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看板娘

 巡回主の素材を元に黒焦げを生成するという大失態を犯したものの、その後の合成は割と上手くいった。

 大量のスライムの核はすべて初級ポーションになり、すでに店に並べてある。

 購入した素材で合成を行うのと出来上がるものは変わりがないけれど、やはり自分でとってきた素材で商品を作るというのは、また違った感動があった。

 まぁ実際にモンスターを討伐していたのはアルテなのだけど。


 「マスター、これはお店に出さなくていいの?」

 

 陳列棚に置いた商品を整理していると、後ろからアルテに声をかけられる。

 振り向くと彼女は、作業場におきっぱなしだった初級ポーションを何本か手に持っていた。

  

 「うん、それはそこに置いておいて大丈夫」

 

 そっか、と言ってポーションを机に置いた後、アルテはぐるりと周りを見渡して、すたすたと僕の方に近づいてくる。

 

 「マスター、私にもなにか手伝える事ないかな?」

 

 「うーん、手伝いかぁ。商品の整理は終わっちゃったしなぁ」

 

 どうやら手持ち無沙汰なようで、何かアルテに手伝ってもらえる事はないかと考えるがなかなか思いつかない。

 これからこの店で一緒に暮らしていく以上、アルテにも働いてもらえれば最高なのだけど、いままで一人でお店を回してきたから他人に仕事を割り振るという考えが無かった。

 

 「待てよ……」

 

 ふといい案が浮かび、じっとアルテの顔を見つめる。

 見つめられた彼女は、何事かときょとんとした表情で小さく首をかしげた。

 そんな可愛らしいアルテをみながら、これはいけると思い立ち、アルテに一つ提案をしようとしたところで、お店の扉が開かれた。

 今日は閉店中なのでお客がくるはずはなく、訪ねてくるとすればもともと約束をしていた人だろう。

 そう思い振り返ってみれば、予想通りユリアが不安そうな顔で入ってくるのが見えた。 


 「お邪魔します……」

 

 「いらっしゃいませ。ちゃんとお店の場所がわかったみたいでよかったよ」

 

 本当にここであっているのか確かめるようにきょろきょろ周りを見ているユリアに、店の奥から声をかける。

 僕の姿を見つけた彼女は、ほっと安堵の息を吐いて、こちらへと近づいてきた。

 

 「間違えてなくてよかったです。ルトさんこんな立派なお店を持ってるなんてすごいですね」

 

 興味津々といった様子で店の中を見渡すユリアをみながら、弱小合成店だけどね、と頭をかきつつ、苦笑で返す。

 

 「合成店に来るのは初めて?」

 

 「初めてです。冒険者になったのもつい最近なので……。そういうお店があるっていう事は知っていたんですけど」

 

 冒険者になりたてのものが、合成店を使う事は珍しい。

 合成店に売れるような上質な素材は初心者が通う上層のダンジョンでは手に入らないので、すべて管理所で精算してしまうし、冒険に必要な道具も上層程度なら管理所で買えるもので事足りる。

 冒険者が合成店の世話になるのは、十層より下に潜れるようになってからが普通だ。

 

 「一応お店でも初心者向けの道具って売ってるんだけど、なかなか皆知らないもんなぁ」

  

 もちろん僕の合成店では、初心者向けの道具も売り出している。

 管理所で買うよりも割安にしているし、作り置きのポーションと違って出来立てのポーションの方が効果が高い。

 とはいえしっかり宣伝している余裕もないので、なかなか冒険者になったばかりの人には店の存在が知れ渡っていないという問題を抱えていた。

 

 「本当だ、しかも安いですね! 私もここで道具買うようにしようかな……」

 

 「ぜひとも! パーティメンバーだし、割引するからお願い!」

 

 必死すぎだよマスター、と後ろからアルテに諌められるけれど、お得意様を確保できるかは生活に関わってくる。

 飢えないために必死になるのは、生物として当然の反応だ。

 

 「そ、それじゃあ道具を買うときはよろしくお願いしますね」

 

 若干引かれつつも、ユリアは笑顔で頷いてくれた。

 ぐっと心の中で拳をにぎしめながら、ありがとうとお礼を言う。

 

 「それにしてもいいですね、こういうお店。こういう場所で働くの、ちょっと憧れちゃいます」

 

 本人は何の気なしに言ったであろうその言葉を、僕は一言一句聞き逃さなかった。

 

 「……じゃあ働いてみる?」

 

 僕が口にした言葉を聞いて、え? とユリアは体を固まらせる。

 そんな彼女とアルテを交互にみながら、僕はさっき思いついた提案を改めて彼女たちにすることにした。


  



 「売り子……ですか?」

 

 「そう! 冒険の合間でいいから、僕のお店で売り子をやって欲しいんだ」

 

 思いついた案というのは、アルテとユリアにお客の呼び込みをやってもらうというものだった。

 アルテは言わずもがな、ユリアも端正な顔立ちをしているため、彼女たちにお店の看板娘となってもらえればとても心強い。

 合成店なら売る道具で勝負するべきとは思うけれど、商売相手が相手なので背に腹は変えられないのだ。

 

 「マスター、なんか目がお金になってる気がするんだけど」

 

 「気のせいだよアルテ」

 

 それに、二人にお店を任せられれば、僕は合成に専念できる。

 日中も合成術の修行に使えるし、今後自分でダンジョンに出向くことも多くなるだろうから、合成の回数も増えるだろう。

 アルテも暇にならなくて済むし、割といい案だと思えた。

 

 「売り子ですか。駆け出しの冒険者はお金の入りもすくないので、働く場所をもらえるのは嬉しいですね」

 

 「本当!?」

 

 ユリアには言ってみただけで、断られるだろうと思っていたのだけれど、意外にも乗り気らしい。

 冒険者稼業の合間ならということで、小遣い稼ぎとしてでよければと引き受けてくれた。

 

 「さて、そうと決まればミレアさんに一つお願い事をしなくちゃな」

 

 もう少ししたら、ミレアさんも休みを取る時間のはずだ。

 そこを見計らって、二人を連れて一度会いに行こう。


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