ、別にどうということはないのだ。

 

 『ところでマスター、普段考えているあんなことやこんなことってどんなことなの?』

 

 「お願いだから黙ってアルテ」


 今後なるべくアルテを剣の姿にはさせないと心に刻み込みつつ、アルテの言葉を振り払うように頭を左右に揺らす。 

 彼女の言葉に刺激されて、浮かび上がりそうになる邪な気持ちを思考の底へ底へと押し隠し、冷や汗を垂らしながらダンジョンの管理所へと足を運んだ。

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