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本日の成果

 迷宮樹の根元、差し込む木漏れ日の下で、ユリアははぁと大きく深呼吸をする。

 

 「もう二度と、日の光を見れないと思いました」

 

 再び地上に出てこれたことが余程嬉しいのか、彼女は僕の方を見て心の底から嬉しそうに笑った。

 三層という浅い階層で、巡回主に遭遇するほどの不運は早々起こるはずもなく、あの後は無事にダンジョンの外に出ることができた。

 僕特製包帯の効果もあってか、ユリアの足取りもずいぶん回復してきている。

 

 「それじゃあ僕たちはこれで。またダンジョンで会うことがあったらその時はよろしくね」

 

 もう一人で歩けるようだし、ダンジョンの外まで出てしまえば危険はない。

 そろそろ別れ時だと思い、挨拶を告げてユリアに背を向ける。 


 「……あの!」

 

 と、すぐにユリアに呼び止められた。

 振り返ると彼女は何かを言いたそうにしながら、下を向いてもじもじとしている。

 

 「どうしたの?」

 

 何だろうと思い、首を傾げて尋ねると、決心したようにユリアはがばっと顔を上げた。

 

 「私と、パーティを組んでもらえませんか!」

 

 勇気を振り絞ったのだろう、普段より少し上ずった声で、彼女はそう口にする。

 予想外の内容に目を丸くして、僕はその言葉を飲み込んだ。

 

 「えっと、僕達と?」

 

 「はい!私、冒険者になったばっかりなんですけど、一緒にパーティを組んでくれるような知り合いがいなくて。それで仕方なく一人で潜ってたんですけど、今日のことで一人が危険だってことを嫌というほど学んだので」

 

 アルテさんは強いですし、ルトさんは優しいし、と続けられ、少し照れてしまう。

 アルテもそう言われて悪い気はしないようで、僕の隣で満更でもない表情を浮かべていた。

 

 「なんて、今日知り合ったばかりの人にそんなこと言われても迷惑ですよね。私別にそんなに役に立つわけでもないし……」 


 言っている最中に自信がなくなったのか、最初に比べるとどんどん衰えていく声の勢いとともに、ユリアはの視線もだんだん下に下がっていく。

 

 「僕は構わないけど、アルテはどう?」

 

 「私もマスターと同意見。私は前衛タイプだから、後衛のユリアと組むのは悪くないと思う」

 

 僕達の会話を聞いて、うつむき気味だったユリアは顔を上げ、ぱぁっと笑顔を咲かせる。


 「本当ですか!?」

 

 「もちろん。これからよろしくねユリア」

 

 思わぬところで得た新しい仲間に、僕は改めて手を差し出した。

 その手を取って、僕達の新たなパーティメンバー、魔法使いのユリアは、こちらこそよろしくお願いします、と嬉しそうに微笑んだ。


 

 

 

 パーティ結成の約束をした後、今後の方針を話そうということになり、僕は一度自宅へと帰ってきた。

 ユリアは何か用事があるそうで、お店の場所だけ伝え、用が済み次第こちらに来るということになっている。

 

 「一時はどうなることかと思ったけど、無事帰ってこれたー!」 

 

 家に帰ってきたという実感が湧くと、どっと疲れがでてきたので、そのまま床に寝っ転がった。

 アルテも同じように、僕の隣によいしょと転がる。

 

 「お疲れ様アルテ」

 

 「ありがとマスター。どう? 私のありがたさは実感できた?」

 

 冗談めかして笑うアルテに、そりゃもう嫌という程、と笑って返す。

 

 「さて、このまま寝ちゃいたいところだけど、ユリアが来る前にお仕事済ませちゃわなきゃ」

 

 重い体をゆっくり起こし、道具袋から今日の収穫を取り出した。

 どっさりと思い麻袋の中には、大量のスライムの核の他、迷宮主を倒して手に入れたスプリガンの硬皮なんてものもある。

 

 「それどうするの?」

 

 「もちろん合成につかうよ」

 

 スライムの核は、体力ポーションや魔力ポーションを作るレシピ合成で使えるので、全部ポーションに変えてしまおう。

 スプリガンの硬皮は、ランダム合成行きにしようか。

 

 「そういえばマスターが合成するところってみたことないし、私も見ていい?」

 

 「ん、いいよ。じゃあそこで立ってて」

 

 合成鍋から少し離れたところにあるてアルテをたたせ、テキパキと慣れた合成の準備をする。

 鍋の中に水を張って呪文を唱え、机の上に投入する素材を並べた。

 銀色の水が張られた鍋の中に、スプリガンの硬皮と、前にもらった皮鎧を投げ込む。

 うまくいけば、出来のいい防具ができるはず。

 

 「じゃあ始めるから、そこで見ててね」

 

 僕の言葉にこくりとうなずき、アルテは興味津々といった様子で鍋の中を覗き込んでいる。

 そんな彼女を横目に、僕は台座に手を乗せ合成開始! と声を上げた。

 

 「……これが完成品?」


 「……」

 

 鍋から溢れる光が消えた後、てくてくと歩み寄ったアルテが鍋から取り出したのは、真っ黒な塊。

 見習い時代嫌という程見た、合成失敗時に生成される焦げのような何か。

 

 「……マスター」

 

 「……まぁそんなにいっつも上手くはいかないよね」

 

 カルツさんの時と、アルテ、二度も大当たりをひいた後だ。

 その分の失敗が今きたと思えば、なんて考えるもやっぱり失敗すると悲しい。

 しかも初めてアルテと狩った巡回主の素材なんていうレアもので、こんな結果をだしてしまうとは。

 

 「元気出してマスター。また素材取ってこよう?」

 

 「うぅ、不甲斐ないマスターでごめんよアルテ……」


 肩を落とした僕をよしよしよ慰めてくれるアルテをみながら、失敗を減らすためにもっと合成術の修練に力を入れようと心の中で改て決意をした。

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