表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

魔法使いとの出会い


 「……あの、助けてくれてありがとうございます」

 

 僕の元に戻ってきたアルテを見て、魔法使いの女の子は体を起こし深々と頭をさげる。

 命の危険が去った安心感からか、その瞳からは涙が流れていた。

  

 「大丈夫? 僕たちが近くにいるから、落ち着くまでここで休んでいこうか」

 

 アルテにあたりの警戒を任せ、僕も女の子の隣に座り込む。

 戦いではアルテに任せっきりだったから、ここからは僕の出番だ。

 背負っていた道具袋を下ろし、中から小瓶と布切れ、そして包帯を取り出す。

 

 「足を痛めたんだよね? どこが痛い?」

 

 僕の質問に、女の子は左足首を指差した。

 ちょっと触るよ、と断ってから、靴を脱がし足首を確認する。

 そっと触れただけでも顔をしかめるほど痛いようで、なるべく刺激を与えないように足首を露出させた。

 白くほっそりとした足は、間接の部分だけ赤く腫れ上がり、見るだけで痛々しい。

 布切れに小瓶の中身を数滴垂らし、ゆっくりと腫れた部分を拭う。


 「痛っ……!」

 

 「ごめんね、ちょっと我慢して」

 

 この小瓶の中身はお店で作った回復ポーションなので、これくらいの炎症ならばかなり抑えられるはずだ。

 しばらくすると目に見えて肌の赤い色が薄れてきた。

 それを確認してから足首にぐるぐると包帯を巻いていく。

 この包帯はただの包帯ではなく、ランダム合成でポーションと普通の包帯を投げ込んだら出来上がったものだ。

 ポーションのように急激な回復はできないが、包帯を巻いている間は常に治癒の効果が発動するので、時間がたてばたつほど効果が大きくなる。

 ちなみにこの包帯にはレシピが無く、僕の店でしか買えないので、知る人ぞ知る人気商品だ。

  

 「どう? 少しは楽になったかな?」

 

 涙も少し治まってきたようで、ごしごしと目元を擦ってから、女の子は恐る恐る足首を回す。

 少しぎこちなくはあるが、さっきまでのように小さな刺激で激痛が走るということは無いようだ。


 「ちょっと痛いですけど、ずいぶん楽になりました。本当にありがとうございます」

 

 「ならよかった。いや本当、君の目の前にいるのが巡回主だとわかった時にはどうなることかと……」

 

 僕一人じゃ何もできなかっただろう。

 まさにアルテ様様といったところだ。

 

 「あなたの剣が私でよかったねマスター」

 

 「本当にね。助かったよアルテ」

 

 女の子が動けるようになったのを確認し、あたりを見回っていたアルテが戻って来る。

 したり顏で胸を張るアルテに、苦笑しつつもその通りだと首を縦に振った。


 「アルテ、さんですよね。巡回主を倒してしまうなんて、すごく強いんですね」

 

 「私? まぁ私は誇り高い精霊け……もごっ!?」

  

 危うく自分の正体を口走りそうになるアルテの口を、急いで手で塞ぐ。

 アルテの異常な戦闘力がばれてしまったのは仕方ないにしても、精霊剣だということまでバレるわけにはいかない。

 

 「そういえば、君の名前を聞いてなかったっけ。ちなみに僕の名前はルトね」

 

 アルテの口を押さえながら、顔だけ女の子の方に向けて、名前を尋ねる。

 

 「あ、えっと、私ユリアです」

 

 ユリアね、と頷いてから、僕はまっすぐ彼女の瞳を見つめて、今日一番真剣な表情で口を開く。 


 「一つ、お願いがあるんだユリア。今日ここでの戦いは、誰にも喋らないでほしい」

 

 「それは構わないですけど……」

 

 その表情にはなぜそんなことを? という疑問がありありと浮かんでいた。

 冒険者にとって、巡回主の討伐は確実に実績になるし、名誉も上がる。

 秘密にしておいていいことなど一つもない。

 けれど、僕の場合は違う。

 下手なことをして名が売れてしまえば、アルテの正体を詮索され、かなり特異な精霊剣だということがそのうち確実にバレるだろう。

 そうなれば当然入手経路の話になり、行き着く先は僕の右腕だ。 


 「……ちょっと訳あり、ってことで納得してくれると嬉しいな」

 

 「そういうことなら、わかりました」

 

 納得はいっていないようだけれど、助けてもらった恩もあってか、ユリアはそれ以上の追求はしてこなかった。

 良い子でよかったとほっと小さく息をつく。


 と、ばしばしと腕を叩かれ、何事かとアルテの方へと顔を向けた。

 みれば僕に口を塞がれたままのアルテは青い顔をして僕の手をひっぱがそうとしており、慌てて彼女の口から手を離す。

 ぜーはーと荒い息を吐きながら、アルテは恨めしげに僕の目を見つめる。

 

 「殺す気かなマスター! マスターに殺されるなら本望ではあるけど」

 

 「そのセリフちょっと怖いよ」

 

 そもそも精霊であるアルテが口を塞がれたくらいで窒息死するのか、という気もするが、近くにユリアもいるので黙ってアルテの文句を聞き流す。

 

 「さて、ユリアちゃん、だっけ? もう動けそうなの?」

 

 口を押さえられながらも話は聞いていたらしいアルテが、ユリアの方へと顔を向けた。

 ユリアもはいと頷いて、ゆっくりと立ち上がる。

 とんとん、と数歩歩いてみて、とりあえず動けることは確認できたようだ。

 

 「それじゃあゆっくりでいいからダンジョンから出ようか。僕たちも一緒に引き上げるから」

  

 アルテもいいよね? と尋ねると、さっきので満足できたと笑顔で返される。

 彼女の了承も得られたので、ユリアのペースに合わせてゆっくりと出口を目指し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ